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思わぬ襲撃 1

フクロウの鳴き声がこだまする森の中、松明を掲げてガーム戦士団と王族従騎士隊は暗闇を進んでいた。深夜の森の中での撤退となると、その進軍速度はかなり低下していた。


 幾ら道があるとはいえ、妖魔や盗賊の襲撃を警戒しながらの逃走には、かなりの神経を擦り減らされた。松明を掲げながらの撤退行動は、遠くからでもよく見える事だろう。

 とはいえ、この暗闇ではまともに道を進んでいるのか、それすらもわかり辛い。


 ゴラムは道がだんだんと細くなっている事に気付いて、ノーラの馬車の横から離れていた。

 心なしか先行するリオネルの兵士達が少なくも感じられたためだ。

 何かがおかしいと感じつつ、それを確かめるためにゴラムは先頭を進むリオネルの元に来ていた。


「リオネル殿!」


 ゴラムはリオネルを見つけると、その横まで来て彼に話しかける。


「これはこれはゴラム王族従騎士長、何ですかな?」

「リオネル殿! 先ほどから進む道が少々狭くなっておりませんか? これ以上狭くなれば、襲撃をされた時に、対処が出来なくなります」


 リオネルはゴラムの忠告を聞いて、少しだけ考える。

 そして、告げていた。


「それもそうですな! おーい! 野郎ども! ゴラム従騎士長殿が襲撃を心配なさっておられるぞ! その心配を取り除いてやってくれ!」


 リオネルがそう叫ぶと同時に、突如としてノーラの馬車の方で悲鳴が聞こえていた。

 それは女性の者ではない。

 男の断末魔の叫び声だ。

 それと同時に剣劇の音が響きだし、松明が地面に落ちて、倒れこんだ王族従騎士達の死体が見え始める。それを見たゴラムは理解ができず、すぐに馬車へと戻ろうとする。

 その時、リオネルは腰の剣を抜いて、ゴラムの首元に突きつける。


「おっと、それ以上は動かないでください。俺はあんたを気に入ってる。できれば、殺さずにそのまま捕まえておきたい」


 ゴラムは自分の置かれた状況を理解した。

 リオネル達、ガーム戦士団が王族従騎士を襲っているのだ。

 剣劇が聞こえると言う事は、王族従騎士達が奮戦しているのは間違いはない。

 だが、ここのガーム戦士団の傭兵達も一筋縄ではいかない猛者ばかりだ。

 それに加えて、王族従騎士は奇襲をかけられている状態で数の有利もない。


「貴様、何が狙いだ?」

「姫様のお命……。と言いたい処だが、別に姫様の命は取りはしない」


 リオネルはゴラムを見つめたまま会話をする。

 部下たちが死んでいるにも関わらず、ゴラムはけして取り乱さない。

 むしろ、首魁を前にして、いつでも斬りかかろうとする気配すら感じ取れる。


 だからこそ、リオネルはゴラムから目を離せない。

 そんな二人をよそに馬車の方へでは死闘が続いていた。


 アストールとメアリーは王族従騎士が襲撃を受けたのを見て、すぐに対処していた。

 メアリーは夜目を慣らしており、何よりも、アストールと周囲の騎士に襲撃があるかもしれないと告げていた。そのおかげか、アストール以外にも王族従騎士が10名ほど生き残っていた。


「すぐにノーラ殿下を馬車から出して、森の中を逃げるぞ!」


 アストールはそう言って馬車の扉を開けていた。


「エスティナ!?」


 ノーラとナルエ、イレーナが驚きの表情で彼女かれを見る。


「殿下! ガーム戦士団の離反です! すぐにここから出て、森の中を逃げましょう!」

「まったく、次から次へと……」


 イレーナはいたって冷静に、それでいて悩まし気に呟いていた。


「行きましょう!」


 ナルエがノーラの手を引いて、外に出ていた。イレーナもそれに続く。

 周囲を王族従騎士が囲んでいるものの、ガーム戦士団は完全にそれを包囲していた。

 突破は不可能だ。

 とはいえ、流石は王族従騎士で、手練れのガーム戦士団の傭兵達を、殺気で寄せ付けなかった。


「さて、どうしたものかね……」


 アストールは周囲を見回して、打開策がないかを思案する。


「メアリー!」


 アストールはメアリーに目を向けると、彼女はそれが何を意味しているのかを瞬時に理解する。

 そう、それはこの危機を、森を抜けて後方のイアン達に知らせろと言う合図だ。

 メアリーは無言で頷いて見せていた。

 そんな膠着状態の中、ゴラムが馬を降りた状態で、剣を突き付けられながら、アストール達の前に現れた。


「ゴラム!?」


 それを見て一番に叫んだのはノーラだった。

 忠臣たるゴラムは、ある種彼女にとって父親の様な存在なのだ。


「ノーラ殿下、面目ありませぬ」


 ゴラムは申し訳なさでそれ以上言葉が出てこなかった。

 だが、彼はアストールとメアリーに目を向けていた。

 その眼はけして敗者の目ではなく、瞳に怒りの炎を燃やしたを力強さを感じさせた。


「ノーラ殿下、我々は貴方を殺害するつもりも、ましてや傷つけるつもりもありません」


 ゴラムの横にいたリオネルは、ノーラに対して話しかける。


「貴様ら、この様な事をして、ただで済むと思っているのか?」


 イレーナがノーラの前に出て、リオネルを睨みつける。


「ただで済むわけないでしょう。なんてたって、ヴェルムンティア王国の王女を拉致しようと言うんだからね」


 リオネルは笑みを浮かべていた。


「何が目的だ?」


 アストールは馬に跨ったままリオネルを問い詰めると、彼は静かに答えていた。


「目的ねぇ。それは教えられませんなぁ。一つ言えるなら、我々は使い捨ての手駒にはなりたくないと言うことですよ」


 リオネルがそう言うも、ゴラムを始めとして彼が何を言いたいのか今一理解できなかった。


「そう言う事なんで、ノーラ殿下には人質兼戦利品になって頂きたいのですよ」


 リオネルはそう言うと周囲を見回していた。

 奇襲に成功して、40人の王族従騎士は討ち取った。

 味方からの強襲は王族従騎士も想定していなかった。とはいえ、それでもリオネルの手勢を30人ほど道ずれにしているのは、流石は王族従騎士といった所だろう。


「あーあ。沢山殺してくれましたな」


 リオネルは自分の傭兵がかなりの被害を受けているのを見て、後頭部をかいていた。

 それでも一切動揺せず、怒りもしないところを見る限り、リオネルはこの状況を想定していたのだと推察できた。


「我々王族従騎士は命に代えてもノーラ殿下を守る騎士である。たとえ、ゴラム騎士長を人質に取ろうとも、我らは貴様たちと刺し違えてでもノーラ殿下を守り抜く」


 王族従騎士の一人が力強く叫ぶと、他の騎士達も黙ってうなずいていた。

 リオネルはそれでも余裕の姿勢は崩さなかった。

 だが、その内心は焦燥していた。


(まずいな……。被害は想定内だが、こいつらが10人も残るなんてのは、想定外だ。ましてや、追い詰められた鼠のごとく、何をしてくるか分かったもんじゃねえ)


 王族従騎士を10人も相手にするとなると、流石のガーム戦士団でも骨が折れる。

 それ程までに相手が悪いのだ。


「リオネルよ! 今手を引くのであれば、この事は不問とする」


 一番に口を開いたのは、イレーナでもゴラムでもアストールでもなくノーラだった。


「なんですと?」

「私の大切な騎士を大量に殺害した事、それは本来、その命をもってして償わせなければならない。だが、フェールムントを脱出できたのは、お前達の活躍があったからこそだ。それにこちらもお前の手勢を30名ほど殺している。恩赦には充分であろう」


 ノーラの提案を聞いて、リオネルは一瞬だがその提案に乗りそうになる。

 だが、それでも彼は彼女の言う事に乗るわけにはいかなかった。


「涙が出るほど嬉しい提案ですな。ですが、殿下、それはできない相談です」

「なに?」

「言ったでしょう。手駒で死ぬつもりはないと。それにこの状況、戦えば犠牲は出ますが、確実に全滅するのはそちら側ですよ」


 リオネルはそう言って主導権を取り戻していた。

 ここからは如何にして犠牲を出さずに、ノーラを確保するかが重要になる。


「いくら王族従騎士が屈強と言えど、私の兵の実力は先ほどの戦闘と、脱出時の戦いで見て、ご理解いただけたはずです」


 そう、王族従騎士がいくら強かろうと、数の差が圧倒的過ぎた。

 戦えば負けるのは目に見えているのだ。

 だが、そんな中でも、イレーナが果敢に交渉を続けていた。


「ノーラ様の寛大なご処置にご満足いただけなかったようで……。そうであれば、今お支払いしている給金の二倍をあなた方にお支払いいたします。これで我々を解放してもらえませんか?」


 イレーナの思わぬ提案にリオネルはそれでも表情を一切変えなかった。

 確かに給金2倍はとても魅力的な提案である。

 であるのだが……。


「それが支払われる保証がない。却下だ」


 ここまでの大事を行ったのだ。

 ノーラ達を解放したからと言って、給金が支払われる保証もない。何よりも不問とすると言いつつも、討伐隊を向かわせてくる可能性もある。


「すまないね。あんたがたの事、信用はできんのですよ」


 リオネルはそう言って手を上げていた。


「今ならお命はお助けする。殿下は配下に武器を置くように言って頂けませんかな?」


 リオネルは鋭い目つきでノーラを見据える。

 イレーナは彼が本気であるのを見抜いて、全員に叫んでいた。


「全員、武器を構えてノーラ様をお守りしろ!」

「結局戦わなくちゃいけないってことか……」


 アストールも覚悟を決めて剣を構えていた。

 メアリーはいつでも脱出ができるように、馬の手綱を握っていた。


「どうやら、交渉は決裂ですな」


 リオネルは無表情で、そう言って手を下げていた。


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