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深淵に近付く時 4

 一方、レニとメアリーは一部屋ずつ見て回り、食堂にて会敵していた。

 食堂には4名の男達がなめし革の鎧を身に着けて、長めの剣を手にしていた。

 肩に剣の平部分を当てて、四人は机の向こう側で一塊になっている。まるで何かを囲っているかのように、円陣を組んでいるかのような配置。ギラついた視線が一斉に二人に向けられる。


「うぁあ~、ちょっとこれは不味いんじゃない?」


 メアリーが扉を開けたレニに声をかける。

 目つきの悪い男達は、入り口に立っているレニとメアリーを睨み付けて剣を構えていた。それにメアリーは縮こまる思いをするが、けして表面にはださない。

 四人の男達は長机の両端へと速足に移動していき、二人のいる扉へと向かっていた。


「この程度の敵、僕一人で十分です。メアリーさんは部屋から出てください」


 レニは張り切った様子で左手で盾を構え、右手のメイスを持つ手に力を込める。

 ここで男らしい所を見せれば、多少は見直されるかもしれない。そんな希望が彼を突き動かしていた。


「全知全能の神アルキウスよ。我が手、我が足、我が体に力の加護を与えよ」


 レニが短く呟くと、一瞬だけ淡い光がレニの全身を包み込む。

 彼はそのまま扉の前で、盾を構えて四人の動きを見据えた。


 男達の服装は鞣革と本革の順で重ねていった皮鎧を身に着けている。剣の切れ味と衝撃をある程度和らげる。だが、生憎レニの持つ武器は打撃系に特化したメイスだ。柄の先端は五角形をしていて、打撃時の衝撃を線で伝えるようになっている。


 だが、彼のメイスと盾はその体に不釣り合いなほど大きい。歴戦の戦士ならば一目見て、その武器と防具を持て余すのが見て取れる。


 だが、彼は神官戦士だ。


 しっかりと武器と防具を構えたその姿からは、とても武器と防具に弄ばれるような感じは窺えない。

 男達はテーブルを回ってレニの両端を取り囲むと、ニヤニヤと笑みを浮かべていた。


「おい、お嬢ちゃん、大人しくしてりゃあ、痛くはしねえからよ。武器を捨てな」


 男達は完全にレニを女だと勘違いして声をかけていた。

 一目見ただけでは男だとは分からぬ愛らしい顔立ちに、未だ声変わりしない声帯、男達が少女と勘違いしても無理はない。数的有利を前にしての威圧、だが、レニは怯むどころか、その場で歯を食いしばって男達を睨み付けていた。


「今、なんて言いましたか?」


「何回も言わせるな。お嬢ちゃんよ。武器をすて……」


 レニから見て右手側の男の言葉が続くことはなかった。素早く移動したレニが、右手のメイスを思い切り横に凪いでいた。男は胴体にメイスの直撃を受けて、盛大に吹き飛んで壁に叩きつけられる。


 大きな音と共に屋敷が微かに揺れる。


 その揺れはレニの静かな怒りを体現しているかのようだった。


「あのですね。僕は男ですから!」


 目にも触れられぬ速さで動いたレニは、もう一方の男の懐に入って柄頭で腹部を突いて、痛みで屈んで下がってきた頭に手を捻ってメイスの先端を叩きこんでいた。


 男は意識を保つことはかなわず、その場に倒れこむ。


「だから! お嬢ちゃんとか、ふざけた呼び名で呼ばないでください!」


 素早く振り返ったレニは、背後に迫っていた二人を睨み付ける。

 普段から気にしていたコンプレックスを指摘されたことによる怒りと、今まで溜まってきていた鬱憤がついに爆発していた。レニの響く声を前に、男二人はこの神官戦士の逆鱗に触れたことを悟る。


「ど、どうする?」


「どうするって言っても、やるしかねーだろ……」


 自信のない二人がやり取りをしている内に、レニは再びその素早い動きで二人の間合いに入っていた。


 アルキウスの加護で強化された足と手の力は、通常の力の何倍もの力を発揮する。ただし、これにはアルキウスよりもたらされる膨大な魔力を制御しなければならない。


 常に魔力の制御に意識を集中しつつ、戦闘を同時にこなさなければならない。神官戦士プリーストでも熟練した者でなければ扱えない、高等な魔法の扱い方の一つである。


 どの様な状況でも集中して治療でき、尚且つ戦える。それが一人前の神官戦士プリーストとしての条件の一つである。彼が最年少でプリーストとして正式に任官された所以は、体の成長を待たずして、一端に戦闘行為を行える素質があったからに他ならない。


 レニは盾を構えて右側の男に突貫する。男は素早い動きに対応できずに、そのまま胴体で盾の突進を受けて吹き飛んでいた。壁に叩きつけられてずり落ちるようにして床に伏せる。


 レニは構わずメイスを振るって真横の男の足元を払っていた。

 男は横薙ぎを真面に食らって、その場で盛大にこける。すかさず柄部分で腹部を強打して、男の意識を昏倒させていた。急所を捕えた一撃を受けたせいか、その場でうめく声すら聞こえない。


「レニって強いのね……」


 扉から恐る恐る足を踏み入れてきたメアリーは、レニの圧倒的な力の痕跡を見て苦笑していた。


「あ、え、はい! 伊達に神官戦士プリーストしてません!」


 満面の笑みを浮かべたレニに、メアリーは彼を見直していた。


 いつにないしっかりとした行動と、戦闘における強さを今回初めて垣間見た。今まで幾度か戦闘も経験したが、大抵はアストールとコズバーンが前衛に出て、レニは後方での警戒が主な役割だった。


 そのせいか、レニは接近戦闘は得意でないと、勝手なイメージが出来上がっていたのだ。頭でそうでないと分かっていても、現実は違ったのだ。


 その影響もあってかアルキウスの加護を行使する普段の姿以上に、レニが頼もしく見えた。


「じゃあ、こいつ等縛ったら、次を見て回るよ! あ、その前にそこの重症の奴は一応治療して!」


 メアリーはそう言って部屋の中へと駆けだしていた。レニはその言葉に口をポカンと開けたまま、メアリーを見つめる。


「え? あの……」


「いいから、早く言うとおりにして! この中に相手の親玉がいるかもしれないでしょ」


 メアリーの言葉を聞いて、酷くレニは後悔していた。

 自分で傷つけておいた相手を、また治療しなくてはならないのだ。そのうち一人は確実に重傷だ。メイスを顔面に受けては、すぐに行動に移らなければ命すら危ういだろう。


 最初から致命傷を避けろと言ってくれれば、もっと手頃に治療できるように攻撃をしていた。


「そんな、理不尽な……」


 レニは落胆の溜息を吐きつつも、メアリーの言葉に従うしかなかった。

 そうしてレニが嫌々ながらも神聖魔法を行使しているうちに、突如上階で大きな爆発音が聞こえて、レニは驚いて肩を震わせた。


 二階からの爆風はおそらくジュナルの魔法によるものだ。


 メアリーは周囲を警戒しつつ、食堂を見て回る。細長いテーブルが部屋の間取りに合わせて中央に置かれている。メアリー達が入ってきた場所は、そのテーブルの丁度真ん中の位置あたりだ。


 そこでメアリーは目を見開く。テーブルの陰に蹲る女性が目にとまったのだ。そこは丁度男たちが円陣を作っていた所だ。

 白黒の給仕服に身を包んだ女性は、怯えた表情でメアリーを見上げていた。

 メアリーが近づいても身動きしない女性は、本当に恐怖で動けなかったのだろう。


「……だ、大丈夫?」


 メアリーが声をかけると、彼女は恐怖で強張った顔で必死に笑みを浮かべる。


「あ。ぁあ……。あり……がとう」


 声がかすれていて、口を動かすのもやっとの状態だ。


「何があったの?」


 メアリーが彼女と同じ視線になるように屈むと、彼女はすぐに顔を強張らせていた。


「あ、あの男達が……。ドルアを連れて行って……。次は私だって」


 恐らく彼女の言うドルアとは、もう一人の侍女の事なのだろう。メアリーはそう判断して、立ち上がってレニの治療する男達に目を向けた。

 ここに居た四人の男、まだ、他にも奴らの仲間がいるとみていい。


「他の奴らは?」


「あ、私たちの給仕が使う私室で……」


「それは何処にあるの?」


「この向こうの廊下の方の相部屋です」


 彼女は震える手で指さして、メアリー達が入ってきた反対側にある扉を指さしていた。


「レニ、そいつらを頼むよ」


 メアリーはそう言うと、サーベルを構えたまま、ゆっくりと扉を開けていた。

 静かな廊下の向こう、丁度扉を開けた前に戸がある。

 周囲を警戒しつつ、ゆっくりと足音を立てずに、廊下へと歩み出す。そして、扉の前まで来ると、耳を扉へとくっつける。


「へへ、いい具合だ!」


「おいおい、ちょっと待てよ。てめえだけ良い思いしてんじゃねえよ! 俺にもやらせろよ!」


「ああ、こっちがあるだろうが!」


「それよりも、さっきの爆発、やべーんじゃねえの?」


「大丈夫だって! 今はこっちのが先だろ」


 などという男達の会話に、すすり泣く女性の声が絶え間なく聞こえてきていた。

 すぐにでも突入していきそうになるも、メアリーはドアノブに手をかけた時点で冷静になっていた。相手はいくら油断しているとはいえ、大の男二人だ。そして、人質となっている女性と密着している可能性は高い。突入したところで、うまくしなければ人質を傷つけかねない。


 エメリナなら突入と同時に、男二人を容易く仕留められるだろうが、生憎メアリーは接近戦をそこまで得意としていない。

 メアリーは憤りを胸いっぱいに感じつつ、再び静かに元居た大食堂へと戻っていた。


「レニ、やっぱりそいつら、治療しなくていいわ……」


 メアリーの言葉にレニは、大きく溜息を吐いていた。


「え、もう、応急処置は済ませましたよ?」


 予想外の言葉にメアリーもまた溜息をついていた。自分が指示した以上は、レニを責める事もできない。何より女性に対してあるまじき行為を、あの四人が働いていたのは確実な事だ。怒りと憤怒からあの四人を、今すぐにでも息の根を止めておきたい衝動に駆られる。


「レニ、こっちにきてくれない?」


 怒りを鎮めつつ、メアリーはレニに対して頼み込んでいた。


「は、はい……。でも、何かあったんですか?」


「隣の部屋で、二人の男が侍女を襲ってるの。レニなら素早く二人を倒すことくらいできるよね?」


 メアリーの言葉にレニは唾を飲み込んでいた。

 幾ら戦闘もこなせるとはいえ、相手は人質を取っているも同然だ。レニは自分にその大役が務まるのか、不安そうにメアリーを見つめる。


「大丈夫、私も一緒に入って、女の子は保護するから!」


 メアリーはレニの肩に手をのせていた。

 それに彼は少しだけ安心感を感じていた。


「はい、行きましょう」


 レニとメアリーは扉の前までくると、物音を立てずに身構えていた。

 扉のカギが掛かっていることを前提に、レニはメイスを思い切り振り下ろしていた。次の瞬間にはメイスと接触した部分が粉々に吹き飛び、勢いよく施錠されていた扉が開け放たれる。


 中にいた男二人は人が突入してくることを想定していなかったのか、唖然とした顔で扉に顔を向けていた。中で行われていた行為を見てもなお、レニは冷静さを保ちつつ憤りを感じる。


「こ、こ、これが! 大の男がする事ですかあああ!!!!」


 だが、すぐにレニは怒りを露わにして、二人の男に迫っていた。

 アルキウスの加護を受けたレニの身体は、通常の力の倍以上の力を発揮する。目にも留まらない速さで駆け寄り、道中で盾を捨てていた。両手で構えたメイスを女体を貪る二匹の狼へと振るっていた。


 全くの無防備の状態の二人の男は、レニの振るうメイスをまともに食らう。


 一撃は女性の後ろにいた男の腹部へと柄を容赦なく打ち込み、そのまま、体全体で繰り出した蹴りで女性から突き放す。吹き飛んだ男は壁に打ち付けられて、情けなく裸体のまま床に突っ伏す。


 それも束の間、レニは回し蹴りの勢いを利用して、四つん這いになっていた女性の中空で、回転しながら男の顔にメイスを叩き込んでいた。即死は確実の一撃に、男はあり得ない軌道を描きながら、床をゴロゴロと勢いよく肢体をぶつけて、壁へとめり込む。レニはそのまま女性の上を飛び越えると、ベッドの向こうへと綺麗に着地をしていた。


 血の滴り落ちるメイスを地面に置くと、レニは二つあるベッドの内、目の前にあったベッドより掛布団手に取っていた。振り向くとレニは裸体の女性に、優しくその布団を肩からかけていた。


「メアリーさん。あとは任せます!」


 レニはすぐに床に置いたメイスを拾って背中に背負うと、盾も拾い上げてその上から背負っていた。背中全体を完全に覆い隠すと、拳を握りしめていた。


 女性に乱暴していた事実を、この目で直接見るのは初めての事だった。

 嫌がっていた女性を、自分の欲を満たす為の道具としていた。


 憤怒で息が詰まる。


 未だ怒りが収まらないレニは、床に突っ伏す男と、命はないであろう男の二人の足を持って、部屋より引きずり出していた。入り口で待機していたメアリーは、唖然とその光景を見送った。


(やっぱり、レニって凄い……)


 いつも頼りなく感じていたのが、嘘のように感じられた。


 実際レニは男二人を一瞬のうち、そう女性の上を飛び越えざまに倒していた。エメリナの様な体を使って極限まで極めた速さの更にその上を行く。信じられないが、メアリーはレニの動きを目で追いきれなかった。


 それ程までに彼の身体強化魔法は、完成されていた。体の動きを完全に制御し、普段見せない格闘技術を応用して二人の男をあっという前に倒した。


 メアリーはふと我に返って、すぐにベッドの上の女性の方へと駆け寄っていた。


「……もう、大丈夫。助けに来たから」


 嗚咽を漏らして泣き始める女性を、メアリーは優しく慰めだしていた。

 レニは食堂まで二人を引きずっていくと、伸びている男達の真横に二人を並べていた。しかし、今回ばかりは二人の治療をする気にはならなかった。

 女性に乱暴を働いた事実を、レニはどうしても赦せなかった。


「こんな事……。間違ってる!」


 いつになく憤るレニは、最初に保護した女性へと目を向けていた。


「あ、これで一応、片付きました。同僚のかたも命には別状はないです。行ってあげてください」


 レニは憤ってはいたものの、その表情をすぐに笑顔に変えていた。レニの言葉に女性は会釈して、隣の部屋へと駆け出していた。


 彼は溜息を吐く。


 王国の中央では大多数の人が、安定した生活を送っている。その一方で地方では理不尽な行いが日常的に行われている。同じ国の中にあって、この格差は一体何なのか。


 疑問を持ちつつもレニは歩いて、廊下に出ていた。


「あ、レニ!? 無事だった!?」


 考え事をしているレニの横から、女性の声が掛かる。聞き覚えのある声の主へと、彼は顔を向けていた。


「あ、エスティナ様! もう二階は大丈夫なんですか?」


 レニの無事な姿を見たアストールは笑みを浮かべる。


「ええ。大丈夫。それよりも下の方はどうなってる?」


「今の所、食堂に居た六人を片付けてます。他にも回り切れてない部屋がいくつかありますけど……」


 レニは倒して拘束した敵の人数を報告すると、アストールは少しだけ考えこむ。


「……てことは屋敷内は片付いたか。残りは村の中に6人ってことか」


 アストールは階下の6人が一網打尽にされていることに安堵しつつ、外に散らばっていると思われる残りの6人の事を考え出す。村全体はおそらくこの賊と思しき奴らに掌握されている。おそらくは自分達を罠にかけようとやったことだ。それらの事情も拘束した男達に聞けば分かるだろう。


 今はとにかく村の制圧と安全の確保が最優先だ。


「エスティナ様……」


 アストールが考えを纏めていると、レニが深刻な表情で彼女に問いかける。


「なんで、中央と地方でこんなに治安が違うんですかね……」


 明らかな幸福の格差を目の当たりにしたレニは、改めて自分の見聞の狭さを思い知った。

 いくらもと居たレニの村が田舎だったとはいえ、そこはここよりもずっと首都に近い場所だ。治安はそれほど悪くなく、犯罪が起きる事も稀だ。

 確かに一歩村から出れば、妖魔や賊とも遭遇する。だが、首都が近い事もあって、賊や妖魔の討伐は定期的に探検者や王立騎士団、宗教騎士団が行っていた。


 ここほどまでに治安が悪いことなどない。


 神殿内では地方の治安の悪さの事は聞いていたが、ここまで悪いとは思ってもみなかった。

 現実を知ったレニに、アストールは首を振って言う。


「レニ、残念だけどこれが現実よ……。だから、せめて、自分の手の届く範囲の人は助けるしかない……」


「エスティナ様……」


 アストールが決意を新たにしている。その時だった。


 突然廊下の突き当たりの窓が、大きな音を立てて割れていた。二人が顔を向ければ、そこには窓を突き破って一人の男が飛び込んできている。男はそのまま地面に転がると、暫し動くことをせずに呻いていた。


「……ん? あれはもしや……!」


 ジュナルが異変に気づいて素早く二人の前に出る。そして、男の魔力の流動をていた。


 集中しているジュナルの前に、アストールとレニが歩み出る。いつ何が起きても対応できるように、レニとアストールは男を注視して身構える。


 そうしている間にも男はゆっくりと立ち上がり、腹部を押さえながら覚束ない足取りでアストール達の方へと歩み出していた。


「くぅ、がぁあ、タスケ、てくれ……」


 男は息苦しそうにアストールとレニに、一歩、また一歩と近寄ってくる。


「フム……。あの時の賊と変わらない魔力の流れ、という事は……」


 廊下をふらつく足取りで歩く相手を見終えたジュナルは、不穏な言葉を紡いでいた。それを聞いたレニが急いで男に駆け寄ろうとする。


「待て! レニ!」


 アストールは慌てて彼の肩を掴んで止めていた。


「な、なんで、助けを求めてるんですよ!?」


「お前も見ただろう。あの時の化け物を……」


 アストールはそう言ってレニを諭していた。ここに来る途中にいた化け物へと変化していた賊達。今、目の前にいる男は、まるでその時と変わらぬ状態にあるのが見て取れる。


 事実、ジュナルも魔力の流れを見て、あの賊と同一の事が体内で起きていると言っていた。


「だったら、なおさら助けて色々聞かないと!」


 レニが駆け寄ろうとするのを、アストールは強く静止していた。


「アレを見ても、まだ言うのか」


 アストールはレニに男を見るように促していた。男は腹部を抑え口から吐血する。ベチャベチャと大量の血液が、音を立てて床に落ちる。


「でも…!」


 前に進もうとするレニを掴む手が、より一層強く力を込めて引き留める。男の体が徐々に大きくなっていき、その皮膚も焦げ茶色へと変化していく。


「もう、手遅れだ……」


 ジュナルに目を向けたアストールは剣を抜いていた。ジュナルは一度だけ頷くと、杖を構えてアストールのサポート態勢を整える。彼女かれは一気に化け物へと変化する男の元へと駆けていた。


 駆け寄りざまに、真正面からの一閃。


 鋭く光った白刃は、男が化け物に変わりきる前にその牙を剥いていた。


「ぐがぁはぁ! し、死にたくねぇよぉ……」


 袈裟懸けによってできた胴体の切口と、口から多量の血が噴き出した。男の変化は途中で止まる。そして、そのままゆっくりと赤い血で床を染めながら倒れこんでいた。


「これは、まずいな……」


 アストールはこの男が変化したことに危機感を抱いた。もしかすると男たちの仲間全てが化け物へと変化するかもしれない。


 その時だった。


 アストールの背後で大きな音が響き渡り、土煙と埃が辺りを支配する。

 玄関口の扉の方向、彼女かれが目を向けるとそこには……。




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