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兆候 2

 アストールはノーラ達と食事を済ませた後、メアリーとエメリナを呼んでいた。

 ノーラは身支度をしているため、暫く時間が空く。その空き時間で二人と打ち合わせをする。

 中庭の一角で三人は顔を見合わせていた。


 フェールムントに来る前まで二人には、民衆の中に紛れて怪しい人間がいないかを見て貰っていたが、今回は状況が違う。

 民衆の中に紛れさせるのは危険すぎるのだ。

 そういう事もあって、アストールは二人に対していっていた。


「私と一緒にノーラ殿下の直接警護に回ってくれる?」


 アストールの言葉を聞いて、メアリーとエメリナは返事をする。


「いいよ」

「わかった」


 二人は快諾して、アストールはそんな二人に続けていた。


「じゃあ、警備体制の確認しときたいんだけどいいかしら?」


 アストールの言葉を聞いてメアリーはすぐに聞き返す。


「いいけどさ、今回の警備状況で、私達っているの?」


 メアリーの言葉に対して、アストールはすぐに返す。


「警護班からしたら不要と思われるかもしれないけど、私個人としては欲しいのよ」


 アストールとしては腕利きの信頼できる従者を二人が近くにいた方が安心できる。

 彼女かれは二人に対して言葉を続けていた。


「だから、ノーラ殿下に一番近い所に私を配置、エメリナは前方警戒、メアリーは後方警戒を頼みたいわ」

「他にも王族従騎士達が着くんでしょ?」


 エメリナはそう言って、これまでの警備状況を思い返していた。

 ノーラが移動する際は、必ず王族従騎士がノーラの周囲を固めており、どんな相手だろうと不用意には手出しできない。堅牢な警護体制が敷かれていた。

 それに加えて今度の視察はフェールムント城の中だ。

 襲ってくる相手はまずいない。


「そうなんだけどね。まぁ、何となく嫌な予感がするのよね」


 アストールの言葉を聞いたエメリナは怪訝な表情を浮かべた。


「やめてよねー。エスティナのその嫌な予感、外れたことないんだから」


 エメリナの言葉にアストールは苦笑する。


「仕方ないでしょ。それに備えあれば憂いなしって言うじゃない」

「それはそうだけどさ」


 エメリナはそう言って不安そうな表情を浮かべる。


「正直、街の雰囲気はよくないよね」


 メアリーはそう言ってフェールムント城の外の方へと目を向けていた。

 ここの街に入った時に、メアリーは明確な敵意を色々な処から感じたのだ。

 王女の来訪を歓迎していないのは、誰でもわかるのだが、その中でも特にメアリーは市民から向けられる敵意を敏感に感じ取っていた。


「アストールが不安に思うのもよくわかる」


 メアリーはそう言ってアストールが護衛の手伝いを申し出たことに納得していた。


「何にもなかったらいいけどなぁ」


 エメリナはそう言って後頭部に両手を当てて空を見上げる。

 空は雲で覆われていて、まるでこれから起こる事を暗示しているかのようだ。

 そうしているうちに、更衣を終えたノーラが、ナルエとイレーナを引き連れて部屋から出てきていた。


 扉横に待機していた10名の王族従騎士が、ノーラの周囲を固める。

 アストール達もすぐにその中に紛れていた。

 そんな物ものしい雰囲気の警備の前に、フェールムント守備隊長のグリドが現れていた。


「ご機嫌麗しゅう! ノーラ王女殿下!」


 慇懃に礼をして見せるグリドに、ノーラは王族の女子としてスカートのすそを持って礼をして答える。


「グリド殿! 出迎えご苦労である。さて、これより、フェールムント城の警備状況を見て回るとのことだが……」

「は! まずはフェールムント城の外城壁の警備状況の視察を行いましょう」


 ノーラはグリドに連れられて、フェールムント城の堀の内側を囲む外城壁へと向かっていた。

 外城壁の上に着くと、街を一望できる。

 城門から城門へと続く道は真っすぐと一本で通されており、城壁から敵がどこを通ってくるのかがよくわかる。そして、何よりもノーラの目を引いたのは、街に向けられた大砲だった。

 外城壁の上には大砲が設置されており、ノーラはその大砲を見てグリドに問いかけていた。


「城とは言え、街に向けて大砲を配置しているとは……」

「これはフェールムントを我々が占領する前からあるものです。敵方も万一に備えていたのでしょう」

「撤去はせぬのだな?」


 ノーラの鋭い指摘に対して、グリドは頭を下げて答えていた。


「はい、我々も万一に備えておかねばなりません」


 グリドはバツが悪そうに答えていた。

 実際に民衆から敵意を向けられてしまっていると、この大砲も中々撤去がしにくいものだ。

 何よりも、人員不足と言う名目の元、大砲の撤去は後回しにしているのだ。


「この様な武装は、真っ先に撤去すべきとは思うのだがな」


 ノーラの指摘もまた尤もな事だった。

 既に戦時ではないのだ。

 戦いが終わったにも関わらず、大砲を街に向け続ける意味を考えると、民衆が更に憎悪を膨らますのも無理はない事だった。


 とはいえ、王国軍としても、この大砲を易々と撤去はできない。

 暴動がよく起こっており、王国民が暴力にさらされている。そして、何よりも反乱の噂まである程だ。


 そうなると、ここまで都合よく設置された設備を、撤去するのは得策ではない。

 お互いが憎しみあい、そして疑心暗鬼になっている状況。

 ノーラはこの状況を真っ先に変えるべきだと思った。


「ふむ。まあ、よい。それで、次の視察場所はどこか?」

「は! 次は城の側塔を順次廻っていきたいと思います」


 グリドはそう言ってノーラ達を外城壁から、再びフェールムント城へと導いていく。

 そう、その移動の時だった。

 槍と盾をを持った複数の王国兵士が現れて、ノーラ達の行く手を阻む。

 グリドは王国兵士達を見て、彼らに一括を入れる。


「貴様ら! 何をしているか! ここは王女の御前であるぞ! 道を塞ぐなど言語道断!」


 グリドは護衛兵達の前から歩み出ようとするも、メアリーが彼を静止していた。


「閣下! 御下がりを! 彼らは明らかに我々に敵意を向けてきています!」


 メアリーは正面の王国兵士達が、自分たちに殺意を向けてきているのを感じ取っていた。


「やばいやばい! エスティナ! 後ろからも来たよ!」


 エメリナの悲鳴にも似た声で、一同が後方に向く。

 そこにはまた10名ほどの王国兵士が槍を持って逃げ道を塞ぐ。


「ノーラ王女殿下! そのお命! 頂戴いたします! 総員かかれ!」


 前方の兵士達は槍を構えると、ゆっくりと前進してくる。

 後方の兵士達も同様に槍を構えて戦列を組んで前進してくる。

 王族従騎士の判断は早かった。


 言葉もなく、すぐに5名ずつに前後に盾を構えて対峙する。

 そして、腰のロングソードを抜いて臆することなく、その兵士達に向かっていく。

 一見してリーチの長い槍に対して、明らかに王族従騎士達は不利に見えた。

 アストールはメアリーとエメリナを呼んで、イレーナとナルエ、ノーラを囲むようにして守る。

 そして、王族従騎士達の動きを見守った。


「こ、こんな事が起こるなんて……。そんな、バカな……」


 グリドは自分の兵士が反乱を起こした事実を信じられないのか、その場に力なく跪いていた。

 アストールはそんなグリドの胸倉を掴んで、怒鳴りつける。


「おい! おっさん! あの王国兵士は何者なんだ!?」

「あ、あれは、多分、徴用兵かと……。しかし、ここに入れているのは、特に王国に忠誠を誓った者ばかり……。こんな事、こんな事など、あり得ぬ」

「あり得ぬじゃないんだよ! 今目の前で起こってるだろ!」


 そんなやり取りをしている間にも、戦端は切って落とされていた。

 王族従騎士達は自分たちに向けられてきた槍を盾で振り払うと、大きく踏み込んで距離を詰める。

 そして、ロングソードの横凪ぎで王国軍兵士を切り捨てていた。

 だが、彼らはそれを見越していたのだろう。

 一対一の戦いの中、その半分は攻撃を潜り抜けて突破してきたのだ。


「王女を殺せええ!!」


 気迫のある突撃の中、メアリーは向かってくる兵士に、的確に弓を当てていた。

 相手を一発で無効化できる額に矢が突き刺さり、王国兵の一人が倒れる。だが、残りの四人はそれでも勢いは止まらない。

 その後ろからは王族従騎士達が迫り、王国兵の背中を斬りつけていた。

 容赦のない一撃に兵士達は倒れていく。


 前方の敵は掃討されるも、後方の敵は違っていた。

 後方の方では予想外にも王族従騎士が2名討ち取られたのだ。

 6名の兵士が突破することに成功し、二人に迫っていた。


 エメリナは両手に短刀を、アストールは剣を抜いて、突撃してくる兵士達を迎え撃つ。

 ノーラは使い物にならないグリドの腰より剣を引き抜き、自分の身を守るための戦いを決意する。


 エメリナは短刀で槍をいなして兵士に近付き、首をかききる。

 アストールは正面に迫る兵士の槍を、剣で切り落とすと、兵士に袈裟懸けを浴びせる。

 それを兵士は盾で受けていた。


 エメリナはその横を抜けていく二人の兵士に、ナイフを投擲して首に突き刺す。

 それでも二人がノーラの元へと到達してしまう。

 だが、そのうちの一人の頭に矢が突き刺さり、そのまま倒れこむ。


「お前を殺す!」


 最後の一人がノーラに斬りかかるのを、イレーナとナルエが身を挺してかばおうとする。

 だが、ノーラはその二人を跳ね除けて、正面から振り下ろされた剣を受け流していた。


「私もただで死ぬわけにはいかないのだ!」


 ノーラはそう言って兵士と真正面から向き合う。


「人殺しの王女があああ!」


 兵士はそう言ってノーラに数度斬りかかる。

 ノーラはその全ての攻撃をいなして、華麗に剣を振るっては王国兵から距離を取る。

 その流麗な剣技は、王族従騎士にも劣らない。

 だが、そんなやり取りは、長く続かなかった。


 王族従騎士達が突破してノーラに襲い掛かる兵士に剣を突き立て、兵士は串刺し状態となっていた。返り血がノーラを真っ赤に染めて、憎悪を込めた目がノーラを捉える。


「お前らが、こなかったら、俺は、俺……は幸せにくらせ……たんだ……」


 憎悪を向けられたノーラは、兵士から呪いの言葉を浴びせられる。

 ノーラはそんな兵士を前に、剣を下げていた。

 ノーラは初めて直に殺意を向けられた事に気づき、手が震えだしていた。


 王族従騎士達が剣を引き抜くと、兵士は剣を落としていた。

 アストールはようやくの思いで目の前の兵士を切り伏せると、ノーラへと振り返える。

 彼女がいくら剣技に卓越していたとはいえ、これは咄嗟に彼女がとった反射的な行動だ。

 襲撃された事に動揺を隠しきれていない。


「ちゅ、中止だ! 中止! 視察は中止! すぐにゴラム騎士長と近衛騎士を呼び、フェールムント城へ向かう!」


 イレーナもまた動揺しつつも、的確な指示を出していた。

 グリドもようやく気を持ち直したのか、立ち上がっていた。


「こ、ここは徴用兵の警備エリアです。危険なので、すぐにこちらへ!」


 気を取り直していたグリドはノーラ達を引き連れて、最短でフェールムント城へと向かう道へと一同を案内するのだった。


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[良い点] 思ったより呆気無い……。いや、危ないは危ないのですが何とか対応出来るレベルだったのは何よりです
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