わからない味
見つけた野菜を、向こうが透けて見えるほど薄くスライスする。それを、細長く切ったダークチョコレートに巻きつける。
本当ははちみつでも添えたいが、そういう甘いものは軒並みサバオが食い尽くしている。
やむをえず、塩をわずかにふった。ほんの少しだけ手でにぎって、チョコレートをなじませる。
見た目のできは、悪くはない。
味見をしたいところだが、いまの俺はサバの味しかしないからむだだ。パティシエとしては不本意だが、これで食べてもらうしかない。
「それはなんだ?」
「いいから食えって」
サバオは不満そうな顔をしたまま、ポキリと心地よい音とともにチョコレートを噛んだ。途端、顔がぱっと明るくなる。
「なんじゃこれは!?なぜかあまい!」
「ダークチョコレートのビーツ巻き。けっこうあまいからお前でもいけるだろ」
「ビーツとは火焔菜のいまの名か?それなら江戸の頃にお供えされたが、野菜はきらいだから食べなかった」
どうも大きさや色がおかしいと思ったら、江戸時代のものだったのか。食べていいのかわからないが、御食津神みけつかみの力とやらを信じよう。
「ところどころで舌にふれる塩のおかげで甘く感じる。こんなチョコレートがあるんじゃなあ」
ちょっとした冒険がうまくいって誇らしかった。サバオが満面の笑みで、ビーツが巻かれたチョコレートをほうばっている。
自分が作ったものを、おいしいと言ってもらえるのは嬉しい。こういう一瞬のためにパティシエになったのだと思わされる。
俺の横で、二本目に手をつけたサバオが首をかしげた。
「これは先ほどと味が違うな」
「ビーツにむらがあるんだろ」
「否、チョコレートの方じゃ」
くんくんとチョコのにおいをかぐ。作ったすべてのチョコをかいで、並べ替えたり、わけたりしている。
「なにしてるんだ?」
サバオは答えず、何本かのチョコだけをわきによけて指さした。
「こっちのチョコレートは雨季のものじゃ」
「雨季?」
「雨季にとったという意味じゃ。少し草のようなかおりがあるから、塩をわずかに増やして欲しい」
驚いていると、サバオがけげんな顔をして言った。
「なんじゃ?」
「お前そんなことわかるのか?」
「当たり前じゃ。わしは菓子祖。この世の菓子という菓子を食べておる」
さっき駄菓子を積んでいたやつとは思えなかった。
確かに神と言われるぐらいだ。味覚が鋭くてもおかしくはない。
俺にはわからない味が、こいつにはわかるのかもしれない。
「わしがここにぬしを連れてきたわけを、まだ言うておらんだな」
サバオが思い出したように言う。
「わしは菓子がまったく作れん。さっきのように積んだり載せたりするのが精一杯じゃ」
「さすがにもうちょっとなんとかなるだろ」
「神とはそういうものじゃ。そもそも自分でうまく作れるなら、供えものをありがたがるわけがない」
確かにそうだ。菓子の神とは菓子が好きな神のことで、菓子作りがうまい神のことではないのだ。
「わしは、昔から調理法を学ぼうとしてもまったくうまくいかなかった。でも、なんせ菓子の神じゃから舌はよい。だから、ぬしが菓子を作るがよい」
サバオがずいっと身を乗り出す。
「ぬしが作り、わしが食べる。そしておいしい菓子を作る。これを海神様に供えるのじゃ!」




