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人間

頭をガツンと殴られたような衝撃があった。




こいつが?




やっぱりこいつが、俺から味覚を奪った張本人だったのか?




「......やっぱりお前だったんじゃねーか」


「やっぱりとはなんじゃ!ほれみよ、ぬしも内心で.....」


「違う!俺は純粋にチョコレートのことが好きで、別の食材と合わせるだけで小さな世界ができあがるところが大好きで、この食材ならどうだろうとか、誰もやったことがない食材を試したいとか、そういう純粋な気持ちで作っているのに誰も認めてくれなくて、先輩のことは怒らせてばかりで後輩にはばかにされて、このままじゃだめだと思いながらもやっぱり諦められなくて、俺は......」




声がつまった。考えないようにしていたことが口からこぼれて止まらない。


なんで、初対面の不審者に俺はこんなことを話しているんだ。




「いやがらせなんかじゃない。俺だって自分のアイデアをおいしく仕上げたいのに、やり方がずっとわからない......」




情けないにもほどがあった。いままでもこの先も、俺の人生にいまより情けない瞬間はないだろうと断言できる。断言したい。




「ただでさえ実力がないのに、舌まで狂ったらもうだめだ。俺、まだパティシエとして店持つの諦めたくないんだよ」




男の胸ぐらをつかんだ。つかんでから気づいたが、こいつは随分背が高い。


その高い背に向かって力いっぱい吠える。




「神でも仏でもなんでもいいから、俺のこの舌治してくれよ!」


「......」


「なんとか言えよ!」


「なんとか」


「いまそういう雰囲気じゃねーだろ!」


「ふむ。まあ、事情はわかった。つまりあれじゃな」




男は表情をまったく変えないまま顎をさすった。




「ぬしは人間じゃな」




男は賽銭箱に腰をおろして、気だるそうに指で前髪をいじり始めた。




「いつもの神どうしのじゃれ合いかと思ったんじゃ。だから、軽い気持ちでサバの味しか感じられんようにしてやった。相手が神なら、時間はかかろうとも自分でなんなく治せるからの。けれど、本当に人であったとはな」




小さい声でぶつぶつ言っているが、要するに......。




「......お前、間違いで俺をたたったのか?」


「物騒な言い方をするな。この世の神に間違いなどない」


「いままさに盛大に間違えてんじゃねーか」


「かんちがいじゃ。あとあんまり責めるな。傷つくじゃろう」


「どう考えても俺の方が傷ついてんだろ!今週まともに水も飲めてないんだぞ!」


「やれやれ、人の子の仕業であったかー。神のいやがらせにしては手間も時間もかかっておるなと思っていたんじゃ」


「思っていたんじゃ、じゃなくてさっさと治せよ。お前ならなんとかできるんだろ」


「いい質問じゃの」




前髪をくるくると指に巻き付けて遊んでいた神が顔をあげた。

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