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白髪赤眼の怪人  作者: 風瑚
物質支配する少女
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物質支配する少女 Ⅵ

 暗くなる前に帰ろうと、僕達は公園を後にし、階段を下りた。

「漫画やアニメみたいに呪文とかあればもっとウケるのに。つまらないわ」

「んなこと言われてもな。ウケ狙いで変身してるわけじゃないし」

 髪と目の色はもとの黒色に戻していた。最近は髪を染めてる人も多いが、さすがに白髪の高校生というのは目立ってしまう。

「なんつーか、スイッチをオン、オフに切り替える感じだよ。部屋の電気を付けるみたいに」

「簡単なのね」

「まぁ、今はね。昔は感情の起伏でころころ変わっちゃってたから、大変だったよ」

「そう。そのあたりは私と似てるわね」

「へぇ。お前もそうだったのか」

 ・・・・・・!

「突然、頭を抱えてしゃがみ込んじゃって、神塚くんはなにか悩み事かしら?」

「いえ。なんでもないです」

 ちょっと神経質になりすぎなのかな・・・。

 住宅街を少し歩く。と、舞原は立ち止まった。

「私、こっちだから」

 左手に現れた道を指差して言う。

「あぁ、家まで送るよ」

「いやよ。危険人物に家を知られるわけにはいかないわ」

「おい、誰が危険人物だっ」

「えっ。まさか、自覚していなかったの!? 無自覚であんなことをっ! あの子もかわいそう・・・・・・」

「待て待て待て!!無自覚にだって、なにもしてないはずだっ!」

 あの子って誰のことだよ。心当たりは・・・・・・ないない!!

 もう一度、送ると言ったのだが、やはり、断られてしまった。まぁ、舞原なら暴漢が現れたとしても逆に暴漢が泣かされる展開になるか。一応、舞原が道の先に消えるまで見届けてから、僕も帰り道を歩き出した。

「にしても・・・・・・」

 と、携帯の着信音が鳴った。ポケットから携帯を取り出すと電話に出る。電話の相手は智代さんだ。

「智代さん、どうしました?」

『仕事よ』

 智代さんは僕の問いに即決で答えた。

「内容は?」

『ニュースでやってた例の事件。覚えているわね?』

「えぇ、覚えてますけど・・・・・・まさか、僕達向けの事件、ですか?」

 僕達向けの事件。

 不可思議、奇怪、奇妙な事件。

 たしか中学生の女の子ばかりを狙った犯行。異常な事件たと思うが、智代さんが気にするほどの事件ではなかったと思った。昨日の限りでは智代さん自体、気にしてる風ではなかったし。

『そういうわけではないんだけどね。ただ、いつも贔屓させてもらっている刑事さんから気になる話を聞いてね』

「気になる話、ですか」

『そう、目撃証言なんだけどね。これまでに起きた事件三件、どの現場でも目撃されてる男がいるの』

「どんな男なんですか?」

『金髪で、瞳の色が紫の男』

 金髪で、瞳の色が紫・・・・・・。

「それは目立ちそうな顔ですねぇ」

 もしかして、そいつが犯人か?

『でもそいつは犯人じゃないわよ』

「・・・・・・」

 思ったことを言う前に否定される。

「ってことは、犯人は犯人で、もう特定されてるんですか?」

『えぇ。これはまだ表に出てない極秘情報なんだけど、犯人に繋がる決定的な証拠が見つかったらしいのよ。近々、警察が犯人逮捕に踏み出すわ。私が考えるに、犯人と金髪紫瞳の男はなにかしら繋がっていると思うわ。犯人を追えば、金髪紫瞳の男とも会える気がするの! 金髪で瞳が紫だなんて、なんだか、すごく興味沸いちゃうじゃない。警察が犯人捕まえる前に見つけ出してお話してみたいわぁ』

「犯人はどうします?」

『はんにぃ~ん? どうでもいいわよ、そんなの。それより、金髪紫瞳の男よ!!』

 どうやら、智代さんは金髪紫瞳の男以外は興味ないらしい。

「わかりました。時間なさそうなんで今から行動開始します」

『はぁ~い! お願いねぇ~』

『ああ、それから秋兎』

 話は終わり。と、電話を切ろうとしたところで智代さんに呼び止められた。

「なんですか?」

『クラスメイトとは仲直り出来た?』

 仲直り。

「まぁ・・・・・・」

『そう!よかったわねっ』

「はい。じゃあ・・・」

 今度こそ、通話を切る。

 携帯を開いた状態で持ったまま、僕は前を見る。その先は誰もいない。夕暮れの薄暗くなった住宅街とそれに続いて商店街。さらにその向こうにはまだ人で賑わっているだろう巨大ショッピングモールがある。

「さて、犯人はどこにいるのかな」

 携帯が着信音を鳴らして、メールが来たことを告げた。



 大型のショッピングモールが出来たのは今年になってすぐのことだった。地下一階から地上4階建て。内部はショッピング館・グルメ館・スポーツ館、映画館、四つの施設から構成される巨大スポット。田舎町に突如できたこの化け物じみた施設はこの町の住人だけでなく、県外からわざわざ来る人もいるほどの集客力を誇っていた。そういえば、来月には別館も出来るらしい。名前は忘れたが都会で話題のアクセサリーショップがオープンするとのことでクラスの女子達がその話で盛り上がっていたのを思い出した。

 その巨大建造物の屋上から下界を見下ろす。力を解放し、人間離れした五感を使って、僕はショッピングモールから出てくる買い物客たちを見張っていた。

 もう、すでに太陽は沈み、周囲は夜の闇に包まれているが、僕の目は遠く離れた出口から出てくる一人ひとりの顔をしっかりと把握していく。

 犯人の狙いは中学生女子。もう、学校は下校時刻を過ぎていたので、ならばと、この町一番の人気スポットであるこのショッピングモールに来たのだが・・・・・・。

 時間はすでに午後八時を過ぎている。もう、ほとんどの店が店じまいをする時刻だった。あと、やっているのはグルメ館に数店と映画館くらいだろうか。

 さすがにもう、中学生女子が出歩く時間ではなかった。とくに今は中学生女子を標的としている連続殺人犯――たしか名前は山田啓太。メールで送られた顔写真と名前を思い出す。彼がこの町のどこかに潜んでいるわけだ。夜になっても外出してる子なんていたら、その子は死にたがりか大馬鹿野郎だろう。

 こりゃ、出直すしかないか・・・・・・。そう思いつつも、帰る前に町内をぐるっと一周しようと考えて、動こうとしたときだった。

「あれ・・・・・・?」

 見覚えある制服が目に留まった。

 清爛高校の制服である。

 そして、腰まで伸びた長い黒髪。

 いまいち何を考えているのかわからない、涼しげな表情。

 見られていることに気付かず、ショッピングモールの駐車場を横切るように走っているその少女は、一時間ほど前に丘の上の公園で語り合い、その後、家に帰ったはずのクラスメイト―――舞原彩音だった。

「向かってる先は・・・・・・別館か?」

 制服をまだ着てるってことは、家に帰らなかったのだろうか。

 しかし、別館はまだオープン前で何もない。こんな時間に行っても人だっていないはずだ。いや・・・誰もいないほうが彼女には都合がいいのか。昨日してたように力を使ってストレスでも発散するつもりなのかもしれない。

 あんなに急いで―――。あいつなら、殺人鬼と出くわしても返り討ちにしちまうかもな。けど、こんな時間に出歩いてたら、妹に心配かけるんじゃねえのか? まったく、・・・いや・・・・・・イモウト・・・・・・

「――――くそっ」

 僕は舞原を追うように屋上を駆け出した。


「被害にあった女の子達はみんな、中学生の女の子なの」

 智代さんの声が脳裏に蘇える。


「今は妹と二人暮らしってことか。何歳なんだ?」

 僕はたしかに聞いていた。


「中学二年生」

「私に似て、可愛いわよ」

「学校に行って、授業を受けて、休み時間には静かに本を読んで。家に帰れば、大切な妹が笑顔で待っている」

 舞原の言葉が次々とあふれ出す。


「私は、今の生活が、とても気に入っている」


 だから、彼女は走っていた。

 今の生活を失わないために、守るために、走っていた。

 舞原には確信があるのだろう。その走りに迷いがない。視線は常に別館を見ている。

 きっと、いるのだ。舞原妹が。そして、最悪なことに、中学生女子連続殺人犯も。

 読みは当たっていたのに、なぜ、気付かなかった。

 来るのが遅かったのか。いや、そんなことは今となってはどうにもならないだろ。兎にも角にも、急がないと本当に取り返しが付かなくなってしまう。

 ショッピングモール本館から別館の屋上へと跳ぶ。

 舞原は一足先に別館の中へと入っていった。すんなり入っていったところを見ると一階の入り口は鍵が掛かっていなかったようだ。こっちは屋上からの入り口にしっかりと鍵がかかっていたので蹴破って僕も館内へと入った。音を立ててしまったが、今回はこのほうが都合がよさそうだ。


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