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赤レンガ倉庫のギャラリー

見習いパティシエには調理以外の仕事がたくさんあるが、そのうちのひとつが荷物持ちだ。




持たされる荷物は、食材から書類の山までたくさんあるが、なかでも俺が嫌っているものがある。




皿だ。




店で皿を持つのはまあいい。というか、持たないと話が始まらない。




けれど、皿の買いつけは話が違う。




七星ななせ先輩はなぜか皿の配送を嫌う。物流を信用していないのか、配送というサービスを知らないのか、理由はわからないがとにかくきらう。




そのうえ、清風亭であつかうのは高級な皿ばかり。俺の家賃がふっとぶ皿でも平気であつかう。




つまり、先輩と皿の買いつけにいくと、大量の高級皿を店まで運ばなければならなくなる。その緊張感ゆえに、俺は買いつけから逃げ回る日々を送ってきた。




が、いまは事情が違う。サバオと協力して味覚を取り戻す算段が立ったとはいえ、どれだけうまくいってもそれは海神が帰ってくる半年後のことだ。




この半年は、積極的に厨房の外の仕事を引き受けたい。




というわけで、先輩が「買いつけの付き添いに誰か来て欲しい」と言ったとき、このうえなくでかい声で返事をした。


その声があまりにでかかったので、こうして無事に先輩の荷物持ちという大役を射止めたわけだ。




週末をホテルで過ごしたゲストがチェックアウトし、清風亭が閑散とする月曜の午後、俺は先輩とふたりで赤レンガ倉庫のギャラリーに向かった。




海の上の石畳に、文字通り赤いレンガでできた倉庫がふたつ、向きあって建っている。ショッピングや食事が楽しめる横浜屈指の観光地のこの場所に、意欲的なギャラリーがある。


そこで、現在個展を開催中の若手アーティストの皿を買う、というのが趣旨だった。




先輩は、まるでこの買いつけが終わるまで俺と口を聞かずにすめば願いがかなうと信じているかのように無口である。




話しかけるべきか、沈黙をつらぬくべきか迷った末、俺は「もうすぐ着くなあ」「混んでるかなあ」などと、話しかけているとも独り言とも取れるぎりぎりの言葉を繰り返すことに腐心していた。




先輩のほうは、そんな俺の気づかいをまったく無視して、目的地につくやいなや赤レンガ倉庫の階段をかつかつとあがっていく。




先輩はいつものシェフコートではなく、紺のワンピースを着ていた。


初めて見る私服姿はひかえ目にいってもきれいだったが、そんなことを言えばひとにらみで殺されることは確実である。




ギャラリーはそれほど広くはなかった。器は全体で二十点ほど。中央の台に大皿が置かれ、壁際にはコップや椀などが並んでいる




中央の大皿をのぞきこむ。表面が水面のように波打っていて、明かりに照らされた器から、ゆらぐ海のような影が台座に落ちている。




角度を変えて眺めると、本物の水面のように表情が変わった。




海をそのまま器にしたような皿。見渡すと、透明のもの、色つきのもの、コップからおわんまでさまざまなものがあったが、すべて同じコンセプトのものらしい。




個展のタイトルは「expression of water ー海の記憶ー」だった。案内文には、横浜の海からインスピレーションを受けて作られたと書かれている。

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