表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/15

秘密

厨房に戻ると、晴人がどたどたと作業台に走り寄るところだった。




「お前、絶対こっそり見てただろ」




野次馬根性丸出しの後輩をじっとにらむ。




「そりゃ見ますよ!七星さんにこんな珍味を出せるなんて、一新さんは天才です!」




らんらんと目を輝かせて晴人がいう。こいつのたちが悪いところは、本気で褒め言葉として言っているところだ。




「あの七星さんも困惑してましたもんね!僕、一新さんと七星さんの組み合わせ大好きなんですよ。あの人の表情をあんなに変えられるのは、この店で一新さんだけです」


「俺も出したかったわけじゃねーよ。今月は本当に時間なくて、適当に作ったこれしかなくて.....」


「でも先月はチョコミントテリーヌだったし、先々月はチョコ味噌サンド。毎月そんなに変わらないです!」


「お前、ほめるかけなすか、どっちかにしてくれ」




ふたたびホールから先輩の呼び声が聞こえてきた。


新作のミニマカロンを持っていく晴人を見届けてから、手元に残ったサバ入りチョコレートを試しに口に入れてみる。




「ぐおオえッえあっ」




ぬらりとした吐き気が込み上げてきて、シンクに頭をつっこんだ。料理人にとって、厨房で吐くのはおおごとだ。必死に両手で口をおさえる。




サバチョコレートがまずかったわけではない。




ただ、サバの味「しか」ない。




水を飲もうとしてやめた。水だろうがなんだろうが、いまの俺はすべてがサバの味になる。




嘘みたいな状況で、最初は自分も信じなかった。けれどこうなってもう一週間、どんな食材を試しても、舌から伝わってくるのは生臭いサバの味だけだ。




なんで、こんなことになったんだ?




職場にばれるわけにはいかなかった。もしばれたら、店を去ることになる。


舌が狂っている見習いを雇ってくれる店など他にあるわけもなく、パティシエの道は閉ざされる。




こんなことで、俺は夢を諦めなきゃいけないのだろうか?


なにもかもがサバの味になるせいで?




天を仰いで絶望しているところに晴人が帰ってきた。表情を見るに、こいつもけっこうなことを言われたらしい。




「一新さん、明日休めって言われてましたよ」




ほぼ手のつけられていないマカロンを作業台に置きながら、晴人が言った。




「なんで?」


「このところの一新さんは、顔色が悪くてうわの空って七星さんが言ってました。健康第一って伝えろだそうです」




なんでもない一言のはずなのに、いまの俺にはどんな言葉よりきつかった。




そろそろ、隠すにも限界がある。


明日中に絶対に、この狂った舌を治さないといけない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ