馬車道2
「ここもわしの社みたいなもんじゃ。そら」
サバオが指さした先には、大人が身をかかがめてようやくくぐれる大きさの穴があった。
「あの穴は、わしの神社に繋がっておる。四半刻ほど登ればつく」
「神社とここが地下トンネルで繋がってるってことか!?誰が作ったんだこんなもん」
「わしじゃ」
当然のようにサバオが言った。先がけずれて、ほとんど柄だけになったスプーンをこちらに投げてよこす。
まさか、こいつ。
スプーンで地下を掘ったのか?
「神というのはけっこうヒマでな。お供えされた大量の匙を使って、神社の床を何百年もコツコツ掘ってみた。もちろんすべて手作業でな」
脱獄犯じゃあるまいし。よく見ると、穴のそばにある木箱には、同じように柄だけになったスプーンが積まれている。
「でもなんで馬車道駅なんだ?」
「あてもなく掘っていたら、ある日、土の向こうから轟音がした。なにかと思ったら、逆側で大きな車が地下をせっせと掘っておった。
ちょうどよく壁に扉までつけておったので、これはオモシロイと思い、ばれぬようにこっそりわしの通路と繋げてみたんじゃ」
要するに、適当に掘っていたら駅の工事現場にぶちあたり、おもしろがって繋げてみたということか。
工事の作業員に見られなくてよかった。横浜の地下をスプーンで掘り進める男という、世にもいらない都市伝説が生まれてしまうところだった。
「それで、なんでここに俺を連れてきたんだ?まさか自分が作った洞窟を見せたいからってわけじゃないよな」
サバオが少し傷ついた顔をする。見せたかったのかよ。
「わしは菓子の神じゃからの。菓子型から木杓子まで、菓子道具も供えられる。ときどき、それを使って菓子をこしらえておるのじゃ」
「えっ!?お前、お菓子作れるのか!?」
俄然、興味が湧いた。何万年も生きる神が作るお菓子なんて、絶対おもしろいじゃないか!パティシエの血がさわぐ。
たとえこの舌がサバの味しか感じられないとしても、なにをどう作るのかは見たい。そもそも、この洞窟にあるそれぞれの道具の使い方も気になっていた。
「俺になんか作ってくれよ!和菓子でも洋菓子でもいいからさ!」
「ここ百年は洋菓子の方がよく作る。そう焦るな。いま作ってやろう」
木箱からサバオが材料を取り出す間、俺はわくわくしてそれを待った。
サバオは道具を一切手に取らず、棒チョコレートの袋をあけた。スーパーで見かける、中にサクサクとしたコーン棒が入った子ども向けの安いものだ。
これをどう料理する気だろう。かたずを飲んで見守る俺の目の前で、サバオは丁重に3本の棒チョコを取り出し、二本を立て、その上に横棒を一本わたした。
......終わり?
「えっ!?終わり?」
「そうじゃ。神が作ったチョコレート鳥居。横棒は一本足らんがの」
サバオが鼻を鳴らしてどや顔をする。本当にこれで終わりらしい。
「お前、何万年と生きてきて、チョコレートの棒を横に載せることしかできないのか!?」
「ひどい言い様じゃの。せっかく作ってやったのに」
サバオが口をとがらせる。こいつの作るの定義はなんなんだ。
無性に腹が立ってきた。お前、舌が狂ってるわけでもないだろ!チョコでもなんでもおいしく食べられるんだろ!
だったらお菓子、もっといいの作れるだろ!?
「もういい、貸せ。俺がやる」




