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英断と決意 3

 アストール達はノーラ揮下の兵300とギベンより来た予備兵力2000と無事に合流し、フェールムント西側の平野に陣を敷いていた。

 平野には快晴の青空が広がり、冷たい風が吹きすさぶ。

 平野西部の陣地の後方には森林地帯が広がっており、もしもの事があれば森林に退避がすぐできるようになっている。

 ノーラは陣幕内でギードやギベン方面予備軍の指揮官と軍義を開いていた。


「他からの援軍はいつ到着する?」


 ギードがギベン方面軍の指揮官に聞くと、彼はすらすらと答えていた。


「は、明日には北よりシャレムとダントゥールの連合軍1000が到着します。また、南側からも2000名が到着予定です」

「ふむ、そうか……」


 ノーラはそう言うと、傍らに控えていたアストールを見る。


「ん!? 私は戦なんてした事ないので、意見なんて畏れ多いですよ」


 アストールはそう言って周囲を見渡していた。

 実際妖魔討伐は幾度となく経験してきたが、このような軍議に参加するほどの実戦経験はしていない。唯一あるとすれば、ルショスクでの戦いだが、あれも近衛騎士隊と対峙していると、いつの間にか戦いが終わっていた。

 そんなアストールに見かねたのか、ノーラは口を開く。


「それはそうと、フェールムントの様子はどうか?」

「今のところ何も動きはありません」


 ギードはそう言ってノーラを見据えていた。


「今の我らの戦力だけではちと心もとないな」


 ノーラの言葉を前に、指揮官たちは黙り込んでいた。

 これから行うのは城攻めであり、現状、攻城兵器は所持していない。

 城を攻めるとなると、通常は敵の3倍の戦力をもって攻め立てるのが定石である。


「こちらの戦力は待てば5000まで増えるか……」

「その戦力と城内の味方を合わせれば、おおよそ6000の軍勢となります」

「挟撃もできるという事か」

「そうですね」


 ノーラの問いかけに対してギードは冷静に答えていく。

 フェールムントには1000名弱の兵が残っていると考えられる。その1000名と連絡が取れれば、反乱軍の鎮圧は容易に行えるだろう。

 だからこそ、ノーラはこの反乱鎮圧方法について考えを巡らせていた。


「ギードよ、反乱鎮圧をした際には、反乱者の処置をどうすればよいと思う?」


 ノーラの問いかけに対して、ギードは顔をしかめていた。

 暫しの沈黙ののち、ギードは静かにノーラにこたえる。


「反乱に加担した者を含めて、処刑、親族を含めて根絶やしにする事が妥当かと……」


 ギードはそう言って黙り込んでいた。

 反乱軍を見せしめに全てを処刑するのは、他の地域での反乱を起させないためには効果的な手法である。


「反乱者を磔にし、道に並べていくのも、一考かと思われます」


 その野蛮だが効果がとても大きいであろう提案を前に、ノーラは表情一つ変えずに答えていた。


「ギードよ。確かにそなたの言う通りだ。見せしめというのは必要だ。しかし、それでは怨念返しを繰り返すことになる」

「では、殿下は何かいい方法を思いつきで?」

「勿論だ」


 ノーラはギードの問いかけに対して、不敵な笑みを浮かべる。

 そして、口を開こうとしたその時だった。

 陣幕に一人の兵士が慌てて飛び込んで来た。


「伝令! 敵はフェールムント西側に集結し、我等と対峙するように隊列を組んでいます」


 ノーラはそれを聞いて目を見開く。


「数は!?」

「は、おおよそ2000から3000程度かと」


 その数を聞いてノーラは大きく溜め息をついていた。それだけの数で決戦を挑んでくると言うことは、既にフェールムント城は陥落していると判断したのだ。


「また、私のみが生き残って……」


 ノーラは表情を暗くしていた。

 ゴラムと王族従騎士が全滅したのに対して、いまだ罪悪感を持ち続けている。

 ましてや、自分のみが逃げて生き残ってしまう事に対して、昇進していた。

 その報告を聞いてアストールもショックを受けていた。彼女(かれ)もまた、同じ結論を導いていたのだ。だが、それでも、アストールは希望を持って、ノーラに対して元気づけるように言う。


「ジュナルもいますし! あの城はそう簡単に落ちませんよ!」

「そうであったな。そなたの従者はかなり優秀であった。希望は失ってはならんか」


 ノーラはアストールの言葉に同調して表情を少しだけ明るくする。

 彼女かれはノーラの気持ちが少しでも晴れるように助言をしていた。

 ノーラは決意を新たにして、軍幕を出ていた。

 そして、陣地の最前線まで来ると、平原向こうのフェールムントを見据える。


 フェールムントの前には反乱軍兵士の戦列が組まれており、今にも戦が始まらんとしていた。

 ノーラは表情を引き締めて、反乱軍の兵士達に目を向けていた。


「これが私を襲った敵か……」


 こうして、また反乱軍と合間見え、尚且つ対峙することなど、ノーラは想像もしていなかった。

 しかし、彼女は同時に思う。

 敵であると同時に、彼らは自分の国の治める民でもあるのだ。と……。

 渋い表情を浮かべたのち、ノーラはすぐ横まで来ていたギードに告げる。


「フェールムント城に逃げ込まれると面倒だ。全軍に通達、敵との決戦を準備せよ!」


 ノーラの言葉に対して、ギードは手を上げる。それに対して、後ろに控えていた兵士が静かに返事をして駆けだしていた。

 平原を挟んで対峙する王国軍は、森を背後にして陣地を張っていた。万が一にも敗走した場合は直ぐに森の中に逃げ込める様な陣地である。

 対するフェールムントの反乱軍も同じで、敗走すれば街の中に逃げ込める様に陣取っている。


「私がお前達を憎いように、お前達もまた、私が憎いのだな。これが憎しみの連鎖か……。これを立ち切るには、お前達を滅するしかないのか……」


 ノーラはそう呟くと敵の軍勢を見据えていた。

 現状のままだと王国軍の数的不利は確実である。

 とは言え、王国軍の軍勢は常日頃から鍛練している精鋭の2000名、あちらの主力は半数が戦で実戦を経験した事も無いような民兵だ。

 いくら士気が高くても、この決戦の勝敗は見えていた。何よりも王国軍には、あの英雄オステンギガントのコズバーンがいるのだ。


「戦えば、死傷者は増えような……」


 ノーラは憂鬱そうに呟く。

 幾ら敵といえど、その敵を作ったのは紛れもない自分達王族なのだ。だからこそ、責任を持ってして、この事態を納めなければならない。

 その様な悲痛な決意のもと、反乱軍の軍勢を見据える。

 ふと、フェールムントを見ると街の中央より煙が上がっているのが見えた。


「ん? あれは?」


 フェールムント城のある中央より上がる細長い煙、それは狼煙以外の何物でもない。

 そして、ノーラはその狼煙を見て、打ち震えていた。


「そなたらはまだ生きておるのだな……」


 援軍が到着した事に気づいた場合は、城内の王国軍に狼煙をあげるように命令していたのだ。

 これは亡きゴラムの意思だ。


「これでやりようができたな……」


 ノーラはそう呟くと即座に天幕に戻っていた。

 そして、戻るなりすぐに叫んでいた。


「フェールムント城は健在だ! 今しがた狼煙を確認した! 我等も狼煙を上げて答えよ!」


 ノーラはそう言うとギードと指揮官を見つめる。


「攻撃体勢は整えておけ! ただし反乱軍とはこれより交渉を行う! 軍使を送るのだ!」


 ノーラはそう告げると、天幕内は騒然としていた。

 誰一人として想定してなかった言葉に、陣幕内の指揮官たちは唖然としていた。


「どうした!? 早く実行せよ。軍使を送れ!」

「な、なぜです!? 奴らはノーラ王女殿下を殺そうとしているのですよ?」


 ギードは慌ててノーラを止めに入るも、ノーラはすぐに言い返していた。


「それは我等が追い詰め過ぎたが故だ。私はそれでも、もう一度ここの地の民を信じてみたいのだ。軍使が戻ってこられれば、それは奴らに迷いがあると言うこと! その迷いは彼らが交渉をする余地を持っている証左にもなる」

「しかしですな……」


 ギードはノーラの言葉を聞いて狼狽していた。

 すでに軍は臨戦態勢にあるのに、それでいて、こちらから軍使を送るのだ。

 兵士達は疑問に思うだろう。

 なぜ、圧倒的に士気が高く、一挙に敵を打ち破る事もできる軍勢を前にして、戦わないのか?

 それをしてしまうと、軍全体の士気にも関わってくる。

 ノーラはそんなギードの心配を前に、彼女自身の固い決意を話す。


「交渉が決裂した際は私も覚悟はしている。だが、それでも、私は彼らと直接話したいのだ」


 その言葉を聞いた瞬間にイレーナが慌てていた。


「ノ、ノーラ様!? 御自らが交渉されるのですか!?」


 驚嘆するイレーナを前に、ノーラはさも当然と答える。


「いけないか?」

「良くないに決まっているでしょう! 相手は賊軍です! ルール無用に襲いかかってくるんですよ。それに貴方のお命を奪おうとした相手です! 私は絶対に許しません!」

「……それでも、私はやると決めたのだ。これは王族としての務めだ」


 ノーラの真っすぐな視線を受けて、イレーナは小さくため息を吐いていた。

 主君の横暴さを前に、それを諫めることができない自分を、イレーナは呪っていた。

 こうなった時のノーラが止まらないのはわかっている。

 だからこそ、即座に言う。


「わかりました。ですが、条件があります。交渉は我が陣地内で、相手は武装解除、こちらは武装した兵士を配置した上で行います。それができないと言うなら、この話はなしです!」


 イレーナは最大限の譲歩をして、条件をつけていた。ノーラはそれに対して、渋々頷いていた。


「仕方ない……。本当なら、戦地の真ん中で互いに顔を見合わせたかったのだが……」


 イレーナはそれを絶対に許さないだろう。

 ノーラの言葉を聞いたイレーナは、呆れた表情を見せていた。


「そうと決まれば、すぐに軍使を送りましょう」


 ギードはそう言って、反乱軍に軍使を送るように手配を進めるのだった。


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