サバオ
神社の目と鼻の先に、エリスマン邸と呼ばれる洋館がある。
白い壁、ライムグリーンの鮮やかな窓。
文化財としても知られるこの洋館の一部を使ったカフェで、なにが悲しいのか俺は神とふたりで小さなテーブルを囲んでいた。
目の前に座った神は、このカフェが提供する三種のケーキすべてをならべ、ひとくちずつ食べることに夢中になっている。
「......おい」
「なんだ?わしがクラシックショコラを食べているときは話しかけるな」
「それさっきアップルパイ食べてたときも言ってただろ!話し合うならどうしても菓子がいるって騒ぐからここに来たけど、本当に菓子を食いに来たわけじゃないんだぞ!?」
「随分いらいらしておるな。そういうときは菓子が一番。ぬしも好きなケーキを頼むがよい」
「いらない。ちょうど金欠だし」
本当はどんな店であれ、デザートはできれば食べたかった。
味、メニュー、盛りつけ、提供方法。
外食はすべてがパティシエとして勉強になるし、一番の趣味でもある。
でも、いまはどうせ食べてもサバの味しかしないのでその気にならない。節約のためにも、舌が治るまでは外では食べないつもりだった。
「しかし、ぬしはどうせわしのケーキ代を払うんじゃ。だったら自分も食べる方がよかろう」
「俺、お前の分払うのか?」
「当然じゃろう。わしは金を持ってきておらん」
「いますぐ賽銭箱から取ってこい」
「嫌じゃ。ぬしにたかった方が節約になる。神の節約術じゃ」
言い返してもむだと悟っていたので、無視をした。絶対に払わないからな。
それにしても、神社を出てからやたら周りの視線を感じる。
最初は人外めいた神の姿が原因かと思っていたが、となりの若い女性二人組から、小さく「かっこいいね」と聞こえてきたことで事態を察した。同時に俺のいらいらも頂点に達した。
これ以上こいつが目立たないよう、服やらサングラスやらを調達しようと心に決めた。絶対ダサいやつを着せてやる。
それから、目立たないためには呼び名もなんとかしないといけない。
「お前、名前なんだっけ?」
「新羅王子天日矛しらぎおうじあめのひぼこの孫氏そんしにして〜」
「それ覚えられないんだって。なんて呼べばいい?」
「神でよい」
「それが嫌だから聞いてるんだよ。周りにやばいやつだと思われるだろ」
「神とは人にとってやばい存在であろうから間違っておらぬ」
「そんな話してねーよ。もう面倒だからサバオでいいか?」
サバオがあからさまに嫌そうな顔をした。決まりだ。




