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ルショスクを襲う惨劇 7

 目抜き通りで戦い続けていたジュナルは、ゲイザートを最終的には三十体ほど作り出していた。標準的な魔術師ならジュナルが操るゲイザートを一体作り出してコントロールするのがやっとだろう。それも常に魔術に集中していなければ、ゲイザートの強度はすぐに落ちてしまう。妖魔相手に戦っていると、あっという間に限界を迎えてしまうだろう。ましてや、歩いて移動することなど余計な体力と魔力を使う故にできない芸当だ。


 だが、ジュナルは歩いて移動しては妖魔を次々に肉塊に変えていく。

 それでも汗一つかかずに、その表情を曇らせることなく戦い続けることができるのは、彼が長年に渡り魔力の制御を極めていたからこそできる芸当だ。尤もそれをするにしても、元々備えている素質と、魔力の容量が必要ではあるが……。


 ジュナルは門から溢れ出てくる妖魔達を打ち減らしていき、遂には城門が閉まるまでそこで妖魔達の足を止めるまでに至っていた。


「どうにか、ここまで妖魔を討ち減らせましたな……」


 目貫通りに溢れていた妖魔を、ジュナルは次々に肉塊へと変えていく。彼が念じれば二十のゲイザート戦列を組んで門に向かって前進を開始する。

 戦列は腕を振るいながら次々に目の前にいた妖魔達を切り刻んでいく。彼らが通った後に残るのは、無残に骸を晒す妖魔の肉塊だけだった。

 そうしてゲイザート達は遂に妖魔達を、門の前まで押しやっていく。流石の妖魔もそれには溜まらず散り散りに街の中へと逃げ出していく。流石のジュナルでもそれら全てを討取れるほど万能ではない。

 ゲイザートをコントロールしている間は、流石のジュナルも他の魔術を唱える余裕はない。


「く、やはり限界があるか……」


 逃げ出した妖魔達に護衛に当てていたゲイザートのうち、6体を向かわせて各個に討ち取らせるように念じていた。

 だが、それだけではとても数が多すぎて手が回らない。


「流石にこれ以上の召喚は無理か……」


 ジュナルは余力を残して戦う為に、これ以上のゲイザートの召喚を断念していた。すぐに城門まで戦列を前進させて、一先ずは目抜き通りの妖魔を一掃する。

 そして、すぐに十体のゲイザートをその場で元の土くれの山へと戻す。


「さて、逃げ出した敵を掃討すると致しますかな」


 ジュナルは城門前のゲイザートを自分の元へと呼び戻す。そして、ゲイザートを引き連れて広めの通りを歩みだしていた。


「くそ、まだ出てきやがる!」

「倒してもキリがない!」


 そこで家を背にした二人の兵士が妖魔に囲まれているのを見つけ、ジュナルは三体のゲイザートを妖魔達に差し向ける。ゲイザートは剣の様な腕をふるいながら、あっと言う間に十体弱のコルド達を葬っていく。

 兵士ふたりは何が起きたのかわからず、唖然としてゲイザートを見据える。


「助かったのか……?」

「みたいだな」


 二人の元に土の巨人を引き連れたジュナルが現れ、二人に対して声をかけていた。


「どうやら、お二人とも、ご無事のようで何よりです」


 ジュナルは柔和な笑みを浮かべると、二人の兵士は安堵のため息を吐いていた。


「助けてくれてありがとう」


「礼には及びませぬ。それよりも、ほかの兵士達はどうしておられる?」


 ジュナルの言葉に兵士は首を左右に振っていた。


「わからん……。ルスラン隊長のいた場所に突然妖魔の集団が襲いかかってきて、指揮は混乱し戦列は崩壊でこの有様さ……」


 敗走した兵士達は住民の救助どころではなく、自らの命を守るのでさえ精一杯だった。兵士二人は小さくため息をついてみせる。だが、そんな二人を元気づけるように、ジュナルは決意を固くして二人に言っていた。


「そうですか……。ですが、まだ生き残っている兵士はいるでしょう。共に助け行きましょう!」


 ジュナルの言葉に二人は頷いて見せる。

 そうしてジュナルは二人を連れて街を歩みだしていた。

 進むに連れてまだ生き残っている兵士が居る事がわかっていく。一人、また一人と助けていき、ジュナルは通りに溢れていた妖魔達にゲイザードを(けしか)けていた。


「ふぅむ……」


 ジュナルは低級妖魔、中級妖魔を次々に機械的に処理しながら、一人考えていた。前線を指揮していたのは聞けば、あのルスランだという。ルスランが襲われている以上、これを引き起こした犯人は別のどこかで糸を引いていると見ていい。


(では、一体誰が裏で糸を引いておるのだ?)


 思考を巡らせようとした時、後ろの兵士の一人が大声で叫んでいた。


「た、隊長だ! ルスラン隊長だ」


 とある建物の一角で果敢に戦闘する10人ほどの兵士の一団を見つけていた。叫んだ兵士が指を差した先に、その一団を指揮するルスランが居た。どの兵士も酷く傷ついており、気力を振り絞って戦っている状態だ。


 指揮するルスランも腕と足を負傷して、頭からは血が流れ出ている。横の兵士に肩を借りてようよと歩いていて、建物の一角にバリケードを築いて篭城戦をしていた。


「ふぅむ。助け出さねばなるまい!」


 ジュナルはゲイザートを三体ほど向かわせて、バリケード前の妖魔達を次々に肉塊へと変化させていた。その手並みは兵士達が言葉を失うほどに、華麗で呆気ないものだった。数刻もせぬうちに、バリケード周辺の妖魔達は一掃されていた。


 唖然としていた兵士たちだが、自分達の命が助かった事に気付いて安堵のため息をついていた。安堵する兵士達、中にはその場に尻をついてへたり込む者もいた。

 すぐにジュナルは兵士達を連れてバリケードの前まで行く。


 近くまで行けばその惨状が、遠くで見ていたものよりも更に凄惨であったことに気付いた。バリケードの中には横たわる重症の兵士や、既に息絶えた兵士で溢れていたのだ。


「こ、これは……」


 ジュナルでさえも言葉を失うほどに、酷い惨状だった。呻く者や助かった事に安堵して涙を流す者、そんな状況にジュナルは声を出せずに立ち尽くす。

 バリケード入り口付近でジュナルが立ち尽くしていると、彼の前にルスランが歩み寄っていた。


「あ、あんたはエスティナの連れていた魔術師か……」


 ジュナルは小さく頷いてみせると、鋭い視線で周囲の状況を確認していた。

 小さな二階建ての家屋の前に家材や資材を盾にして、臨時で作られたバリケードは、多くの被害を出したが兵士達を守ったのは確かだった。何よりも彼らの後ろの建物の中には避難してきた住民が、所狭しとひしめき合っていた。


「彼らを守る為に……」


 ジュナルは奮戦していた兵士達を見て、感涙しそうになるがすぐにそれを抑えていた。


「ここには戦える兵士は殆どいない……」


 ボロボロのルスランがジュナルの前まで来ると、後ろの兵士達に目をやっていた。


「その後ろの兵達をここの防備に当たらせてもいいか?」


 ジュナルに聞くと彼は小さく頷いてから答えていた。


「元々はあなたの兵である。彼らは拙僧に勝手に付いてきたに過ぎぬ」


「いや、ここまであんたが来なかったら、今頃俺たちは死んでいた……」


 ルスランは涙を飲んで感謝の言葉を述べていた。


「ありがとう!」


「礼を言われることはしておりませぬ。拙僧は当然の事をしたまでです」


 そう言うなりジュナルは後続の兵士達を、ルスランの元へと戻していた。

 兵士達はすぐにバリケード内を整理していく。死体を一箇所に集めて、負傷者は建物前へと並べていく。そして、それが終わるとすぐに動ける兵士は武器を持っていた。


 ジュナルは彼らが戦闘準備を整えるのを見届けると、すぐにバリケードの外へとで行こうとする。


「それでは、拙僧は行きますぞ」


 ルスランはすぐにジュナルを呼び止めていた。


「い、一体どこへ行く?」


 ジュナルは笑みを浮かべるとすぐに答えていた。


「まだまだ妖魔を倒さねばなりませぬからな。助けを求めている人々は大勢いるであろう」


 そう言うなりジュナルは駆け出していた。

 その周囲をゲイザードが取り囲みながら、ついていく。その異様な光景に兵士達は目を奪われていた。 ここに迫っていた妖魔達を、ジュナルはゲイザードを駆使して次々に蹂躙していく。


 ジュナルが通った跡に残るのは容赦ない攻撃の爪痕だけだった。妖魔達は息絶えて横たわり、原型を留めぬまでに破壊し尽くされたものさえあった。

 彼が進めばそこには妖魔の肉塊が出来上がるのだ。


(にしても、ルスランもよくあの襲撃で生き残れたものだ……)


 ジュナルは少しだけ疑問を持ちつつ、目の前の妖魔を次々に切り刻んでいく。だが、進むにつれて大蛇のような大型の中級妖魔も出てきたので、ジュナルは考えをまとめるのをやめていた。


「もしかすると、上級妖魔がいるやも知れぬか……」


 ジュナルの心配とは裏腹に、それ以上強い妖魔はこのルショスクに侵入はしていない。それがわかるのはジュナルがこのルショスクに侵入した妖魔を掃討しきってからの事だった。



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