清風亭のボンボン
銀紙につつまれたボンボンが、ころんと飛び出そうになる。落ちないようにさっと手を伸ばす。
俺の手の甲に重ねて、別の手が伸びてきた。
見上げると、賽銭箱の上に若い男が座っている。
「えっ!?」
ぎょっとしてしりもちをついた。
こいつ、いつからいたんだ?そして、どこから?
というか、賽銭箱に座るか普通?
動揺する俺を気にもせず、男はばりばりと銀紙を開けた。ボンボンをぽーんと高く放り投げると、上を向けて口を空け、そのままぱくりと食べてしまった。
「あっ、お前......」
「うああぁあぁあー!」
男が叫び声を挙げ、賽銭箱から地面へと転がり落ちた。
「酒が、酒が違うではないかあぁ!」
「は?」
「清風亭のボンボンといえばフレンチアグリコールラムの重く芳醇な香りと脂たっぷりのミルクチョコレートによる濃厚な味わいが魅力!しかし時代の流れか、いまやこんな度数の低いラムにあろうことかダークチョコレートを組み合わせるだと!?お前のチョコレート哲学は横浜港から太平洋にでも流されたのか!?」
「いやちょっと......」
「さらにはなんだこの大きさは!かつてはひとくちで食べることも叶わぬほどずっしりとした重みを誇りとしていたにも関わらず、子どもだましの半寸玉に形を変え、上品で繊細な食べ心地を追求するなど......」
地面でのたうちまわっていた男が急にだまり、むくりと頭をあげて起き上がった。
「ふむ。これはこれでうまいか。うん」
急に冷静になった男は、ほくほくとした表情で地面にあぐらをかいた。
次々と紙袋からボンボン・オ・ショコラを取り出して、むしゃりむしゃりと食べている。
こいつは一体なんなんだ?頭が大混乱している。急に現れて、人のお供えものをぼりぼり食べて。
怖すぎるだろ。なんなんだこいつ。
いますぐ立ち上がって逃げたかったが、情けないことに腰が抜けていた。
足にまったく力が入らず、ただ目の前の圧倒的不審者を見つめることしかできない。
よく見れば、男は姿も服も奇妙だった。




