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窮追(きゅうつい) 4

 ポッカリと空いた四角い穴には、広い階段をがまっすぐに続いていた。階段を降りきれば短い廊下が続き、その先に両開きの扉が五人を待ち構えていた。


「いかにもここで待ってますって感じだね」


 エメリナはそう言って短刀を構えて扉の周囲を見渡す。石で固められた壁に罠が仕掛けられていることもない。物理的な仕掛けはないと判断できた。


「仕掛けはないみたい……。魔法の仕掛けは?」


 エメリナが横に居るコレウスに聞くと、彼は目を瞑って集中して透視する。魔力による隔壁と言える流れこそ見えるが、魔法による罠は全く見られなかった。


「大丈夫みたいです」


「それじゃ、入ってみるか」


 リュードが両開きの扉の前まで来ると、残りの全員も揃って歩みだしていた。

 五人が扉の前まで来ると、両開きの扉は勝手に開いていく。

 扉の向こうは篝火かがりびが灯された広い一室で、天井にも炎が灯って部屋を明るく照らし出していた。部屋の奥には階段のついた石造りの台があり、その上に一人の男が佇んでいた。

 アストール達が部屋に入ると同時に、後ろの両開きの扉が固く閉ざされる。


「ふふ、ルスランから聞いておったが、まさか本当にこようとはな……」


 台の上に佇む初老の男は笑みを浮かべて、五人を見据えていた。


「あなたが、元凶の黒魔術師?」


 アストールが一歩前に出て聞くと、彼は相変わらずの笑みを浮かべたまま答えた。


「そんな訳はない。私は末端の魔術師に過ぎんよ」


 そしてその笑顔のまま両手を広げてみせる。すると、台の奥で光が放たれ、フードのついた外套を被った人影が三人召喚される。


「さあ、始めようか、私とお前たちの死闘を」


 三人の人影は剣を手に持っていて、黒魔術師の息が掛かっているのは明らかだった。魔術師が手を前に向けると、三人はゆっくりと歩みだして階段を降りてから一度立ち止まる。そして、三人はその場でフードをとっていた。


「そんな……。フィルガーさん」


 アルネが三人の男を見て、思わず呟いていた。

 そう、それはアストール達が知るキリケゴール族の眷属の三人だった。

 フィルガー達は無表情のまま、アストール達を見据えて動かない。

 アルネは思わずそこで外套のフードを取って、フィルガー達に叫んでいた。


「フィルガーさん! 私です! アルネです! 助けに来たんですよ!」


 胸に手を当てて大仰に言うも、フィルガー達は人形のように前を見据えたまま動くことはない。


「ほほう。お前もキリケゴール族か。どんなに叫ぼうとも、心に呼び掛けようとも最早手遅れよ」


 男は手をそのまま振り下ろす。同時にフィルガー達三人のキリケゴール族は、一斉に外套がいとうを脱ぎ捨ててアルネに向かっていく。


「な!? やらせるわけには!」


 アストールとリュードが素早く反応して駆け出していた。アルネに襲いかかる三人の内、両端二人のキリケゴール族の剣を受けて足止めする。真ん中のフィルガーは容赦なくアルネに襲いかかる。

 彼女は素早く槍を構えて上段からの袈裟懸けを受け流す。反射的に槍を胸に突き立てようとするが、アルネはすぐに思いとどまった。フィルガーはその隙に次なる攻撃を繰り出し、アルネは素早く回避する。


「フィルガーさん!? なんで! やめてください」


 アルネは攻撃を受け流しつつ、必死に叫んでフィルガーに語りかける。

 だが、何一つ彼女の声に反応しなかった。


「ふふ。なにを言おうと無駄だ。そ奴らは既に考える力など持ってはおらぬ」


 黒魔術師はそう言って人差し指を上に動かす。それと同時にフィルガーたちは一斉に猛攻撃を加え始める。急な攻撃の増加にアストールとリュードは防戦一方で手を出すことができない。それはアルネも一緒の事だった。


「手も足も出まいが! ふははは!!」


「くぅ! きたないことを!!」


 アストールは目の前の眷属を殺していいのかわからず、苦戦を強いられていた。アルネも彼らを傷付けることを躊躇している。

 もしかすればフィルガー達も操られているだけで、心の奥底に意識があるのではないか。そんな想いがアルネの攻撃を躊躇させる。


 だが、そのような優勢な情勢も長くは続かない。三人が戦闘を繰り広げる中、合間を縫うようにして駆け抜けていく。水の如く流麗で自然な動きで一気に階段を登ったエメリナが、短刀で黒魔術師に飛びかかる。


「もらった!」


 黒魔術師の首筋に短刀が当たる瞬間、黒い影が真横から瞬時に現れてエメリナを吹き飛ばす。


「くはぁ」


 エメリナは勢いよく地面に転がり、咳き込みながら彼女は台の上を見つめる。黒魔術師の前には一人の男がエメリナを見下ろしていた。彼がエメリナを吹き飛ばしたのだ。


「この間は無駄にはしません! いけえ! アルゴストン!」


 混戦の最中もひそかに詠唱を続けていたコレウスは、ようやく詠唱し終わっていた。彼の杖の先より火球が放たれる。

 あたれば即死する灼熱の火球が、黒魔術師と男に近づくにつれて大きくなっていく。遂には炎が男もろとも飲み込んでいく。これで全てが終わるはずだった。


「ふん。甘い考えだ……」


 黒魔術師が呟くと同時に火球が急激に小さくなっていき、遂には男の居る所で収束していって火柱を作り出していた。


「な! なにが!?」


 コレウスは驚嘆して男を見据える。本来であればあの火球は人であれば蒸発するほどの熱量をもっている。だが、目の前の光景はそれを如実に否定していた。


「ふふふ、これぞ我らが作り出した最高傑作よ」


 黒魔術師は不敵に笑う。炎の柱は徐々に人の形を作っていく。遂には炎そのものを完全に男が取り込んでいた。煌々と赤黒く不気味に輝く男の体は、明らかに何かしらの施術が行われている。

 黒魔術師は大きく笑いながら叫んでいた。


「ぬふははははは! どうだ? 我が最高の傑作品、人と上級妖魔の融合体!」


 燃え盛る炎に体を焼かれているというのに、男は何一つ呻き声さえあげない。それどころか人が焼け焦げる独特の匂いさえ感じない。


「そろそろ、頃合ではないか。全員の息の根を止めてやろう!」


 魔術師は両手を上げる。それと同時に戦っていたキリケゴール族の全身に、黒い鱗が現れる。ビッシリと全身に張り巡らされた鱗を盾として使い、片腕の剣で斬りかかってくる。


 すぐに距離をとるリュードに、敵のキリケゴール族は前に駆け寄ってくきて距離を開けることを許さない。下から振り上げられる剣に、リュードは咄嗟に腰の短剣を抜いて受けきる。


「ち!! コイツやりやがる!」


 リュードは蹴りを繰り出して相手から無理矢理に距離を取ると、腰に短剣をしまっていた。改めて真正面から相手を見据えて、正眼に剣を構えていた。

 相手は笑みを浮かべることなく、そのままリュードに突進してくる。


「やらなきゃやられる! 俺はやらせてもらうぞ!」


 リュードはアルネに対して断りを入れ、そのまま相手が突っ込んでくるのを待つ。一気に距離を詰めてきた相手は、上段から剣を振るおうとする。だが、リュードはそれよりも早く、大剣を上段から全体重を載せて振り下ろしいた。交わるふたりの影、刹那、次の瞬間にはウロコを身に纏っていた眷属が、リュードの大剣によって地面に叩きつけられていた。


 それでも立ち上がろうとするので、リュードは更に大剣を背中に叩き込む。けして削れることのない硬い鱗のおかげで外傷はない。だが、体の中に対するダメージは確実に響いている。


 眷属は腕をついて立ち上がろうとするが、気力だけでは体は付いて来ないのかそのまま仰向けに倒れていた。息を切らしたリュードは、アストールを見る。

 彼女かれは剣の攻撃を受けても、けして攻撃を加えようとはしなかった。別段攻撃できないほど、相手に隙がないわけではない。

 彼女かれの剣は特別なものだ。オーガすら斬るあの剣は、当てれば確実に眷属を斬り伏せるだろう。アストールはそれを躊躇しているのだ。


 更にその向こうではアルネが相変わらずフィルガー相手に苦戦を強いられている。リュードは状況を見てアルネに加勢する事を決める。アストールはあえて防御に徹している。それに比べてアルネは明らかに攻撃で圧倒されていた。だが、リュードが加勢しようとした時に、アルネはすぐに彼を引き止めていた。


「……待ってください!」


 アルネはそのまま短槍で剣戟を受け流しながら叫んでいた。

 右に左に繰り出される剣戟を受け流し、アルネは槍で攻撃を繰り出して距離を取らせる。


「フィルガーさん! お願いです! 目覚めてください!」


 アルネの呼び掛けにフィルガーはピクリとも表情を変えない。懸命な呼びかけを続けるも、あの時のように表情は愚か些細な変化さえない。一向に攻撃は止むことはなく、太刀筋も相変わらずアルネを狙い続けている。


「呼びかけた所で無駄よ。そ奴らの心はない。私の操り人形に過ぎんのだからな」


 黒魔術師が左手をあげて人差し指を曲げてみせる。それと同時に倒れていた眷属が立ち上がり、リュードに向かって攻撃を仕掛けていた。


「うぉお! まじかよ!」


 骨を砕いた手応えがあったリュードは、まさか倒した相手が向かってくることなど予想すらしていなかった。不意を突かれた背後からの攻撃に、リュードは身を左にずらしてやり過ごす。


 そして、すれ違いざまに足をかけて倒して、そのまま大剣を叩きつけていた。

 だが、今度はそれらしい手応えがない。むくりと立ち上がった眷属の表情に感情はない。死んだ瞳がリュードを捉えて離さない。まるで生者を恨むかのような漆黒の瞳に、リュードはつばを飲み込む。


「なんだってんだよ! こいつらは?」


「ふふ、感情などはない。頭を少し弄れば感情などない都合のいい人形などすぐにできる」


 笑みを浮かべた黒魔術師の言葉に、アルネは小さくため息をついていた。

 彼らは例えあの黒魔術師を倒したとしても、その体に宿したコンラチィリヴァの暴走によって二度と元に戻ることはない。ならば、せめてひと想いに殺すことこそが、彼らのためになる

 繰り出される攻撃を前に、アルネは決心する。


「ごめんなさい……。皆、助けられないで……」


 目の色を変えてアルネは二人に叫んでいた。


「エスティナさん、リュードさん。二人を楽にしてあげてください! 私はフィルガーさんを……」


 アルネの動きが瞬間的に変わる。剣を受け流した後、フィルガーの足に短槍の柄を引っ掛けて床に転がす。即座に真上から顔面に刃を叩き込む。だが、フィルガーの顔面も瞬時に鱗に覆われ、空いていた左手が瞬時にコンラチィヴァの尻尾の様に変化する。気が付けば左手のムチがアルネを襲う。


 彼女はそれをすぐに身を屈めてよけていた。だが、ムチはそのまま再び彼女に向かって振り返される。アルネは短槍の刃でムチを弾き返し、事なきを得ていた。


「フィルガーさん、今、楽にします」


 アルネは暗い声で呟いていた。未だ鱗による変化を見せていない左肩に狙いを定めて、アルネは即座に刃を突き立てる。鱗の変化は間に合わず、フィルガーはそのまま床に磔になっていた。


 距離を取らそうとフィルガーの右手がアルネを襲う。だが、彼女は素早く槍を手放して、そのままフィルガーの胸元に飛び込む。ムチの根元に飛び込んだアルネに、フィルガーの攻撃は届くことはない。


 気が付けばフィルガーの首元には、アルネの短剣が突き立てられていた。倒れる間際に腰の短剣を抜いて、フィルガーの首元に突き立てていたのだ。

 血が噴出してアルネを赤く染めていく。それでも彼女は容赦のなく、首元を切り裂いていた。


 痛みさえ感じないのか、フィルガーはもがく事もなくそのまま動かなくなる。

 血が首元より噴出していくに連れて、段々とフィルガーは硬くなっていき全身が黒くなっていた。


「これが眷属として、私からできるせめてもの手向けです」


 真っ赤な血に染まったアルネは、ゆっくりと立ち上がる。

 アストールはムチを物ともせず、剣で黒い鱗ごとスッパリと切り落としていた。素早く近寄って呆然とする眷属に袈裟懸けを浴びせる。鱗をものともせずに、確実に致命傷を与える。


 リュードもまた大剣で相手その者を叩き伏せ、床を這っている眷属に止めの一撃を浴びせていた。


「な……!」


 黒魔術師は唖然とする。今まで有利に攻撃を仕掛けてきた黒魔術師は、形勢が逆転しつつあることに驚愕していた。


「ええい! くらうがいい!!」


 黒魔術師は腕を振り上げると、炎の男を操っていた。炎の男は右手を出してアストールに向けて火炎を放っていた。火球が一瞬でアストールを飲み込む勢いで迫っていく。


「エスティナさん!」


 アルネが即座に叫ぶも、回避は絶対に間に合わない。どんなに身をよじろうとも、あの大きさの炎なら自分ごとを焼き払うだろう。アストールは反射的に剣を構えて、火に当たる寸前に剣を上段から振り下ろす。


「でえやあ!!」


 剣の刃が火球に当たり、それと同時に火球は真っ二つに切り裂かれていく。

 二つに分かれた火球はアストールの真横を通り過ぎていき、後ろの壁に当たってレンガを溶かしていく。


「まさか、炎が切れるなんてな……」


 アストールは自分が助かっていることに、安堵のため息をついていた。

 同時に剣で魔法の攻撃を切り裂く事が出来たことに驚嘆する。魔法を扱う際は精霊などを使役するため、物理的な攻撃で魔法を防ぐことは不可能に近い。盾で防いだとしても、一回の魔法攻撃を防いで盾が壊れる事などはざらにある。

 だからこそ、属性の付与魔法を武器や防具に掛ける必要があるのだ。

 だが、彼女かれの剣は、付与魔法を与えられる事無く、魔法言わば、魔力の塊を切り裂いていた。


「な、なんと!? 上級妖魔と同等の炎だぞ! そ、それを只の剣ごときが切るなど!」


 驚嘆する黒魔術師を見て、アストールはすぐに畳み掛けるようにして笑みを浮かべていう。


「へへ、どうやら私の剣は特別製らしくてね!」


 実際の所は自分でも魔法を切り裂く事が出来ることには驚嘆している。だが、ここでそれを気取られると、流れを変えられかねない。アストールはそれを感じて、敢えて余裕があるふりをした。

 黒魔術師はもう一度炎の男を操って、アストールに炎をぶつけようと試みる。


「やらせるかよ!!」


 アストールは素早く駆け出して炎の男の前までくる。手をかざすよりも早く、アストールの剣が男の腹部を横薙ぎに一閃する。男が片手を上げた時に、ズルズルと上半身と下半身が二つに別れて、その場に崩れ落ちていた。


「そ、そんな、馬鹿な……」


 黒魔術師は驚愕して後ずさる。アストールは崩れ落ちた死体を乗り越えて、ゆっくりと台座へ続く階段を上り出す。


「な、く、来るな! 来るなあああ!!」


 黒魔術師は腰を抜かしてそのまま尻餅をついていた。


「さて、あんたらの城に案内してもらおうか?」


 アストールが一歩一歩近づいていき、黒魔術師はそれに合わせるように後ろに、尻をひきずりながら下がっていく。

 その時だった……。


「でやああああああああ!!」


 突如アストールの横をアルネが駆け抜けていく。

 彼女かれが引き止める間もなく、アルネは黒魔術師の首元に槍を突き立てていた。


「ガフ!」


「絶対に! 絶対に! 許さない! お姉ちゃんも! みんな、みんなが……」


 アルネが恨みを込めた形相で魔術師を睨みながら言う。首元に突き刺さる槍を掴んだ黒魔術師は、アルネを見据えながら不敵に笑ってみせる。


「ぬふ、ふ、もう、遅い……。何もかもがな……」


 そのまま黒魔術師は力尽きて倒れこむ。アルネはそのまま槍から手を放していた。気が付けば彼女は膝をがっくしと落として、涙を抑えて泣き始めていた。


「アルネ……」


 アストールは彼女の後ろから近寄っていた。本来ならここで黒魔術師を捕まえておきたかった。本拠地の布陣を把握するためにも、この黒魔術師は必要だったのだ。だが、アルネが感情的になるのが分からないほど、アストールも非情にはなれなかった。アストールは優しく彼女を後ろから抱きしめる。


「我慢しなくていい……」


 アストールが声を掛けると同時に、アルネの涙がとめどなく流れ出していた。

 リュードとエメリナ、コレウスは二人に声を掛けることができず、ずっとその様子を見守っていた。暫し沈黙が続いていたが、扉が開いて上で戦っていたジュナルとメアリーが駆け下りてきていた。

 エメリナは二人の前にくると、小声で聞いていた。


「ジュナル、上は大丈夫なの?」


「ええ、コズバーンに任せておるし、粗方の敵は片付いております」


「それよりも、エメリナ、怪我してるよ?」


 メアリーがエメリナを見て、腕を打撲しているのを見つけていた。


「この位、たいしたことないよ……。それよりも、ジュナルこっちに」


 エメリナがジュナルを引き連れて、台座の方へと連れてきていた。

 台座の上には魔法陣が描かれている。


「ふむ。この魔法陣、転送魔法のモノのようですな」


 ジュナルが興味深そうに魔法陣を見ていると、後ろからコレウスもやってきていた。


「これが黒魔術の転移魔法陣……」


 コレウスは憎々しいと言わんばかりに、憎悪の視線を魔法陣に向けていた。


「さて、道を辿ってみまるとしますかな」


 ジュナルはそう言って魔法陣の前で目を瞑る。そして、魔法陣に微量な魔力を送り込んでいた。目を瞑った上で暗闇の中に、淡い魔力の線が飛んでいく。まるでレールを敷かれているかのように、軌跡を描きながら飛んでいた。そして、はるか向こうに見える小さな点へと繋がり、光を放っていた。


(どうやら、この魔法陣、敵の本陣に通じているようであるな……)


 ジュナルは魔力を送るのをやめて、ゆっくりと目を開けていた。


「ふむ……」


「やっぱり、敵の本拠地に?」


 コレウスが聞くとジュナルは静かに頷いて見せていた。


「なら、これから、早速本陣に乗り込みかけなきゃな!」


 リュードが拳を握り締めて、彼に言っていた。


「とはいえ、この魔法陣は使わぬ方が良いであろう」


「え?」


 ジュナルの言葉にリュードは目を点にしていた。


「な、なんでだよ?」


「敵は黒魔術師、魔法陣に何が仕掛けられているか、分かったものではありませぬからな」


「けど、いきなり敵の本陣を奇襲できればよ」


 リュードの言葉がが出るより前に、ジュナルは言葉を続けていた。


「苦労はしますまいな。しかし、万に一つ、否、奴らなら我々がここを使って飛ぶことを予見していると見ていたほうがいい。奇襲のつもりが、返り討ちに遭っては元も子もなかろう」


 ジュナルの冷静な分析に、流石のリュードも押し黙っていた。ジュナルの一番懸念していることは、敵の本陣がこの先にあるショスタコヴィナスだったからだ。あそこには上級妖魔がいる上に、本拠地である以上黒魔術師とヴェヘルモスは何かしら関係していると見て間違いない。


「ここは一旦引いて出直そう」


 今まで横で話を聞いていたアストールは、アルネを宥めつつ全員に聞こえるように言っていた。


「そうですな。色々と考えてから乗り込んでいった方が身の為です」


 ジュナルはアストールが冷静に現状を分析して、適切な判断を下したことに少しだけ嬉しく思った。男の時であれば、否応なしにリュードと共に乗り込んでいたであろう。ジュナルは主人の成長を喜ばずにはいられなかった。


 周囲にいた一同も特に反対することもなく、答えて静かに歩みだす。一同は多くの遺体を残す地下室を後にするのだった。



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