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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第1章 選ぶ側

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第6話 重力

地下室の空気が、静かに変わった。


ランタンの炎がわずかに揺れる。


奥の通路から現れた男は、ゆっくりと歩いてきた。


黒いローブ。


長い袖。


足音はほとんど響かない。


男は倒れている仲間たちを一瞥した。


それから、ガルドを見る。


黒剣を見る。


ほんのわずかに眉が動いた。


「……珍しい」


低い声だった。


「その剣」


ロックは思わず背筋を伸ばした。


(やっぱりだ)


この男は違う。


酒場で一緒にいた連中とは、まるで空気が違う。


ロックは小さく呟く。


「……アズラエル」


セリナが聞き返す。


「知ってるの?」


ロックは頷いた。


「結社の幹部だ」


「魔法使い」


セリナの弓が静かに上がる。


アズラエルはそれを見ても動じない。


むしろ興味深そうに言った。


「エルフの弓か」


「珍しい客だ」


その視線が再びガルドへ戻る。


黒剣。


黒い刃。


まるで光を吸うような色。


アズラエルは静かに言った。


「面白い」


その瞬間。


彼の指がわずかに動いた。


ドンッ!!


空気が落ちた。


見えない何かが床を叩いたような衝撃。


石が砕ける。


セリナの膝が沈んだ。


「……っ!」


体が重い。


足が動かない。


まるで大きな岩に押し潰されているようだった。


ロックも同じだった。


「な……んだ……これ」


呼吸が浅くなる。


肺まで押されているような圧力。


アズラエルは静かに言う。


「重力だ」


「単純な魔法だよ」


彼は机の端に指を置いた。


その指先だけ、軽く沈む。


まるで見えない重さがそこにあるように。


「少し強くしただけだ」


セリナは歯を食いしばる。


弓を持ち上げようとする。


だが腕が重い。


ロックは膝をついた。


「くそ……」


その時だった。


ギィ……


重い音。


ロックは顔を上げる。


ガルドが動いていた。


重力の中で、ゆっくり一歩前へ出る。


床が軋む。


アズラエルの眉が少し動いた。


「ほう」


黒剣の柄に手がかかる。


ゆっくり引き抜く。


黒い刃が姿を現す。


その瞬間。


地下の空気が冷えた。


ロックは息を呑む。


(まただ)


この剣。


何かおかしい。


ただの鉄じゃない。


まるで——


その時。


ロックの頭の奥で、かすかな音がした。


——…………


風のような。


遠い声のような。


ロックは顔をしかめる。


(……なんだ)


もう一度。


——⋯ニ……


かすかだった。


意味は分からない。


——……ロ……


途切れる。


ロックは首を振った。


(気のせいだ)


だが胸の奥がざわつく。


まるで、どこか遠くから


見られているような感覚。


その間にも。


ガルドは剣を持ち上げていた。


重力の中で。


黒剣が振られる。


ドンッ!!


衝撃。


床の石が砕けた。


重力の圧力がわずかに揺らぐ。


セリナの体が少し軽くなる。


アズラエルの目が細くなった。


「……なるほど」


本当に面白そうだった。


「ただの剣ではないか」


ガルドは答えない。


ただ静かに剣を構えている。


アズラエルは指を軽く動かした。


重力がさらに強くなる。


床がきしむ。


石に亀裂が入る。


ロックは歯を食いしばる。


「やば……」


その時。


アズラエルがふっと息を吐いた。


「だが」


「今日はここまでだ」


足元の床が光る。


魔法陣。


転移。


セリナが叫ぶ。


「逃がさない!」


矢が放たれる。


ヒュンッ!


だが矢は見えない壁に弾かれた。


光が膨らむ。


次の瞬間。


アズラエルの姿は消えていた。


地下に静寂が戻る。


重力も消える。


ロックは床に倒れ込んだ。


「はぁ……はぁ……」


セリナも膝をつく。


「逃げられたわね」


ガルドは黒剣を背中に戻した。


短く言う。


「……ああ」


ロックは天井を見ながら呟く。


「マジかよ……」


そして小さく思う。


(やっぱり)


(この人……)


ガルドを見る。


黒剣の男。


(とんでもない用心棒だ)

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