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錯綜する企て 6

「本当に燃えるね……。こういう展開は!」


 アストールはこの状況を前にしても、自身の体の内に恐怖よりも、かつて男であった頃の様な高揚感を感じていた。

 全神経を集中させて目の前のサラマンドルを見据える。

 サラマンドルに飛び掛かられる寸前の所で身を低くして、右に大ぶりの横薙ぎでサラマンドルを切り捨てた。正面の三体は横に両断されて消え去っていく。だが、両脇から来たサラマンドルが残っている。

 振りぬいた剣を横から左横のサラマンドルの顔面に突き刺し、そのまま、右正面に向き直って上から剣を一閃する。

 あっという間にサラマンドルをいなして、続けざまに後ろに飛びのいていた。


 さっきまで彼女かれの居た所に大サソリの爪が突き刺さっていた。

 だが、その隙を見逃すほどアストールはお人好しではない。

 アストールは素早く走ってサソリの鋏の根元を剣で切り落とす。青い血が噴き出して彼女かれを染め上げる。


 大サソリは腕を失って後ろに怯み、もう片方の鋏でアストールを攻撃しようとした。だが、アストールは距離を詰めて顔面に剣を叩き込む。


 刃はその平たい大サソリの顔を真っ二つに切り裂いていた。

 頭を斬られて大サソリはその場で足を落とし、ぐったりと脱力する。


「やれる。やれるな!」


 アストールは手元の剣を見る。

 手入れを怠らずにキンキンに磨いてきた刃は、一切かけることなく鈍く白銀に煌めいていた。

 異常に切れ味のいいこの剣は、最早、アストールの相棒とも呼べる存在となっていた。


 競技場内に目を向けるとそこには地獄の様相を呈した戦場があった。

 コズバーンは大斧を持たないがゆえに、魔道兵器達と互角の戦いを繰り広げていた。


 彼に大斧さえあれば魔導兵器とも互角以上に戦えるだろう。

 だが、殴り殴られを繰り返すコズバーン、いずれは体力の限界がきてやられるのは時間の問題だ。

 何といっても魔道兵器は無尽蔵なエネルギーをその内に秘めている。


 持久戦ともなれば流石のコズバーンと言えど不利なのは明白だ。

 数多くの妖魔が闘技場内に発生したことにより、兵士達は乱戦を繰り広げる事になっていた。

 指揮も統率もなく組織だった戦いができず、妖魔と人間の個々の能力勝負となる。そうなると、不利になるのは人間側だ。

 数の上では優位なものの、弓兵達も味方に弓が当たるので、不用意に援護が出来ない。

 そんな乱戦の中、エドワルドの指揮している兵士達のみが統率された動きで妖魔達を討伐している。

 状況が逼迫しているのにも関わらず、彼らは焦ることなく戦いを続けていた。


「所々は善戦してるが……」


 全体的には押されつつある現実を前に、アストールは歯噛みしていた。

 現実的な対処法としては、コズバーンを援護して魔道兵器を破壊し戦線を再構築する。


「これ以外には方法はないか……」


 アストールはコズバーンの元へと駆け出していた。

 コズバーンは一体の魔道兵器に羽交い絞めにされていたが、それに対して力で無理やり背負い投げで、正面の魔道兵器に投げつける。


 二体は重なるようにして倒れ込み、コズバーンは走って自分の斧を取りに行く。

 その光景を見てやはりコズバーンは只者ではないとアストールは改めて感心する。


「ぬ、我が主か……。ここは我に任せよ! 久々に血が滾る戦いをしておるのだ! 大斧さえあれば我は負けぬ! ほかの者の援護へ回られよ」

「そうもいかないの! 貴方は楽しめるかもしれないけど、周りが危ないんだから! 協力して早く倒すわよ!」

「仕方ない。承知!」


 アストールはコズバーンにこの状況の一刻も早い打開を行ってもらいたかった。

 それにはまず、あの魔道兵器を倒す事が先決だ。


「アストール! 私も加勢するわ!」


 そんな所にメアリーが近場の妖魔の頭に弓矢を当てて倒しながら、駆け寄ってきて合流する。


「魔道兵器の倒し方、みんなわかるな?」

「任されよ」

「ふふ、前と同じようにコアを射抜く、それだけでしょ!」


 コズバーンは大斧を構える。

 アストールは魔道兵器に駆け寄って足に剣を滑り込ませる。

 本来なら弾かれるはずの剣は、石の足を易々と切り裂いていた。


 片足を着いた時に、コズバーンが胸部に大斧を振り上げて当てていた。

 強力な一撃で胸部の石が弾け飛んで、コアとなる魔晶石の一部が見えた。

 すぐに周囲から再生を始めるも、コアが隠れるよりも早くメアリーが矢でコアを射抜く。


 三人の連携によってすぐに一体の魔道兵器が崩壊を始めていた。

 だが、一喜一憂する間もなく、アストールは次の魔道兵器へと駆け寄っていた。


 魔道兵器はアストールに拳を振り下ろすも間一髪のところで避けて、その腕を一閃で切り落とす。

 腕から先がなくなった事に魔道兵器はもう片方の腕でアストールを掴もうとするも、その背中から大斧が襲い掛かる。倒れ込んだ魔道兵器の背中は、大斧で砕かれる。だが、一度の攻撃ではコアまで見える事はなかった。


 立ち上がろうとする魔道兵器の背中に何度か容赦のない大斧の一撃が加えられて、ようやくコアが見えていた。


 アストールは魔道兵器の背中に駆け上がり、そのコアへと剣を突き立てていた。

 ビキビキと音を立ててコアは割れて消滅し、魔道兵器は動きを止めていた。


「これでよし! 皆を援護するぞ!」


 アストールはそこから一気に事態の打開に走る。


 エメリナとレニがジュナルを守りながら戦い、ジュナルが的確に妖魔達に魔術を放って敵を倒していく。アストール達はエドワルドたちの元へと向かっていた。


 エドワルドは部下を巧みに指揮しながら、妖魔に対しては一体多数の体勢を徹底させていた。

 パイクや槍と言ったリーチの長い武器で妖魔達を串刺しにし、被害を最小限に抑えながら倒していく。

 その戦い慣れした兵士達を見て、アストールは感心していた。


「うちの王国兵士より手慣れてるじゃん」


 アストールはそう言いつつ、人型の妖魔を切り裂いてエドワルドたちの前へと辿り着く。


「公爵殿下! 大丈夫ですか?」


 アストールの透き通った声に対してエドワルドは感嘆の声を上げる。


「問題ない! それよりも君は本当に恐ろしいよ」

「え?」

「妖魔を恐れるどころか、何事もなかったかのように殺していく。オーガキラーの名も伊達ではないという事だ」


 エドワルドは剣を持って隊列の前へと出ていた。


「王国の女騎士に負けるな! 総員、油断せずに戦え! 彼女のお陰で敵は劣勢だ! いけえ!」

「コズバーン! 劣勢になっているところに行って援護を!」

「心得た!」


 コズバーンは闘技場内を見渡して王国兵士達が劣勢になっている所へと駆け出す。ジュナルは妖魔の群れている所へと魔法を次々に打ち込んで倒していく。二人の活躍によって闘技場内の戦闘は急速に落ち着いていた。


 アストールはエドワルドと共に剣で妖魔を倒していく。

 数刻もしないうちに闘技場内の妖魔達は掃討されていた。

 だが、その被害は大きい。


「ようやく終わったか……」


 アストールは周囲の惨状を見て嘆息する。

 幸いなことに一般市民に被害はなく、倒れているのは王国軍兵士とエドワルド配下の兵士だけだ。

 大量の妖魔と兵士の死体が闘技場内に散乱していて、地獄を呈していた。


「まったく、君といると退屈しないな」


 アストールの肩に手を掛けるエドワルドは周囲を見渡して嘆息吐いていた。


「私もこんな街中で妖魔と剣を交えるなんて思いもしなかったです」

「さて、この騒ぎ、どうしたものか」

「ん?」

「闘技大会は中止になるだろうし、ましてや国王のお膝元でこんな妖魔騒ぎを一般市民が目撃した。収拾するのはかなり手間がいるぞ」


 エドワルドはそう言って周囲を見回す。

 人が妖魔に変化した事実を市民たちは目撃している。そして、その後に魔道兵器や妖魔の召喚といった魔術師がらみの問題もある。これをどう市民たちに説明し納得させるか。

 それはとても容易な事ではない。


「まあいい。とにかく、これで俺の暗殺はもうないとみていいんだよな?」


 公爵は暗殺者が変化した妖魔に剣を向けてアストールに聞いていた。


「ええ、恐らくはもうないと思います」


 エドワルドは周囲を見回して流石に敵らしき者がいない事を確認する。


「もしも何かあれば、私が証人になろう」


 この大会を台無しにしたのはアストールであるのだ。もしもその責任を何らかの形で取らされるという事すら想定される。その時にはエドワルド公爵が直々に擁護してくれると名乗り出たのだ。


「それはありがたい申し出です。あ、そう言えばあの件は……」


 アストールはふと彼からエストルの居場所を教えてもらうという約束を思い出していた。


「暗殺から守り抜いたんだ。勿論教えるさ」


 エドワルドは笑みを浮かべて答えていた。


「じゃあ、すぐにでも……」

「そう急くでない。落ち着いたら私の居る館にきなさい。その時に教えるさ」


 アストールはその言葉を聞いてゆっくりと頷いていた。

 暗殺は阻止できたが結局犯人が何者で、どこの勢力なのかははっきりしないままだ。

 釈然としないままアストールとエストルは闘技場で佇むのだった。

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