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復興への道筋 1

 フェールムントの反乱鎮圧から早5日が経とうとしていた。


 ノーラはギード、イレーナ、グリドと共に、フェールムントの復興について、アブロやルジェールと話をする日々が続いていた。


 武装解除された反乱軍兵士達は、それぞれが家に帰る事が出来て、一応の落ち着きを見せている。

 しかし、王国軍との戦闘で死傷した反乱軍兵士達も多くおり、未だ王国に対しての反感感情は値強く残っている。


 それでもノーラは根気強く対話を続けている。

 彼女の心労を想うと、アストールも心配するほどに疲弊しているのが分かった。

 とは言え、反乱軍兵士を拘束する事なく、そのまま家に帰したのは効果が大きい。

 フェールムントの街全体では、徐々にノーラに対する反感はなくなりつつある。

 ノーラは応接室にてアブロと対面して、彼を見ながら問いかける。


「アブロよ。今このフェールムントに足りないものは何か?」

「は、それは都市における活気です。人の心を暗くしているのは、前線における基地として利用されているのが原因にあると思います」


 アブロの言葉に対してノーラは静かに答えていた。


「そうであるな。しかし、ここは重要な補給拠点でもある。それを辞める事はできない」


 ノーラは現実的な問題を前にして、アブロに答えていた。

 実際、西方の最前線を支える重要な拠点として、このフェールムントは機能しているのだ。

 王国軍のチョークポイントである事に変わりないのだ。


「しかし、それでは住民達の気持ちも収まらないものがありましょう」

「アブロよ、お前の言う事は良く分かる。けど、何をするにしても、フェールムントには何もないのだ」


 ノーラはフェールムントの厳しい状況を指摘する。実際このフェールムントは王国軍の軍政下で、何も復興は進まなかった。それゆえに、元々いた住人も出て行く者も大勢いた。

 それが復興の遅延に一層と拍車をかけた。

 それ故にフェールムントには資金すら残されていない。


「何をするにしても、金はいる。現状、フェールムントの財政は厳しいものがある」

「それは王国が……」


 アブロが感情的に言いそうになるのを抑えて、ぐっと拳を握りしめていた。

 ノーラはそんなアブロの様子を見て、真剣な眼差しを向けていた。


「アブロよ。フェールムントの外城壁に設置されている大砲や不要な兵器を、我が国が買い取って西部の最前線に移動させてはどうか?」


 ノーラの言葉に対してアブロ暫し考え込んでいた。

 実際、現状のフェールムントにはあっても使いようがない、不要な武器や兵器が山のようにあるのだ。

 フェールムントにいる兵員数も最低限であり、実際、この街にある兵器が確実に運用できるのは全体の三割に満たないだろう。ましてや傭兵すらいない現状で、そう言った兵器は本当に無用の長物となってしまう。


「何をするにしても手付となる金は必要という事ですか……」


 アブロはノーラを見据えていた。


「ああ、それに活気がないと言うのであれば、何かしらの仕事を城主たるお前が与えてやればいいのだ」


 公金による何かしらの事業を始める事で、街を潤すのが第一に始める事なのだ。

 ノーラとアブロはこの5日間は戦後処理について話し合い、王国が今回出た犠牲者の遺族に見舞金を出す事で一応の話は決着がついた。しかし、最も重要なのはこれからこのフェールムントをどう復興させるかだ。今日はその話し合いの初日だ。


「その手付金を王国が兵器を買い取るという形でご用意いただけるのは大変喜ばしい話であります」


 アブロはそう言ってルジェールに顔を向けていた。


「今フェールムントにある兵器をすぐにリストアップしてくれないか?」

「は! すぐにでも!」


 ルジェールはそう言って応接室より出ていく。

 アブロはそれを見送ると、静かに笑みを浮かべていた。


「さて、次の議題に行く前に、殿下もお疲れでしょう、ここは少し休憩をしませんかな?」

「そうだな」


 ノーラはアブロの言葉に小さく嘆息していた。

 実際ここ5日間は休みなく協議を続けてきていたので、ノーラの疲労はかなり溜まっていた。

 二人はお互いに目を合わせた後、ノーラが話題を振っていた。


「にしても、反乱鎮圧軍をフェールムントでの復興支援部隊にできるとは私も思わなかった」

「全くもって……。つい一週間も経たぬ前は、矛を向けあっていたはずなのに、今は住民と共にフェールムントの街の警備、修繕、片付け、遺体の管理、埋葬まで共に行っている。自分も信じられませんよ」


 アブロもノーラの言葉に同調する。

 ノーラは反乱軍を武装解除をしたのちに、すぐに応援をくれた街や方面軍に対して使者を飛ばしていた。

 フェールムントの反乱は鎮めたが、街は荒れ果てているので、その復興に人手がいる。


「到着した部隊はそのまま復興支援部隊として、ノーラ・ヴェルムンティアが借り受けてもよいか?」


 書簡にそうしたためて、各方面に送っていたのだ。

 それが功を奏して、送られてきた部隊はそのままフェールムントの復興へと投入できたのだ。

 こうして街の瓦礫撤去作業が動き出したのが昨日の話だ。


 今もまだフェールムントの各所で、王国軍兵士と住民と協力して復興支援が進められている。

 それがあるからこそ、住民たちの反王国感情が和らいでいる側面もある。


「とは言え、住民達の心を開いてもらうには、まだまだ、我らも努力が必要という事だ」


 ノーラは憂鬱そうに天井を見上げていた。

 フェールムントの復興は一筋縄ではいかないだろう。

 現状動いている5000人の兵士達も、いつまでここに居られるかはわからない。

 何よりも、ノーラに対する信頼が確立するまでは、彼女もこのフェールムントからは動けない。


 それが実情だ。


 彼女は覚悟していたとはいえ、不安で仕方ない。

 また、反乱が起こらない保証はない。いくらアブロが忠を尽くしていても、住民の心は風見鶏のごとくくるくると向きを変える。


「ノーラ殿下、ご安心ください。私が殿下の心配事は起こさせません」


 アブロがそう言って彼女に真剣な表情で答えていた。


「そう言ってもらえるならば、私も幾らか安心できる」

「お任せください。それに殿下は我らフェールムントの民の為に尽力してくださっている。住民もそれを感じているはずです」


 ノーラはアブロの言葉を聞いて表情を緩めていた。

 実際、ここで暗殺されそうになったのだから、彼女が心配するのは普通の事だ。何よりも、そんな事が起きたはずなのに、彼女はその実行犯ともいえるアブロを、徴用して目の前に置いているのだ。

 そちらの方が異常な事態である。

 だからこそ、アブロは彼女に感心していた。


「この様な偉業、ノーラ様でなければできなかったでしょう」


 実際彼女のカリスマに当てられたのは、アブロだけではない。

 ルジェールも反乱軍兵士達も最初こそ当惑していたが、今や彼女が本気である事が分って、ノーラの為に動いているのだ。フェールムントの復興をさせてくれるという約束を守っている以上は、それに協力するのが、臣下の務めである。


「そうであるかな……。あの鎮圧時に上がった反乱軍の大歓声、そなたが仕組んだものであろう?」


 反乱軍が大歓声を上げて、ノーラにさも同調しているかのような雰囲気を作り出した。

 その歓声が始まる前のノーラを称える声が、反乱軍の隊列のそこかしこで上がり始めていたのを、彼女はアブロの仕込みであると見抜いていた。

 アブロはその言葉を聞いて面食らっていた。


「まさか、お気付きになられていたとは……」

「私も馬鹿ではない。あの状況で私を称える声を上げられるのは、そなたの側近くらいであろう」


 アブロに忠を尽くす部下が居たからこそ、あの反乱軍の武装解除に辿り着けた。

 もしも、アブロ達の協力がなければ、あの場で反乱軍はノーラに襲い掛かっていたかもしれない。

 それ程までにギリギリの駆け引きをしていた事を、彼女は反乱軍からの空気を感じて把握していた。


「すべてを見透かされていたとは、恐れ入ります」

「私はそれを利用させて貰っただけだ。貴公らが称えるような王族ではないかもしれぬぞ?」


 ノーラが意地悪そうな笑みを浮かべると、アブロはそれをすぐに否定する。


「何をおっしゃいますか! ノーラ殿下は今やこの西方の地では英雄です!」


 アブロは大げさに言うものの、ノーラは自信なく答える。


「そうであるといいがな……」

「もっと自信をお持ちになってください」

「そうだな……」


 ノーラはアブロに元気づけられると、ふと、シャレムの夜会であった商人達の事を思い出す。

 彼らは何かあれば自分達を頼ればいいと言っていた。

 今はその段階ではないが、もう少し復興が進めばシャレムの商人達を呼び込むこともできるだろう。


「アブロよ。今日はちと疲れた。休憩をしてきてもよいか?」

「ええ。ノーラ殿下。あとはこのアブロにお任せください」


 アストールはそんな二人のやり取りを、ノーラの後ろで控えてずっと見ていた。

 見た目からしてノーラが相当に疲労しているのがうかがえた。

 リオネルに攫われてからというものの、まともに休息をとっていないのだ。

 アストールとしても、一日でいいからノーラには休んで欲しいと思う。

 ゴラムという心の支えがいない今、彼女が頼れる人物はあまりに少ない。

 応接室から出ると、二人は城の中を歩いて、ノーラの自室を目指していた。


「エスティナよ」

「はい」

「そなたには色々と迷惑をかけたな」

「いえ、そのような事は……」


 アストールはノーラが珍しく弱気になっている事を気に掛ける。

 だからと言って、彼女を元気付ける言葉も見つからない。


「私はノーラ殿下の御傍に居ることくらいしかできないので……」

「それだけでも私は助かっている。ありがとう」


 ノーラが珍しく感謝を口にする。

 それ程までにノーラはアストールを頼っているのだ。だが、政治的な助言などは一切できない。そう言った助言はイレーナの方がよほど上手くできるだろう。

 そんなやり取りをしていると、ナルエがアストールを見つけて駆け寄ってきていた。


「あ、エスティナ様!」

「ナルエ殿、どうかしましたか?」


 ナルエは慌てたような様子で、アストールの前まで来ると少しだけ息を整えて、彼女かれに告げていた。


「イレーナ様がお呼びです。ノーラ様を自室に送り届けた後、執務室へとくるようにと言付かってきました」


 アストールはその言葉を聞いて、すぐに返答する。


「そうですか。わかりました。すぐに行くとお伝えください」


 アストールの言葉を聞いたナルエは、すぐにその場から駆け出していた。

 ノーラとアストールは顔を見合わせた後、再びフェールムント城内に用意されているノーラの自室へと足を進めるのだった。


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