優しさの連鎖
いつだったか、誰かに優しくされたことがある。
もう今となっては、その人の顔を思い出すことは出来ないけれど、
それでも、かつて優しくしてもらえたことと、そのとき涙が出るくらい嬉しかったことはーーーはっきりと覚えている。
だから、優しい人になろうと想った。あの人みたいに、誰かに優しくできる人になろうって。
そうして私の優しさが別の誰かに伝われば、次はその人が。
そして、その次の人の次には、また次の人が。
ーーーーそうやって。
いつか、私とは全然関係ない人が、きっといつの日か、あのときのあの人に、優しくしてくれるはず。
……あの人に優しくしてもらえた、あのときの私は、あの人に何の恩も返せずに終わっている。
それどころか、恥ずかしことなんだろうけれど、「あの人に恩がある」ということ気づいたのだってーーー今さらになってからだ。。
けれど、まだ間に合うはずだから。
だから、わたしはだれかに優しくしようと想う。
そうやって私の優しさがあの人に届いた暁には。
そのときは、きっとーーー明日は。
その時の明日は、今日より絶対に良くなっているはずだとーーー私は、信じている。
※
アカシックレコード:優しさの連鎖
世界録14:優しさから断絶された、誰かの魂
優しくされたことのない人間は、どうなるんだろうね?
人に優しく出来ないのかな?
そもそも、優しくされたことのない人間は、誰かに優しくされたとき、「それ」が優しさと気づけるのかな?
……多分、無理だろうね。
だから彼女は、あんなふうになったんだ。
あんなふうに世界を許すわけでもなく、また、世界を恨むわけでもなく。
ーーーただ単に、他の誰かに悪意を向けるだけの、ただの現象に。
彼女は、成り下がってしまったんだと思う。
世界録14に対する反証:絶対矛盾:最初の優しさ
そこが、ゴールだよ。
ただの悪意に、優しくできるか。故なく向けられる悪意に、やさしくできるのか。
ーーーそれが、鍵となる。
……分かっているよ。
悪意を向けられて、優しくしようなんて想えるはずもない。
それでも、それが成されれば。
きっと、僕たちは、先へ至ることが出来る。
あの悪意が定めた、世界のエンドポイントの先ね。