そうだ、温泉に行こう! 2
アストール達4人は目的の場所へと辿り着くと、木製の扉を閉めて閂で戸締りをしていた。
部屋はコンクリート製であり、木製の長机が二つ置かれている。
周りには長机があり、そこで脱いだ服を置けるようになっていた。
エメリナとアストールは早々に服を脱ぎだすも、レニは顔を真っ赤にして部屋の端っこでうずくまる。メアリーもまた服を脱ぐのを躊躇っていた。
「あれー、二人ともお風呂入らないの?」
既に下着姿になっているエメリナが、きょとんとして二人に問いかける。
「だ、だだって、レニがいるんだよ?」
メアリーが動揺して言うものの、相変わらずの態度でエメリナは答えていた。
「うん、それがどうかしたの?」
「それがどうかしたの? じゃないの! レニは男の子で! 私達は女よ」
エメリナは一瞬考えるそぶりを見せるも、即答していた。
「うーん。まあ、可愛いから、大丈夫でしょ!」
「そういう問題!?」
「だって、私達の仲間でしょ。それにレニだって、一度はエスティナの裸に近い姿見た事あるわけだしね」
エメリナの言葉に、レニが部屋の端っこで蹲ったまま答えていた。
「あ、あれは! 治療であって、その今とは状況が……」
「ふーん。そんなもんかな?」
エメリナは下着も全て脱ぎ終えていた。
「てことで、お先に入るねー」
エメリナは服を脱ぎ終えて、早々にお風呂に入っていく。
アストールも下着を脱いでメアリーをニヤニヤ見ながら言う。
「うん、それじゃあ、私もお風呂を久々に“堪能”してくるわ!」
意味深に言うアストールを見て、メアリーはハッとなる。
アストールの見た目は女でも、中身は男なのだ。堪能の意味を瞬時に察したメアリーは、即座に服を脱いでいく。
(あのエロ男め! エメリナの裸を堪能するつもりね!)
メアリーもすぐに裸になってタオルを手に持つと、慌ててお風呂に入っていく。
それを直視できなかったレニは、嵐が過ぎ去った事に少しだけ安堵していた。なぜなら、自分の意志とは反して一向に暴れて収まらない“愚息”を隠すように蹲っていたからだ。
「うぅ……、なんで同意しちゃったんだろう……」
レニは一向に興奮冷めやらぬ中、何とか愚息を治める方法を考える。
ふと、全能神アルキウスの駕籠で、愚息の血行を悪くする事を思いつくも、顔をぶんぶんと振っていた。
「こ、こんなことの為に魔法を使うなんて、最低ですよね」
レニは正直に自分と向き合う事を決心して立ち上がる。
そして、神官服を脱いで下着も脱いで生まれたままの姿になる。
もちろん暴れ息子は、ギンギンに生きり散らかしている。
そこへ、エメリナが扉を開けてレニを呼びに戻ってきていた。
「レニ、早くおいで! ここの浴場ね あ……。すごい、事になってるから……」
エメリナの視線は自然とレニの生きり散らかしている息子にくぎ付けになっていた。
「ひゃ、ひゃん!! みみみみみ! 見ないでください!」
慌てて手とタオルで隠すレニに、エメリナはちょっと罪悪感を感じつつ言う。
「あー、そのー、レニ、人間だもの。気にすることないよー」
エメリナの言葉にレニは顔を真っ赤にして、再び蹲っていた。
「うぅ。もう、お婿にいけない……」
「まぁ、皆気にしてないから、早く入っておいで!」
エメリナはそう告げると再びお風呂へと戻っていく。
レニは逆にその言葉が傷ついていた。
「ええ……。僕って、そんな男っぽくないんですかぁ……」
そのおかげか、急速に男としての自信が喪失され、さっきまで生きり散らかしていた息子も意気消沈となっていた。
レニはよろけながら、お風呂へと向かう。
扉を開ければ、コンクリート製の四角い湯舟があり、天井はなく露天風呂となっている。
周囲の壁もコンクリートで囲まれているが、広い浴場のおかげか圧迫感はない。
湯気が立ち上っていて、結構な温度がある浴場と思えた。
壁は四角い大きなタイルが貼られていて、そのタイルは全て白い。
入り口には槍を持った兵士の彫像があり、浴場を警備している。
湯舟の壁際両端には壺を肩に抱えた女性の彫像があり、その壺からお湯が出てきて湯舟に注がれている。何よりも目を引いたのは、床面にあるタイルだ。
タイルで作られたモザイク画は、雄牛とストールを羽織って杖を持った古代魔法帝国貴族が描かれているのだ。これだけ豪華絢爛な浴場を前にしてしまうと、その雰囲気に圧倒されて、レニもアストールも欲情するどころではなかった。
「ね、凄いでしょ!」
エメリナがレニに話しかける。
アストールは浴槽に浸かる前に、髪の毛を解かしていた。
椅子に座ったアストールの後ろで、メアリーが体にタオルを巻いたまま、髪の毛にお湯をかけた後、オイルを塗りこんでいた。
香料の入った洗髪用オイルを髪の毛に浸しており、花の良い香りが浴場に充満していた。
その光景にレニは呆気に取られていた。
レヒは上品なアストールの姿に目を取られる。
エメリナもそこに加わろうとしていた。
レニはそんな女性たちを前に、早々に浴槽よりお湯を汲んで体をタオルでこする。そして、ある程度体の垢を流し落とすと、お湯をかぶって広い湯舟に浸かっていた。
「はぁー。気持ちいい」
レニはそう言って湯舟に肩まで浸かる。
久しぶりに浸かる湯舟に、レニは旅の疲れを癒される。
「こんなにゆっくりするのいつぶりだろう……」
レニは大きく息を吸ったあと、湯舟に顔を浸ける。
そして、湯舟の中に潜っていた。
暫く湯舟の中に潜っていたが、またすぐに水面より顔を出す。
「っぷはあ! 気持ちい!!」
「さて、そろそろ湯舟に浸かろうか!」
レニの後ろから声がかかり、レニは慌てて女子三人とは距離を取るように浴槽の端に移動していた。もちろん三人に息子を見られないように両手を股間に充てている。
「レニ、いらっしゃい!」
アストールが笑顔で声をかける。
レニの横を通り過ぎて三人は浴槽に体を浸けていた。
彼女の胸は大きいためか、少しだけ湯舟に浮いているように見えた。
「にしても、エスティナのおっぱい、大きいよねー」
エメリナが感心するように、アストールの胸を見据える。
エメリナの胸も決して小さくはなく、並程度の大きさはある。しかし、アストールには到底及ばない。
「うーん、そうなのよね。これあると、肩が凝ってしょうがないんだよ」
アストールの横でエメリナは平然と会話する。それとは対照的に、メアリーは顔を赤くして頬まで湯舟に浸かり、右手を胸に、股に左手を充てて隠していた。
「ねえ、ちょっと触ってみたいなー」
エメリナは好奇心旺盛で、アストールの胸を見ながら告げていた。
「いいよ、触ってみれば」
「おお、凄い! 適度な弾力と柔らかさ! なにこれ! やばい!」
「気持ちいでしょ?」
「うん、やばい、ずっと触ってたい!」
エメリナが素な反応を見せるのを、レニは顔を真っ赤にして見ていた。
「はあああ、そんな、女性同士で、破廉恥ですよ!」
「え? そう? きもちいよ! レニも触ってみれば?」
エメリナがそう促すも、レニは大声で言っていた。
「さ、触れるわけないじゃないですか! 僕男ですよ!」
レニは顔を真っ赤にしてそっぽを向くも、しっかりと目線だけは二人へと向いていた。
レニの心の叫びに近い声に、エメリナがけたけたと笑う。
「だってー。くぁわいい!」
「エメリナ、いい加減触るのやめてもらっていい?」
「ええ、うん、いやだ」
「なんでよ」
「気持ちいいから!」
「なに、なら、私も揉むわよ?」
「うん、別にいいよ」
「だだだ、駄目えええ!」
メアリーが慌てて二人の間に割って入る。
「なんで? なんで、だめなのかな?」
ニヤニヤと意地悪い笑みを浮かべたアストールを前に、メアリーは顔を真っ赤にして胸を隠しつつアストールに告げていた。
「ななな、なんでって、それは」
「それは?」
「女同士でそんな破廉恥な事したら、ダメでしょ! って話!」
「へー、なら、男ならいいわけ?」
メアリーはアストールの言葉にギクッとなる。
そして、レニに顔を向けていた。
「な、なわけないでしょ!」
即座に否定するメアリーを前に、レニはほっと胸をなでおろす。
「とにかく、これ以上の御障りは禁止です!」
二人の間に割って入るメアリーは、アストールの横で腰を落ち着けていた。
「にしても、どうしたら、そんなに大きくなるのよ?」
メアリーは不服そうにしながらアストールの胸に目を向ける。
「さあね。遺伝じゃない?」
アストールはあっけらかんと答えるも、メアリーは不服そうにしていた。
メアリーは彼女が女に変わった当初から、納得ができなかった。
男であるはずのアストールが、自分よりも美人で尚且つスタイルが良い事が未だに悔しいのだ。
(私だってこれだけスタイルが良かったら、最初からアストールの気を引けたのに……)
メアリーはそう思いつつ、アストールを睨みつけていた。
「ん? なんだよ?」
「何でもないよ!」
そう言うとメアリーは口まで湯舟に浸かってぶくぶくと息を吐いていた。
「にしても、こうやってゆっくりするの、本当に久しぶりだ。明日一日もゆっくりしよう! 出発はそれからでも遅くない!」
アストールは伸びをしながら、笑顔で告げていた。
「そうだね、メアリーは明日何する?」
「うーん、まだ何も決めてない」
「なら、服とか見に行こう! モレアは服とか有名みたいだし!」
エメリナの提案にメアリーは静かに返事する。
「うん、いいよ」
だが、本当の所は、アストールと二人で出かけたいのが本音だった。
「そうか、二人は服を見に行くのか……」
アストールが二人を横目に見ながら、あくびをしていると、いつの間にか顔を真っ赤にしたレニが近くまで来ていた。
「あ、あの、エスティナ様がお暇なら、僕と祭りにいきませんか?」
「え? あ、うん、いいよ」
アストールも特にやることはないので、それに付き合う程度の軽い返事をする。
それにメアリーとエメリナは顔を見合わせていた。
「なんだよ?」
アストールが二人に聞くと、エメリナが訝し気な目つきで口元を釣り上げて聞いていた。
「まさか、レニが可愛いからって、如何わしい事するわけじゃないでしょう?」
「はぁ? レニは従者だろ。そんな事する訳ないじゃん」
アストールの素っ気ない返事を聞いたレニはなぜかショックを受けていた。
こうして四人の浴場女子会?はしばらく続くのだった。