表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
229/279

ダントゥール来訪 2

「はぁー。護衛任務も悪くはないねぇ」

「どうしてよ?」


 アストールはノーラの宿泊している宿屋の部屋のベッドで大の字になっていた。


「だって、これ、ここのベッド最高級のベッドだぜ?」


 その横のベッドでメアリーも同調する。


「まあ、確かにこんな綺麗でふかふかのベッドで寝れるなんて思ってなかったからね」

「ゴルバ探しの邪魔されてんだから、このくらいの待遇じゃないとやってらんないぜ」


 アストールはそう言うと天井を見上げていた。

 魔法による灯によって部屋の中は明るく、広い部屋にはアストール達の荷物がポツンと置かれている。剣に加えて鎧や矢筒に弓、短剣といった物騒で部屋に似つかわしくないものだ。


「このまま何もなければ良いけどなぁ……」


 アストールはそう言うと今までの事を思い返していた。

 このダントゥールに行くまでの航海中、三つ目の港を目指している時に海賊に襲われて通信水晶を奪われた。だが、その襲ってきた海賊船の元船長と協力して、海賊船ごと通信水晶を奪還した。


 彼の協力がなければ、今頃無事に任務をこなすことはできなかっただろう。

 それに加えて、あの奪還時の海戦で、従者の中から誰も怪我を負わなかったのは奇跡だ。


 その後は、なんら問題もなくこのダントゥールに到着したが、ここではコズバーンが問題に巻きまれた。コズバーンは元傭兵であり、現地民にあのような恨みを買っていてもおかしくはない。

 そして、アストールは息つく間もなく、この護衛任務である。

 散々な目に合っていて、気が休まることはなかった。


「まあ、ノーラ陛下の護衛であるから、ここにいるのは妥当っていうところか」


 アストールが考え込んでいると、部屋の両開きの扉が軽く二回ノックされる。

 彼女かれはベッドから立ち上がって扉の前まで行くと返事をする。


「どなたでしょうか?」

「イレーナ・ファルナ執務官です」


 アストールはその名前を聞いて、メアリーと目を合わせる。

 かつては自分を策に嵌めようとした相手だ。ぎょっとするのも仕方がない。

 彼女かれは扉をゆっくりと開けて、警戒しながら扉の外に視線を向ける。

 そこには少し疲労しているのか、あまり顔色のよくないイレーナが佇んでいた。


「あの、何用でしょうか?」


 扉の前に佇むイレーナは、アストールを前にすると凛とした雰囲気を取り戻して彼女かれを見ていた。アストールはそんな彼女を前に怪訝な表情を浮かべる。


「今後の姫の予定についてお話をしたくお伺いいたしました」

「もう、夜なんだけど……」


 アストールは不服そうにイレーナを見る。

 過去には魔法転送装置の実験台にされたこともあり、彼女に対する心象はよくない。


「夜更けにすみません。私も仕事をしていて、この時間になった事はお詫びいたします」

「なら、これから支度をするから少々お待ちを……」


 イレーナも今回の執務に関しては、かなりの仕事量なのは想像に難くない。

 アストールは気を使って、部屋へと入る前に身支度を済ませようとする。


「いえ、ここの部屋で結構ですよ。ご足労をかけるのも迷惑でしょうし」


 イレーナから場所を移さずにここで打ち合わせをすると告げられ、アストールは拍子抜けする。


「あ、そう……。なら、中へどうぞ」


 アストールはイレーナを中へと呼び込むと、部屋の机の前まで誘導する。


「では、少しご相談する時間を」

「ええ」


 二人は机を前に対面して椅子に座る。

 イレーナはアストールの態度がぎこちないことに気づいて、表情を和らげる。


「そんなに警戒なさらなくても、私はあなたをとって食べやしませんよ」

「い、いやあ、刺客を直接送ってきた相手に言われてもねぇ……」


 アストールの皮肉交じりの言葉にも、イレーナは動じることなく笑みを浮かべていた。


「あれはもう過去のお話です。今はノーラ様に同じ志の元仕えて頂く同志ですよ」


 イレーナは柔和な笑みのまま言ってくるも、アストールは今一つ彼女を信頼できなかった。


「ま、まあ、いいわ。話を進めましょ」

「そうですね。貴方もご存じの通り、このダントゥールでの行事より、貴方は常にノーラ様の傍らに仕えて頂く予定です」

「ええ、そうですね」

「それ以外にも、街から町へと移動する際は、ノーラ様の乗車する馬車にもご同乗いただきたいのです」

「ええ!? 私が!?」


 驚嘆するアストールを前に、事も無げにイレーナは答える。


「はい」

「馬車には私と侍女のナルエもノーラ様と同乗する予定です」


 アストールは複雑な胸中を吐露したくなるのを我慢する。

 ノーラとイレーナの関係が上手くいっていないのは、十分に察しがついているのだ。


「貴方は王国でも名を轟かせておりますし、この西の僻地でもその実力を買われての護衛任務」

「と言われましてもね……」

「この地で名を上げたくはないのですか?」


 イレーナの問いかけに対してアストールは即答する。


「うん。いやだね」


 アストールの答えを聞いたイレーナは少しだけ驚いて見せていた。


「意外ですね」

「なぜです?」

「てっきり名声欲の塊かと思っていましたので」

「嫌味をはっきりと言うんですね」


 イレーナの言葉にアストールは不機嫌になるのを隠すことなく告げていた。


「すみません。思った事はつい口にしてしまうので……」

(嘘つけ、この女狐!)


 アストールはそう内心毒づきながら、イレーナに向き直っていた。


「まあ、いいですよ。私は別に有名になりたくてなったわけじゃないってのが分かってくれたなら」

「ええ、心中お察しします」

「同乗の件は了解しました。馬車の警護にはエメリナとメアリーを近くに着けて頂けますか?」

「どうしてですか?」

「二人は私の大切な目と耳です。従者一同全員がいてこそ、私の活躍があるんです」


 アストールの言葉を聞いたイレーナは逡巡した後にこたえる。


「いいでしょう。承りました」

「ありがとうございます」


 アストールの礼を聞いた後、イレーナは続けて次の話題を彼女かれに投げかけていた。


「それと、予定表にあるシャレムでの護衛兵の補充ですが」

「ああ、あの現地徴用兵を使うとかいうあれ?」

「ええ。今回変更がございまして、現地徴用兵ではなく、傭兵を雇い入れる事になりましてね」

「ええ!? 傭兵!?」


 アストールは驚嘆するもイレーナは至って平静に答える。


「はい」

「また、なんで傭兵なんか?」

「ちょっとした噂を耳に致しましてね」

「噂?」

「そう、これは一部の重役にしか知らせれていないので、絶対に他言無用でお願いしたいのです」


 イレーナの言葉を聞いてアストールはまた厄介ごとに巻き込まれることを察していた。

 そして、彼女に対してためらいなく告げる。


「あーーー。もう、いい、そう言うの、それ聞いたら、絶対面倒なことになるでしょ」


 アストールはそう言って今までの自分の経験則からイレーナの言葉を遮ろうとする。

 だが、イレーナはそんなアストールの態度を気にすることなく告げる。


「聞いてもらわないと困ります。この事はゴラム王族従騎士長と私、近衛騎士の護衛隊長の三人の判断で、貴方にも周知すると決まったことです」


 アストールは即座に自分が更に面倒なことに巻き込まれた事に気づく。

 だが、そう言われては、彼女かれもこの面倒な話を聞かざるをえなかった。


「なんでもこの西の地のどこかの都市で反乱の兆しがあったというのです」

「どこかって、どこよ?」

「残念ながら、都市までは特定できなかったのですが、今回の訪問する都市も含まれているとのこと」


 アストールは深くため息をついていた。


「成程ねぇ。反乱の可能性のある徴用兵よりも、金で信用を買える傭兵を護衛隊の補充とした方が安全ってこと?」

「そういう事です。この西の地でも名の通った信頼のおける傭兵団です」


 そう言いつつも、イレーナは悩まし気に持ってきた資料に目を向けていた。


「なにか問題でもあるんですか?」

「その傭兵団の選定、誰がしたか知ってますか?」


 イレーナの唐突な問いかけに対して、アストールは怪訝な表情を浮かべる。


「えーと、ゴラム騎士長?」


 イレーナは予想通りの答えが返ってきたことに小さくため息を吐くと、少しだけ怒気をこめた声で告げる。


「違います。ルードリヒ執政官です! また、なんで私に無断で傭兵団の選定まで行うのか、私には理解できません!」


 イレーナが怒っていることに、アストールは迷惑そうに顔を背ける。


「ごほん! 失礼しました。少々取り乱しましたね。まあ、そう言うわけなので、この事は他言無用と言う事でお願いします。特にノーラ殿下には絶対に知らせないようにしてください」

「……また、なんで?」

「ノーラ様のご公務に支障が出てはいけませんからね」


 反乱の兆しがあると分かった上で公務をこなすことなど、余程の図太い神経でなければ、中々に務まらない。万が一に備えておくのは、その周囲を固める重鎮の役目なのだ。


「それもそうか……」

「ご理解いただけたなら何よりです」


 アストールはイレーナが執務官として危機管理を行おうとしているのは理解した。

 だが、それでも今一彼女を心の底から信用はできない。


「まだ、何かご不満でも?」

「不満って程じゃないんだけど。貴方さ、私を殺し損ねたでしょ」

「ええ、そうですね」


 あっけらかんとした態度のイレーナを前に、アストールは呆れていた。


「否定しないんだ」

「もうバレてるなら隠す意味もない事実ですし、否定した所で、貴方は私を疑ったままでしょう」

「そ、それはそうだけど」

「であるならば、腹を割って話した方が貴方は私を信頼できるでしょう」


 イレーナは真顔でアストールを見つめる。彼女の真意が分らず、アストールは疑問に思っていた事をストレートに聞き返していた。


「そんな重要な情報、ましてや反乱の兆しがあるなんて事を、なんで事前に教えてくれなかったの?」

「貴方は末端の護衛者です。当初は教えることの方がリスクが大きいと判断したからです」


 イレーナは今回の親善訪問において不安要素は極力排除しようと考えていた。

 どこの都市が反乱をしようとしているかも分からない噂話。だが、その噂話を大っぴらに周知してしまうと、そもそも親善訪問が物々しく変わってしまう。

 相手を威圧しての親善など成立しないのだ。

 だからこそ、イレーナは『噂話』程度の脅威は、重役の中だけでとどめておいたのだ。


「所詮は噂話です。私は信じてはいませんが、西の情勢も安定していないのは事実ですし、念には念を入れて周知と変更です」

「そうですか」


 アストールはイレーナが事実を述べているのを確信して、態度を軟化させる。


「こうして話をしてくれた事には感謝するわ」

「なら、良かったです。私も貴方を信頼しての打ち明けです。此度の親善訪問、共に力を合わせて成功させましょう」


 イレーナの言葉を聞いてアストールは頷く。


「そうですね」

「では、これにて。夜分に申し訳ありませんでした」

「いえ、大丈夫です」


 イレーナは立ち上がると、貴族の子女らしく礼をして見せると、部屋から出ていった。


「て事だから、メアリー、他言無用でお願いね」

「分かってるよー。今聞いた事、全部忘れるわー」


 メアリーの言葉を聞いて、アストールは自然と笑みを浮かべていた。

 アストールは今後の事を思案しながらベッドへと向かう。

 予定ではシャレムにおいて予め雇い入れている傭兵団が、新たに護衛に入る。

 この西においてそれなりに名の通った兵団と言うが、アストールとしては傭兵を完全に信用をできない。彼らはお金によって動く人種であり、ノーラへの忠誠では動かない。


 近衛騎士や王族従騎士とは全く違う人種なのだ。

 お金さえ十分に支払われていれば、彼らは十分な働きをするだろう。

 そして、この王族の護衛を果たしたとなれば、それこそ傭兵団には泊がつく。

 彼らからすれば、十分な利はある。しかし、今一つ解せない。

 それが反乱の噂だ。


「大丈夫かなぁ……」

「何が?」

「聞いてたでしょ。反乱の噂」

「噂話じゃない」


 メアリーは軽く受け流すように言うも、アストールは不安であることに変わりはなかった。


「火のない所に煙は立たないって言うでしょ」

「それはそうかもね」

「エメリナに探ってもらおうかなぁ……」


 アストールはそう口にはしたものの、思考して実行に移すか迷う。

 今回の護衛任務において、急遽決まったこともあって、情報収集が不十分であり、実際警護にも不安がある。そして、何よりも情報を得られても、ノーラの予定は変更することはできない。

 反乱の起こる都市に入った時点で、できることはないのだ。


 だが、逆の思考をしてみると、西側での王国軍は主力が撤退したとはいえ、駐屯している部隊は強力であり、もしも反乱が起きようものなら、数日で制圧するであろう。

 そんな部隊がいる中で、反乱を起こすというならば、何かしらの勝機がないことには起こらない可能性が高い。イレーナはそう算段をつけているのだろう。


「まあ、護衛も多くなるし、大丈夫か……」


 アストールはそう呟くと眠りにつくのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] あ!イレーナめ アストールたちをすごい危険な目に合わせたのを思い出しました 怪しい!怪しい、、信じません!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ