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新天地へ 2

 青々とした海と白い海鳥が、アストールの乗る船を迎え入れる。

 アストールは一週間ぶりに見る陸地を見て、背伸びしていた。

 そんなアストールの横に大きな男が現れる。


「我が主よ。これより先の地は今までと違うぞ」


 普段は滅多なことがないと話しかけてこないコズバーンが珍しく陸地を見ながら話しかけてくる。


「珍しいわね。私に話しかけるなんて……」

「うぬ……」

「何か忠告でもあるの?」


 アストールの言葉にコズバーンは昔の事を思い出したのか、ふっと苦笑する。


「なに、この先の地は我ら王国の人間に良い印象を持つ者が少なくなってくるだけの話よ」


 コズバーンはそう言うと小さく溜息を吐いていた。


「コズバーンって西方遠征に行ってたんでしょ?」

「うぬ。それがまさか、またこんなに早くに帰ってこようとはな……」


 コズバーンはそう言って遠くを見つめる。


「いい思い出はないの?」

「強き者を探して、戦争に身を投じたが……。真の強者と言う者には出会えなかった……」


 ダントゥールを前にしてコズバーンは懐かしいと言わんばかりに、腕を組んで街を見据えていた。


「全く変わっておらぬな」


 アストール達の乗っている船、ヘリファルテ号はダントゥールに向かって一直線に進んでいく。

 ダントゥールの港の外には20隻以上の船舶が停泊しており、港の賑わいを感じられた。

 アストール達を乗せている船ヘリファルテ号は早々に港につくものの、港内の桟橋は殆ど船が着岸している。

 その中で1ヵ所だけ着岸できる場所を見つけ、うまく桟橋へと船をつけていた。

 ダントゥールに到着したアストール達はヘリファルテ号の船長に別れを告げていた。

 運賃として金貨20枚を渡す。


 ここに来るまでの4つの港では色々な事件があった。

 ヘリファルテ号に乗っているのも、また、数奇な運命からである。とは言え、アストール達の西部の地に降り立ってからの任務は、これからが始まりなのだ。


 アストール達がダントゥールに到着後、ノーラ達王国艦隊がたどり着くのは2週間後のことだ。その間にこのダントゥールの安全確認を行わなければならない。

 ヴェギナム港のように海賊が潜伏している可能性もある。しかしながら、海賊達の行動原理には、常に自分たちの利益の有無が関わっている。

 ノーラや王国艦隊を襲って何かメリットがあるのかと言えば、デメリットの方が大きいと言える。

 貴族や王族を襲って身代金を要求する事も出来るだろう。だが、それ以上に鉄壁の守りを持っている大艦隊を襲っても、返り討ちに会うのは目に見えている。

 アストールは海賊に関しての事よりも、この先向かう場所についての情報の収集の方が重要であると考えている。


 港を立ち去っていくヘリファルテ号を見送りながら、アストールは港の桟橋で考えていた。


「さーて、どうしたものかな……。そういえば、コズバーン」

「なんだ?」

「西方遠征で活躍したでしょ?」


 ふと、自分の従者が西方遠征経験者である事に気づいて、アストールは彼を見据える。


「うむ。この都市の城塞の門を破ったのは我であるからな」

「いや、さらっとそんなこと言われてもさ……」

「ふふ、懐かしいわい。とはいえ、この都市にも我を満足させる猛者はいなかったわ」


 コズバーンはそう言うと腕を組み、目を瞑って大きく嘆息していた。


「え?」

「門を破った後、相手方の大将をすぐに仕留めたが、猛者はおらぬし他愛もなかったわい」


 コズバーンはさらっととんでもない事を口にする。


「その功績は大きかったんじゃない?」

「ふん、金など下らぬもの、全部傭兵どもにくれてやったわ。我はそれよりも猛者を探しているのだ」


 恐らく相当数な報酬がコズバーンに支払われたのであろう。だが、彼はそれを全て傭兵に上げたという。彼の功績を見る限り、金は有り余るほど稼いでいるのは、容易に想像がついた。


「まったく、なんというか……」

「だからこそ、そなたの兄を共に探しておるのだ」


 アストールはその言葉を聞いて苦笑する。

 彼女かれ自身正直に言えばたとえ男の体に戻ったとしても、このコズバーン相手に勝てるとは到底思えない。

 ましてや、大剣をふるったとしても、この大男と対峙してどのくらい立っていられるか想像もしたくない。アストールは一瞬だけ男に戻るのをためらおうかと思ってしまうほどだった。


「とはいえ、そなたの兄は未だどこに居るかわからぬ……。全くもってじれったいのう」


 コズバーンはそう言って空を眺める。明らかにまだ見ぬ強者に恋焦がれるかの如く、とても寂しそうな表情を浮かべていた。


(まぁ、ここにいるんですけどね……)


 そんな口が裂けても言えないことを思いながら、アストールは再び彼に聞いていた。


「あのさ、コズ」

「なんだ?」

「この港町ってどう言う印象なの?」

「ふぅむ。雑魚の集まり、雑兵しかおらぬ。烏合の衆といった所か……」

「あぁ……。ごめん。聞く相手間違えたわ」


 アストールが聞きたいのは、敵の強さなどではなく、この港町が抱く王国への印象と言った所なのだ。コズバーンの的外れな言葉に小さく溜息を吐いていた。


「だが、この先のフェールムントはそこそこ楽しめた」

「ええ? コズバーンが楽しめたって!?」

「うむ。フェールムントを治める城主、確か名はエリオスであったか。我の大斧の一撃を耐えた初めての人間だった。だが、それも一撃のみ、二撃目には我の愛斧バルバロッサの錆となった。あれで決まったはずであったのだがな……」


 コズバーンが珍しく苦虫をかんだかのように表情をゆがめる。


「味方とはいえ、我は奴ら傭兵共の行いには虫唾が走ったわい。我はあれ以降、この地で戦うことはやめた」


 珍しくコズバーンの表情がくぐもっていた。

 今までアストールの前でその様な表情を見せた事はなく、彼女かれはコズバーンの顔を見ながら聞いていた。


「何があったの?」

「フェールムントで傭兵の奴らが行った蛮行は惨いものだった……。我があのエリオスを倒してしまったことを後悔させるほどにな」


 コズバーンはそれ以上口を開こうとはしなかった。

 フェールムントの戦いを最後にコズバーンは西部戦線から姿を消して、放浪の旅に出たということだ。それほどまでにコズバーンは凄惨な現場を目の当たりにしたのだろう。

 戦場では常と呼べるほどの略奪行為、だが、その中でも際立ったのがフェールムントだったのだ。

 喋らなくなったコズバーンにアストールは小さな声で誤っていた。


「ごめん、コズ」

「気にするでない。所詮は昔話よ」


 アストールの言葉に対してコズバーンは優しく答える。


「さて、我の仕事は暫くなさそうであるな。町を散策してくるとするか」

「問題は起こさないでね!」

「我がいままで問題を起こしたことはあるか?」


 コズバーンの問いかけに対して、アストールはふと思い返してみる。

 コズバーンが従者となってから、これまで彼自身が原因で問題が起きたことなど一度もなかった。

 だからこそ、今まで彼を野放しにしていても、何一つ困ることはなかったのだ。


「確かにないわね。失礼しちゃったな。ま、コズバーンの見知った土地だし大丈夫か」

「そういう事よ。では、また、我が必要となれば呼ぶがよい」


 いつものようにコズバーンは別行動をとりだしていた。

 だが、それが原因で大きな事件がこのダントゥール港に起ころうとは、この時のアストールは想像もしていなかった。


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[良い点] 確かに起こしていない……でも傭兵がヤバそう
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