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フェールムント騒乱 3

 リオネルが西門近くまで来ると、敵反乱軍が西門守備隊と死闘を繰り広げていた。

 西門前には敵部隊が殺到していて、閉められた城門を前に陣地を敷いて次々に人海戦術で西門に兵士たちを送り込んでいた。


 流石に西門守備隊は揃って精鋭ばかり、城門を明け渡さないように善戦している。

 敵がくれば長い槍で城門上より串刺しにし、壁をよじ登ってくる敵には熱した油をかけ、火矢で射掛けて焼き殺す。油がなくなれば、井戸から水を汲んで熱湯を代わりに浴びせている。


 凄惨な城壁の攻防戦だ。


 リオネルは考えを巡らせながら、西門より両端に続く北と南に目をやった。

 他の城門が徴用兵によって守備されていたことから、北と南から城壁を伝って来た敵の増援がやってきて、西門城壁の上でも戦闘が開始されている。

 城壁の上でも防備は固められていた。防柵や急ごしらえの机などの木端にした障害物によって敵の侵入を防いでいる。

 もちろん、その守備には兵士の槍による攻撃があって初めて成り立つ。


(とはいえ、善戦してるっつても、これは時間稼ぎにすぎねえわな。このままだと4刻、いや2刻ともたねえか)


 リオネルは馬首を敵の軍勢の手前で、堂々と止めて思案する。

 その余りの堂々たる勇士を目に、敵反乱軍の軍勢はリオネル達に気づいても、味方と勘違いして一行に戦端を開こうとしない。


(さーて、どうしたもんか。敵さんが来ないってこたぁ、俺たちを味方だと思ってるんだろうな。そら、そうか、まさか、王国軍が城を放棄するなんて考えねえわな)


 そこまで考えを巡らせると、リオネルは鼻をすすると笑みを浮かべた。


「へへ。ここは、まだ、ちーとは楽しめるかな」


 リオネルは横に控えていた オルマに対して問いかける。


「奴ら、俺たちが援軍だと思ってるみたいだな? あの間の抜けた顔、どう思う?」

「好機ですな。奴らを絶望の淵におとしてやりましょう」


 オルマの言葉にリオネルは満足そうに頷いていた。


「よし、決まりだ。正面の敵を蹴散らす! アレやるって全軍に伝達。歩兵隊のヘルネにも伝えろ。貴様ら歩兵は上にあがろうとしてる雑魚共を蹴散らせってな」


 リオネルは指示を出すと、ゆっくりと敵の後ろに馬を近づけていく。

 さながら、自分たちは味方だと、言わんばかりに堂々とした足取りだ。

 リオネルの後ろに続く彼の傭兵の隊列が、堂々とした足取りで進んでいく。

 敵の最後尾まで来ると、馬の足を止める。そして、不敵な笑みを浮かべたリオネルは、暗闇の中大声叫んでいた。


「お~い! てめら! よく聞け! 援軍の騎兵隊の到着だ! 道を開けろ!」


 王国軍の正式な軍装をしていないリオネル達は、この状況下だと正規軍とは思われない。

 反乱軍の民兵と傭兵は、歓声を上げていた。それと同時に戦列が通れるように正門まで道を開けていく。リオネル達は歩兵隊を随伴させて、縦列のまま正門手前まで兵を進める。


 ゆっくりと堂々とした足取りで、西門前に設置された馬防柵の前まで兵を進ませる。それ程までに味方を装っていたため、西門の守備兵達も顔色を絶望の物へと変えていた。

 騎兵隊までやってきたとなれば、もしも、この西門を放棄して逃げたとしても捕まる確率が高くなる。それゆえ、リオネルは味方にまで絶望感を与えていた。


 馬を最前線まで進めると、指揮官らしき兵士が馬に乗って城壁を攻める部隊を鼓舞している。

 リオネルはその横に馬を進めると、敵指揮官に対して話しかけていた。


「よぉ、援軍に来たぜ。大分苦戦してるみてーだな」


 気軽に話しかける指揮官は口惜しそうに城壁を見つめたまま言葉を返していた。


「ああ、中々に手ごわい」

「そうか。どれくらいやられたんだ?」

「今の所は突撃している部隊の5分の1だ。だが、もう少しすれば、予定通り北門と南門から援軍が来る」

「そうか。じゃあ、今ざっと見て、ここに居るのは、だいたい全部で5、600人くらいか」

「ああ、いや、あんたら援軍が来たんだそれにもう300人追加だ」

「そうだな。じゃあ、俺はそろそろ仕事を始めさせてもらうぜ」


 そこでリオネルは話を切り上げると抜刀して剣を掲げる。そして、踵を返して馬首を後ろに向けた。両脇に敵を控えた部下の兵士達の2列縦隊を見据えると、敵全体にも聞こえるように大声で叫ぶ。


「いくぞ! 野郎ども! 敵は5、600! 伏兵は無しだ!」


 リオネルが叫ぶと同時に、縦列は敵兵に向き直り横列になり、敵戦列と向き合う形となる。

 何が起きているのか判らない敵兵士達に、リオネル達は一斉に牙をむいていた。

 瞬時にしておこる惨劇。部隊を二分された反乱軍は、指揮系統も分断され、なすすべなくリオネル兵に殺されていく。

 リオネル自身もまた、目の前にいた反乱軍兵士の指揮官に、何食わぬ顔で剣を突き立てる。


「な、なぜだ……」


 リオネルを恨みがましく見上げる反乱兵を前に、リオネルは冷酷に反乱軍兵士を見下ろしていた。


「誰もてめえの援軍なんて言ってねーだろ。愚図が……」


 手首を捻って剣を半回転させると、荒々しく剣を引き抜いていた。


「うぉーし、おめえら、道は開いたぞ、上の奴らに手ぇ貸してやれ」


 リオネル達が前線を一気に押し広げると、敵で埋まっていた目抜き通りの中央に道が出来上がる。目抜き通りから西門にはりついた敵達の背後が見えていた。

 指揮系統の乱れた反乱軍の主力部隊は、潰走しつつある。リオネルの配下にある強靭な兵士を前に、反乱軍はなす術なく斬り殺されていく。それはまさに虐殺に等しいものだった。


 そんな両脇の惨劇をものともせずに、残ったリオネルの歩兵達おおよそ50が正門前まで突進する。

 正門前では固く閉ざされた鉄格子を前に、反乱軍と王国軍守備隊の壮絶な死闘が繰り返されている。


 梯子を登るものには、投石、油を浴びせ、炎を射掛ける。

 それでもしつこいものには、弓や柄の長い槍で進撃を阻む。


 そんな中、リオネル達が後ろから現れた。当初こそ反乱軍の兵士たちは援軍と勘違いして士気が上がった。だが、それも束の間、リオネル兵たちは歓声をあげる反乱兵に次々と斬りかかっていた。状況が読めずに反乱兵達は、無慈悲な攻撃に次々と打ち取られていく。

 突然背中を突かれた反乱軍は、正門側からの攻撃で完全に挟み撃ちにあっていた。


「な、何がどうなっている!? 敵は西門の上だぞ! 馬鹿か! お前たち!」


 兵士たちを率いていた一人の反乱兵がリオネル兵達に叫ぶ。その前に馬に乗ったオルマが現れ、現場指揮官の男に容赦なく剣劇を浴びせていた。

 兜の上から叩き込まれた斧に、指揮官の男は頭から血を流して倒れこむ。


「馬鹿はお前だ。本陣が荒れているのに気づけ! 間抜けめ!」


 オルマはそう言うなり馬に蹴りを入れて、背中を見せる民兵、傭兵を次々と切り付けていく。

 ようやく状況が飲み込めた城壁守備隊は、即座に弓で射掛けることをやめさせる。その間にも次々と敵が地面に倒れていく。それだけではない。敵が後ろにいる事を知って、真っ先に武器を捨てて街の中へと逃げ出す反乱兵士までいるほどだ。

 反乱軍兵士の躯の山が出来上がり、西側の城門前の敵は壊走していく。リオネルの兵達は城壁前を容易く制圧すると大声で叫ぶ。


「味方だ! 今すぐにこの城門を開けろ!」


 西側正門前の確保に成功したのも束の間、既に南北正門より、城壁を伝って敵反乱兵が殺到していた。このままでは確実に西門は落ちると判断したオルマは、早々に城門の開門を要求していた。


「な、援軍ではないのか!?」

「我々は親善訪問団の傭兵だ。ノーラ殿下の脱出を支援するためにここに来たに過ぎん! 後詰めの部隊がここにくるので、その部隊と共にフェールムントを放棄して脱出せよ。これはグリド殿からの命でもある。殿下が脱出するまではここを死守せよ」


 オルマはそう言って西側守備兵に叫んでいた。

 それを聞いた守備兵は、大声で答える。


「わかった! すぐに城門を開けよう!」


 オルマは城門の扉を開けると、その先に降りていた木製の落とし格子が開くのを確認した。


「脱出時には城門に火をかけておけ!」


 オルマは大声で城門守備兵に告げていた。


「わかりました! ご助言感謝する!」


 味方が到着したことによる安心感により、守備兵たちの士気は高くなっていた。

 幸いなことに防備がそれなりに整っていた西門は、反乱軍兵士達の攻撃をしのぎ続けている。

 そこにようやくイアン達が到着する。リオネルもそれと同時にやってきており、イアンとリオネルは馬を並べていた。


「さて、俺達が脱出するまで、西門は持つかね?」


 リオネルが意地悪そうにイアンに言うと、彼はため息を吐いていた。


「リオネル、俺達に西門の助成をしろと言いたいのか?」

「御名答、ノーラ殿下は俺達ガーム戦士団が守ってやるよ」

「そうかい。分かった。カルル50名を連れて城門に加勢してやってくれ! 他の者は西門の周辺を確保してくれ!」


 イアンがそう言うのを確認して、リオネルは余裕綽々と馬を門の外へと進めていた。

 到着した馬車の横には銀色の甲冑に身を包んだアストールが馬に跨っていた。

 その周囲にはエメリナとメアリーも馬に跨っている。

 更に後方の歩兵部隊の中には、あのオステンギガントが紛れている。


「コズバーン! エメリナ! 城門上の加勢に行ってくれない?」

「御意!」

「わかった!」

「エメリナはコズバーンの後ろで支援してるだけでいいわよ」

「分かってるよ!」


 アストールはいつもの調子で全員に指示を出していた。

 リオネルはその様子を門前で見つめる。


「あれがオーガキラーのお嬢ちゃんか……。今まで馬車の中で見る機会がなかったが、中々の別嬪さんじゃねえか」


 リオネルはそう呟きつつ、城門上での死闘を見守っていた。

 イアン達とコズバーンが加わって、再び城壁の上では殺戮劇が始まっていた。

 城壁の障害物を乗り越えてきたのは、反乱兵ではなくイアン達傭兵だった。勇猛果敢といえば言葉はいいが、それは逆に血の気が多い事を示す。強靭な強さを持つ傭兵達が城壁の狭い範囲で数十名集まって、群衆を蹴散らしていく。それは正に地獄絵図だ。


 反乱兵の腕や足を大剣やハルバード等で切り落とされ、その強さを前に反乱兵達は怖気づく。だが、彼らの不幸は城壁と言う逃げ場のない場所での戦いだった。

 手練れのイアン達傭兵から逃げようにも、後ろからは次々と援軍が押し寄せてくるため逃げ道はない。戦意喪失した兵士達の中には、凶行から逃げるため城壁から飛び降りる者まで出る始末だ。


 また、一方ではコズバーンが一人、大きな戦斧で無双を繰り広げていた。

 敵対している徴用兵たちを一凪で十人近くを一気に両断していく。

 その姿に、こちらの反乱兵士達も恐怖する。

 あのオステンギガントが立ちはだかっているのだ。

 西側正門の確保が完了したのを確認して、リオネルはすぐに傭兵隊を呼び寄せていた。


「よし! 野郎ども! ノーラ殿下の護衛に回るぞ!」


 ゴラムはリオネル達が相当な手練れで、何よりも味方であることに安堵していた。


「イアン殿、我々はこれより一足先に西部の前線基地に向かう。近衛騎士隊を残す故、城壁の兵士と近衛騎士と協力して我々が撤退するまでの時間稼ぎをお願いしたい」


 ゴラムはそう言ってリオネルに願い出ると、イアンは快く引き受けていた。


「わかりました。お任せください」

「頼みましたぞ!」


 ゴラムはそう言うと、王族従騎士50名とノーラの馬車、そして、アストールとメアリーを連れてフェールムントを脱出する。

 先頭にはリオネル達100名の騎兵、その後方にノーラと王族従騎士の一団、更に後方に、オルマ指揮する傭兵隊100名が続いていた。


 こうしてノーラを乗せた馬車は、西の森林地帯へと入っていくのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これはえげつない。ですが効果覿面でしたね。 これなら安心してノーラを送り出せそうです [気になる点] 『可憐な強さ』と言う言葉にちょっと違和感がありました
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