サバチョコレートの話
しみもしわもない、不自然にきれいな肌。髪はレンガを思わせる赤茶色で、ミルクチョコレートのような薄茶の着物に、濃茶色の羽織をあわせている。
たまに見える羽織の裏には派手な柄が仕込まれていたが、どうやらそれはカステラやキャラメルといった菓子の絵柄のようだった。
そしてなにより、目の色が違う。黒目の部分が朱に近い赤色で、たったそれだけで人間ばなれしている印象を受けた。
「して、お前はなんじゃ?」
ボンボンの最後のひとつを親指と薬指でつまみあげながら、男に急に赤い目を向けられる。
やばい。
逃げよう。
息をふんと吐いて足に力を入れた。なんとか動く。足腰の復活に感謝しつつ、両足をもつれさせながら立ち上がる。
全力疾走しようと地面を蹴った瞬間、足首にずっしりと重みがかかった。
受け身を取れないままバランスを崩し、びたんと地面にへばりつく。
次の瞬間、世界の上下が反転した。頭に血が逆流する。じたばたしながら見上げると、男に両足首を捕まれ、逆さ吊りにされていた。
「はなせ!」
「話しかけられたのに逃げるなんぞ、無礼なやつじゃの」
「初対面のやつを逆さ吊りにする方が無礼だろ!」
「そうか」
男がぱっと手を離し、俺は再び地面にびたんとへばりついた。
「急に離すな!」
「そうか。ではもう一度やろう。次はゆっくり離す」
「二度とやるな!何考えてるんだお前!?」
こちらがどれだけ怒っても男は顔色ひとつ変えず、今度は鼻がくっつきそうなほど顔を近づけてくる。
「おい近よるな!」
「どうも見覚えがあると思ったらお前、もしや例のパティシエではないか?」
例の?
恐怖とともに興味をひかれた。例のってどういうことだ?
口を開こうとしたそのとき。
「こーのたわけもんがァ!」
突如、山手中に響きわたりそうな大声で男が叫んだ。神社の木に止まっていたカラスが、カァカァと鳴きながら飛んでいく。
男が境内をぐるぐるとまわり始める。相当いらだっている様子だ。
「お前にはいつか直接物申してやろうと思っていた。なんだあのチョコレートは!?」
「清風亭のボンボンへのクレームってことか?申し訳ないが苦情なら......」
「なにが清風亭だ!お前がここに供えたチョコレートの話だ!」
「供えたチョコレートって?」
混乱の中で、ひとつの可能性が頭をよぎる。
こいつは神社に供えられたチョコを食べていた。ということはこの前の俺の……。
「サバチョコレートの話か?」




