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過去との対峙 2

 ボードウィンの背中を見ながらアストールはライルに小声で聞いていた。


「あの、ライル殿?」

「はい」

「あなたの配下ですよね?」

「ええ。まあ、一応……」


 ライルは苦笑してアストールの耳元で囁くようにして答えた。


「少しここでは話しずらいので、二階に行きましょう」


 ライルがそう言ってアストールと共に二階へと上がっていく。

 それをボードウィンは横目でみながら、ケッと言いながら二人から顔を背けていた。

 アストールはライルと共に二階に来ると彼は、安堵した溜息を吐いてアストールに向き直る。


「彼らは僕の管轄外から来た人達でしてね、形式上黒龍騎士団に所属となっていますけど、元々は私の部下じゃないんです」


 ライルは大きく溜息を吐いていた。

 その溜息からは普段から彼らとライルの関係が上手くいっていない事がうかがい知れる。

 アストールはライルを見ながら聞き返していた。


「では、彼らはどういった方々なので?」

「公国騎士保安内務調査局に所属している人達です。一応我が国の中では騎士という扱いにはなっていますけど、その仕事柄、とても騎士道に準ずるとは言えない仕事ばかりで、見えない騎士とも揶揄されて、一部の公務官からは恐れられてるんです」

「見えない騎士……ですか」

「はい。諜報、暗殺、破壊工作と言った事柄をこなす公国の暗部エリート騎士です」

「公国にそんな組織があるとは知りませんでした」


 ライルの言葉を聞いて、アストールは驚いていた。

 公国に裏工作をするような組織がある事など、想像もしていなかったのだ。

 だが、ふとエドワルドの事を思い出して、その認識を改める。


 あのエドワルドという男は剽軽ひょうきんに見えて、何をしてでも国を守ろうとする強かさを持ち合わせている男だ。そんな公爵であれば、そう言った組織を持っていても違和感はない。


「表向きには、国内治安維持組織ですからね」

「それで私は、あの人たちと共にエストルを捕まえると……」


 アストールはそう言って先程の男たちの事を思い出す。

 明らかに女である自分が、エストルを捕縛しに来たのを不満に思っている。

 それがありありと感じ取れた。

 お互いに信頼関係のない状態で、果たして魔導兵器を持っているかもしれないエストルを、上手く捕縛できるのか。アストールは不安で仕方がなくなる。

 彼女かれは小さく溜息を吐いていた。


「その際は、我々黒龍騎士団の騎士と兵200名も動員する予定です」

「それで兵舎であんなに沢山の兵士が練兵を行っていたんですか?」


 アストールの問いかけに対して、ライルは苦笑していた。


「はい。エドワルド公爵殿下の命ですからね」


 ライルはそう言うと部屋の窓の方まで歩んで外を見る。

 外は真っ白に雪化粧していて、森林地帯もその形を潜めて居る。

 憂鬱そうに頭を抱えたライルは、溜息を吐いていた。


「さて、そろそろボードウィンの所に戻ろう」

「は、はい」

「彼なら、エストルの屋敷の近くまで案内してくれるはずだ」


 アストールはライルと共にロビーへと戻ってきていた。

 二人を見たボードウィンは彼らの前まで来ると、ライルに目を向ける。


「ところでエスティナ殿をお連れしたという事は、エストルの屋敷近くまで行くという事で?」

「ああ、そう言う事だ」

「そうですか、なら、ご案内しましょう」


 ボードウィンはそう言って入り口前のコート掛けから、自分のコートを手に取っていた。

 彼はコートを羽織ると扉を開けて外に出る。ライルとアストールもそれに続いていた。

 屋敷の外は肌を刺すような寒さであり、白く雪化粧した森でも、木の幹だけは茶色を保っている。

 ボードウィンはついてきた二人に向き直ると、腕を組んで忠告する。


「ここから先は馬では移動しません。エストルの潜む屋敷の上側にある監視小屋へと向かいます。お二人とも絶対に離れないように」


 ボードウインはそう言うと道には出ずに、雪の積もった森の中を歩きだしていた。

 彼の通る場所は獣が通ったようにへこんでいる。


 その後をアストールとライルは進んでいく。

 雪の斜面でアストールは滑りそうになるのを、何とかこらえながら進み続ける。

 三人が暫く進むも一切屋敷を見る事はない。

 それからどれだけ歩き続けたのか、アストールは外套の下で汗をかいていた。体は火照り、雪中であるにもかかわらず、手足の先まで冷える事はなかった。


 かなり上がったであろう場所で、ボードウィンは指をさしていた。

 その先には一つの小屋がぽつんと建てられており、煙突からは煙が上がっている。アストールはそれを見て安堵の溜息を吐いていた。


「あれが、監視小屋ですか?」

「はい」


 ボードウィンはそう言うと、アストールとライルをその小屋へと招き入れていた。

 幾ら小屋とは言え、中は幸いにして暖炉があり、焚火がたかれていた。

 そして、その焚火番をする人員が一人、扉も気にせずに作業を続けている。


「客人ですかい?」


 火の番をしている男は振り向くことなく、ボードウインに告げていた。


「ああ、ライル殿とヴェルムンティア王国からの客人だ」


 その言葉を聞いてようやくアストールに興味を持ったのか、暖炉の前の男は三人に向き直る。


「俺はてっきり小屋で寒いから、女で暖まれって連れてきてくれたのかと思いましたぜ」


 冗談半分に男がそう言ってアストールを見据えていた。

 その視線の中には、男特有の下心も感じられる。

 機微にそれを感じ取るもアストールは気丈に振る舞っていた。


「冗談でもそう言った事を言われるのは、私としては不本意です!」

「すまねえ! さすがに監視中にそんな事はしねえよ」


 軽口を叩く男はそう言って小屋の中の窓の前へと向かっていた。

 そこからは何も見えないものの、少し向こうが崖となっていて、コリンゲンの町が見えていた。


「この崖下にエストルの潜んでいる屋敷があるんだ」

「そうなんですか?」

「ああ、この小屋はあくまでも一時拠点、監視は外に出て交代で行ってる。そろそろ交代の時間だ。一緒に行くか?」


 アストールは男にそう促され、共に向かう事を決断する。

 小屋には真っ白な外套が何個かかかっており、雪の中でも目立ちにくい様になっている。

 男に外套を浸けるように言われて、4人は白い外套を身に纏って外に出ていた。

 雪の中を三人は進んでいくと、木々ある林の方へとついていた。


 その林に一人の男が座っており、その先には屋敷が見えていた。

 崖下の屋敷の屋根の上には、屋上テラスがあり、そこで兵士が外を監視している。

 屋敷の上からは正規の道路が見えており、不用意に近づけばすぐに察知されるだろう。


 また、巨大な屋敷の構造は設計図を見た通りで、特に改築された様子はない。

 高い塀に囲まれた屋敷の中庭は、この崖の上からも確認はできない。

 実際に見てみると、崖側にも兵が張り巡らされていて、ここから直接降りたとしても、屋敷には侵入はできないだろう。


 鉄壁の守りを前に、アストールはこの屋敷がまるで城の様に感じられた。

 屋敷の窓からは弓などで射かけることもできるだろう。

 正面からの突入は、とてもではないが、やらない方がいいだろう。

 アストールは屋敷の立地を見て、いい方策を思いついていた。


「ここから屋敷に矢を射れば、届きそうね」


 アストールの呟きを聞いてライルは彼女かれの顔を見る。


「何をなさるおつもりで?」

「立て籠られると面倒でしょ。なら、いっそのこと燻りだしてしまえばいいじゃない?」

「え?」

「ライル殿の攻撃隊は弓を射れる者はいますか?」

「少数ですが、居ます」

「なら、襲撃の時は、その弓兵に火矢を屋敷に射掛けてもらいましょう」


 アストールの言葉を聞いてライルは背筋を凍らせる。

 実際彼の言っている事はとても合理的ではある。だが、その戦い方は決して騎士としては褒められたものではない。屋敷を燃やしてしまえば、嫌でもエストル達は出てこざる負えないだろう。


「全く、恐ろしい女だな」


 ボードウィンはそう言ってアストールを見て呟いていた。

 何よりもあそこには使用人などの非戦闘員もいる事は十分に想定できる。

 それも考慮して焼いてしまおうと言っているのだ。


「しかし、燃えますかな?」

「あの屋敷の半分は木造構造でしょ。二階から上は木造ですから、とにかく火矢を沢山射かければ燃えるはずよ」


 アストールは口を吊り上げて屋敷を見据える。

 これから戦うというのに恐れる処か、容赦なく屋敷を焼き討ちするという選択をして笑みを浮かべていた。ボードウィンはそんなアストールを見て、彼女かれが戦える人間であると判断して安堵していた。


「他にも見たい場所があるから、ボードウィン様、案内お願いできますか?」


 アストールはそう言って屋敷周囲を見渡す。ボードウィンは戦う女性を前に、微笑を浮かべていた。


「いいだろう。お前の戦い方、見せてもらおうじゃないか」


 アストールとボードウィン、ライルの三人は屋敷の見える他の場所へと向かって歩き出していた。


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― 新着の感想 ―
そりゃまあ、元は男ですからね……容赦無いのも当然と言うか……です
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