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英雄への僻み 2

 港から更に町側に進んだ所、街の規模にあったこじんまりとした城が建っている。

 市街の中央にあり、港を一望できる場所に建っているのがダントゥール城だ。

 城の窓からは商船が出入りしているのが確認でき、町の活気を確認できる。

 そんな一室で城主たるティルク・ドールエン子爵は、悩まし気に書類に目を通していた。

 ギルドに対しての妖魔討伐要請をかけ、ノーラ王女殿下の通行ルートの安全を確保する。

 その分不足している報酬資金はダントゥール領主が見ることになっているのだ。


「全く、悩ましいな」


 急な遠征の決定によって警備体制の強化や、港への停泊船舶の数量調整など、その業務は多岐にわたっていた。何よりもダントゥールはけして大きな町ではない。

 人員を割くリソースには余裕がないのだ。

 警備体制を強化することにより、騎士隊は手一杯になり、妖魔討伐まで人員を割けないのだ。


 それ故の探検者ギルドへの討伐要請依頼だ。

 とは言え、今回は急遽決まったノーラ王女殿下の遠征である。

 余剰に出た準備資金は全て王国政府に請求できる。

 できるだけの安全確保は急務で行い、請求を少しだけ上乗せしていく。

 そうすれば、自分自身は損はしないのだ。


「とはいえ、忙しいことには変わりないか……」


 ティルクがため息をついて、書面に印鑑をついてた。その時だった。

 ドアをノックする音が聞こえ、ティルクは手を止めていた。


「何か?」

「ティルク様、面会希望者が来ておられます」


 扉越しに侍従の声が聞こえ、不機嫌そうにティルクは返事をしていた。


「面会希望者?」

「はい、王国近衛騎士代行のエスティナ・アストールという女騎士でして……」

「わかった。通せ」


 ティルクは侍従にそういうと、書類を机の端に追いやって、アストール達との面会の時間を設ける。数分もしないうちに、彼の執務室に絶世の美少女が侍従を引き連れて現れる。

 金髪の美少女は初老の魔術師とショートカットのこれまた美少女を引き連れており、ニールの前まで来ると三人はお辞儀をしていた。


「お初にお目にかかります。ご領主様。ヴェルムンティア王国第一近衛騎士団、近衛騎士代行のエスティナ・アストールです」


 青い目に凛とした顔つきの美少女であり、男性物の服を着ては居るものの、それでいて女性らしさを強調するボディラインは隠しきれていない。

 ティルクはアストールに目を奪われそうになるものの、自我を保って彼女かれに声をかける。


「私はティルク・ドールエン子爵、この地を治める地方領主である。エスティナ殿、ヴェルムンティア王国より遠路はるばるご足労ですな」

「は、労いのお言葉ありがとうございます」

「して、さっそくで申し訳ないが、御用向きは何かね?」


 ティルクは領主として毅然とした態度でアストールに接する。


「は! このダントゥールの警備状況を把握したく、ティルク様のご助力願えないかと参じた所です」

「我が町の警備状況を?」

「はい! お聞き及んでおられると思いますが、これより2週間後、ヴェルムンティア王国王女ノーラ殿下がここに寄港されます。その際の警備状況を把握する任務を私は帯びているのです」


 ティルクはその言葉を聞いて、アストールを訝しげに見ていた。

 それもそのはず、17、8の小娘がその様な大役を任されるとはとても思えないのだ。


「ふむ。すまぬが、貴公は命令書を持っておるか? こちらもそれを確認せん限りは助力もできぬでな」


 ティルクの言い分も尤もである。領主として町の警備状況を誰かもわからない人物に教えるわけにもいかない。ましてや、ノーラ王女がこの港にやってくるというこの大事な時期に、部外者に警備状況を教える分けにはいかないのだ。


「は、ここにありますので、ご確認を!」


 アストールは腰に下げていた鞄より命令書を出して、ティルクに手渡していた。

 ティルクはアストールから命令書を受け取ると、目を通していた。

 確かに彼女かれの命令書は本物であり、内容も彼女かれの言っていた事と合致する。


「ふむ。貴公の使命、大儀なこと。港の警備担当者のニールが今回の警備の統括担当しておる。分らぬことがあれば詳細を尋ねるといい。私からも後ほど下知する」


 ティルクがそう言うと、アストールは再び軽く頭を下げていた。


「ご助力ありがとうございます」

「いえいえ、貴公も若いながらにして難儀なこと、無理をなさらずにここでは任を果たされるといい」

「お気遣いありがとうございます」

「よいよい。彼女らをニールの元へと案内してやってくれ」


 ティルクは侍従にアストール達をニールの元へと案内するように促していた。

 アストール達3人は侍従に連れられて城より出て、再び港へと戻り警備隊屯所に来ていた。

 警備隊屯所内に入ると自警団員と騎士達が入り乱れていた。船の荷揚げ申請書の処理に、船籍証明書の確認、臨検結果のとりまとめや、違法搬入物の取締りと人でごった返していた。


「凄い活気ですね」

「ノーラ殿下の艦隊入港時は船舶の荷の揚卸し禁止ですし、その数日前から入港船舶の数に制限がかかりますので……。皆その前にできるだけ積み荷の揚卸しを前倒してるんですよ」


 ノーラの西方視察による弊害がこんな形で現れているとは思ってもみなかった。

 アストールは活気ある警備隊屯所内を唖然としてみていた。ヴァイレルですらここまでの喧騒さは、闘技大会でもない限り見られない。

 侍従は気にする様子もなく、アストール達を引き連れて屯所の奥の部屋へと案内する。


「ニール警備統括主任、本国より来られた騎士様をお連れしました」


 扉の向こう側から返事が聞こえ、侍従とアストール達は部屋へと足を踏み入れる。

 部屋に入ると事務机の前で忙しそうに書類に目を通す青年がいた。

 長めの波がかった黒の髪の毛を後ろでまとめ、痩けた頬には無精髭が生えている。切れ長の鋭い目がアストール達を一瞬捉えたかと思うと、直ぐに書類に目を戻していた。


「ティルクの使者がさっき来たな。話はきいてる。俺はニール・ジェディソンだ」


 ニールの不粋な自己紹介に対して、アストールは不快な感情を押し殺して答える。


「エスティナ・アストール近衛騎士代行です。早速ですが、現在の警備状況を伺いたいのですが」


 アストールの言葉をきいたニールは手を止めて、彼女(かれ)に向き直っていた。


「あぁ、警備体制はセラン副主任に聞くといい。俺も把握はしているが…。忙しくてな。すまん」


 ニールはそう言うと侍従に目を向けていた。

 彼はため息を吐くと、アストール達を引き連れてニールの部屋から出ていた。


「すみません。この繁忙の中、中々人員もいなくて……」


 侍従はそう言ってアストール達に謝る。


「いえいえ、それも仕方ないですよ」


 たらい回しのような扱いを受けるものの、それもこれも艦隊の入港が決定しているからだ。

 ガリアールですら人が足りなかったのだ。ここでは更に人員不足なのは明らかだった。

 ダントゥールは今まで寄港した港の中でも規模が一番小さい。

 明らかにキャパオーバーな量の積み荷が出入りしているのだ。倉庫も一杯であり、連日馬車が出入りしているが、追い付いていないのが現状だ。


 入港時には多くの船が港の外で停泊していたが、それはここの荷卸しや、荷揚げの順番待ちの船なのだ。ニールの忙しさにも納得はできる。

 侍従はアストール達をロビーまで案内すると、大声を上げていた。


「セラン副長! セラン副長! お客様がお見栄です! いたら、返事をしてください」


 侍従の声はギリギリ喧騒さに描き消されてしまい、仕方なく侍従は首を横にふっていた。


「少々お待ちくださいね」


 侍従はそう言うとアストール達をおいて人混みのロビーに消えていく。数刻もしないうちに中年の騎士を連れてアストール達の元に戻ってくる。

 騎士はアストール達を見ると、作り笑顔を浮かべて言う。


「ダントゥール騎士団団長のセランだ。警備状況の把握をしたいとな」


 アストールに対してはあくまでも柔和な笑みを浮かべているが、一刻もここを早く離れたいと言う雰囲気が漏れ出ている。


「はい! ノーラ殿下が入る前の状況視察をしたいのです」

「そうか……。見ての通り業務が一杯でしてな。騎士一人とて割けぬ状況。協力したいのだが、本当に人が居なくてな……」


 そもそもアストール達は抜き打ち視察だ。

 そこに当てる人員の予定はなかった。


「とは言え無下にもできぬ。明後日まで待ってもらえぬであろうか? それまでに人を用意しておく」


 アストールは現場の忙しさを目の当たりにして、頷くことしかできなかった。


「わかりました。では明後日昼より、もう一度ここに来ます」

「うむ、お気遣い感謝いたします」


 セランはそう言うなり、再びロビーの人混みへと消えていく。


「話もついたし、私たちは一先ず町の観光でもさせてもらうわ」


 アストールはそう言うとジュナルとメアリーを引き連れて警備隊屯所をあとにするのだった。


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