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ゴルバルナの秘密の実験 2

「さてと、そろそろ新しい実験材料が欲しい所だな……」


 ローブをまとった初老の男は、薄暗い部屋の一室で笑みを浮かべながら椅子に座らされ、両手を縛られた少女を見ていた。

 目隠しをされており、自分がどうなるかもわからない状況。

 その状況にひどく怯えており、それが男の加虐心を更に増大させる。


「ひひひ。この王城の中で、まさか、こんな事が行われていようとは、誰も知るまい」


 男は下卑た笑みを浮かべて、少女をなめずりまわすように見ていた。

 少女は震える声で、男に問いかける。


「わ、私は、ど、どうなるんですか?」


 健気な少女を見て、男は満面の笑みで答えていた。


「安心するがいい。今までの苦しみと辱めからは解放してやる」


 男の声に少女は怯えながらも、安堵の溜息をついていた。今の今まで、この部屋に監禁されていて、逃げだすことさえままならなかった。

 拷問に近いことをされても、治癒魔法で無理矢理に治療される。

 そして、また虐待と凌辱の繰り返しである。だが、それを行ってきた本人が解放すると言っているのだ。とうとう、なぶることに飽きてくれたのだと少女は安堵する。


「さあ、立つがいい。そして、私の元に来るがいい。すぐにでも、解放してやろう」


 男はそう言っていつも以上に優しく少女に声をかけていた。

 少女はこの苦しみから解放してくれるのならと、従順に従っていた。そして、椅子から立ち上がると、男の声を頼りに歩み出す。


「よしよし、そのまま真っ直ぐ歩いてくるがいい」


 男の前まで来たのだろう。人の気配が前にあることに気付いて、少女は歩みを止める。


「いい子だ。約束通り、解放してやろう」


 男の声に少女は、口を震わせていた。

 男は少女の目隠しを取り、そして、一歩後ろに下がる。


「あ、あの手も解いて頂けないでしょうか? ご主人様」

「その必要はないだろう」


 男の声に少女は一瞬言葉を失う。そして、また、あの陰惨な行いを繰り返されるのかと、絶望した表情を見せる。


「安心しろ。解放はしてやる。生という苦しみからな」


 男はそう言うなり指を鳴らす。それと同時に少女の立っていた床が突然開き、少女は床に空いた穴に落ちて、男の目の前から消えていた。

 何をされたかさえも分からないまま、おそらく少女はそのまま息絶えているだろう。

 男はそれを思うと、再び声を上げて笑い出していた。


「くははは。愉快、愉快。あの絶望する顔は何度見てもいいものだ」


 高笑いする男の後ろで、大きな機械が動き始める。いくつものパイプや実験管が並んで、木製の支えで組まれた大がかりな装置だ。

 床から続いている透明な管から、ゆっくりと赤い液体が吸い出され始めていた。


「ふふ、憎しみと絶望と悲しみと怒りと怨念、その全てをぶつけるがいい」


 男はそう言ってその大がかりな装置を背に歩き始めていた。



    ◆



「ああ? なんで、俺が王城の地下の夜間警備をしなくちゃいけねえんだ?」


 エスティオは不機嫌そうにエストルに言う。

 第一近衛騎士団の騎士団長の執務室にて、優男ことエストルは無表情で彼を見る。


「最近、夜な夜な地下から女の悲鳴や赤子の鳴き声、それに老人の悲鳴と、何やら異常な声が聞こえてくるらしいのだ。だから、その原因を探ってほしいと依頼があったのだ」


 エスティオはそれを聞いて、内心毒づいていた。


(なんだよ。今噂になってる怪談話をマジにしてんのか、この馬鹿は……)


 ヴァイレル城では数年前から、地下からうめき声や悲鳴などが聞こえてくるという報告が後を絶たない。特にその現象は夜に起こることが多く、もっぱら噂では悪霊や怨霊などがこの城の地下に住み着いているとか噂だてられていた。

 そのせいか、夜になると王城付の侍女でさえ、地下には近づこうとしない。

 だが、それはあくまで怪談話だ。

 そんな噂話をまともに受けて、警備して原因を探ることなど、近衛騎士の仕事ではない。エストルがそれを頼んだ理由はただ一つだ。

 それは……。


「そんなに俺を遊ばせたくねえのか?」


 確かに多忙な日々を過ごしているとはいえ、任務を与えられていない時は城下町に出ては、女を抱いて、王立騎士と喧嘩を繰り広げる毎日だ。そんな彼に従者も呆れかえって声もでない。

 それで近衛騎士の評判を落とされることを、エストルは良しとしない。だが、そうなった一因は、エストルにもある。ある日を境に、多忙を極める外回りの任務ばかりを押し付けだしたのだ。

 そのストレスを発散する意味もあって、エスティオは城下町に繰り出していた。

 エスティオの嫌悪する表情と態度に、エストルはムッと眉を吊り上げる。


「ふん。貴様は近衛騎士随一の実力者であろう。貴様なら、何でも解決できると、自分で豪語していたではないか」

「はん、それは相手が剣の通用する奴の話だ。幽霊は別だろうが! そんなことは騎士のするこじゃねえ。神官なり僧侶なり呼んでお祓いしてもらえっての!」


 エスティオは真っ向からエストルに突っかかる。

 もちろん、エストルの狙いが自分を遊ばせないためであるということが分かっているからだ。


「だがな、アストールよ。地下警備も重要な任務だ。ここ数か月、王立騎士が警備担当していたが、腰抜けどもはすぐに仕事を放りだしたんだ。そこでそのツケが俺たち近衛騎士に来たわけだ。それに、今、手の空いている者は、貴様と新人騎士くらいであろうが」


 尤もらしい理由をこじつけて、エストルはエスティオに面と向かっていた。

 こう言われると、エスティオも引き下がるしかない。

 さすがに正論ばかりを並べられていると、反論のしようがないのだ。


「わーた。わーったよ。やります。やります」


 だるそうに返事をするエスティオを見て、エストルは微笑んでいた。


「わかったならよい。では、新人騎士のウェインとヴァリウス、ウラヌスらをつれて」


 エストルがそう言い終わるより前に、エスティオは大きな声で言っていた。


「却下、俺は一人で行く。新人の面倒はグラナのおやっさんにでも見てもらえ。でないと、俺はいかねえからな」


 一度言い始めると聞かないのがエスティオである。それをよく知っているエストルは大きくため息をついていた。


「仕方ない。そこは妥協しよう。貴様が一人でいきたいのなら、行くがよい。ただし、他の近衛騎士も共に警備にあたっているということを忘れるな」


「ああ、了解だ。じゃあ、俺はいくぜ」


 そう言ってエスティオは執務室から出ていき、アリーヴァのいる侍従室へと向かっていた。


2022年7月1日 一部改稿しました。

誤字、描写の修正を行っています。

ストーリーには影響ありません。

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