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古びた神社

清風亭がある海ぞいから坂を登ると、山手という高級住宅街に出る。異国情緒あふれる洋館が立ちならぶこの場所に、古びた神社がひとつあった。




小さい境内には、小屋と間違えそうな粗末な社があるばかり。


しかし、ここは菓子好きの神様をまつる神社とされ、昔から地元のパティシエには参る人が多かった。




なにを隠そう、俺もここによく参るひとりである。




別に信心深いわけではない。昼の散歩にちょうどいい場所で、失敗作を捨てがてら、供えていただけだ。


最初こそ神社をゴミ箱扱いするようで気が引けたが、そのうち慣れた。




いま俺は、貴重な休日をさき、真冬の寒さにふるえながらこのちっぽけな神社に参っている。




なぜか。




俺の舌が狂ったのが、この神社のせいとしか思えないからだ。




一週間前、すべてがサバの味になったとき、まず疑ったのは病気だった。


しかし、いくつ病院をめぐっても「すこぶる快調」と診断される。疲れ、ストレス、気のせいなど、あらゆる原因を探ったが、それらしきものがどうもない。




残された最後の選択肢こそがこの神社、つまり「たたられた」という事態だった。


普段なら考えもしない選択肢だが、実をいえば思い当たるところがある。




舌が狂う前日のこと。ここにサバチョコレートを供えたとき、確かに頭上から声がした。




 「このたわけもんが!」という怒鳴り声が。




気のせいですませるには、あまりにはっきり聞こえすぎた。けれど、舌が狂ったパニックですっかり忘れ、いま思い出したというわけだ。




本気でたたりを信じているわけではないが、参るだけでこの舌が治るなら、やる価値はある。




自分に言いわけするかのごとく、俺は神様に手みやげを準備していた。ふところを痛めて買った清風亭のロングセラー、ボンボン・オ・ショコラのアソートだ。




誰もいない、うっそうとした境内で目をつぶってこんこんと祈る。




(早く舌が治りますように)


(明日にはすっかり戻ってきますように)


(というか戻してくれ、もしもお前がやったなら)


(そもそも俺、なんも悪いことしてないだろ!なんでこんな目にあってるんだ)


(やっぱごめん。悪いことしてたなら謝ります)


(とにかく頼む。これがたたりならなんでもするから治してくれ)




心のなかで洗いざらい本音をぶちまけたあと、目を開けた。




鼻の先を冷たい突風が吹き抜けて、賽銭箱に置いた手みやげの紙袋ががさりと倒れた。

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