第5話 黒剣
地下の部屋には、ランタンの光が揺れていた。
石壁に影が伸びる。
机の上の魔法陣の紙が、わずかな風で揺れた。
男が腕を組む。
「で、用心棒」
「名前は?」
沈黙。
しばらくして、短く答えた。
「……ガルド」
それだけだった。
男は眉をひそめる。
「それだけか?」
ガルドは答えない。
ロックが慌てて口を挟む。
「無口なんだよ、この人」
「腕は確かそうだ」
男たちは視線を交わす。
黒剣を見た。
巨大な刃。
無骨な造り。
だが奇妙な存在感がある。
一人が小さく言った。
「……重そうだな」
その時だった。
地下の奥から金属音が響いた。
ガチャ……
鉄の擦れる音。
男の一人が振り向く。
「おい」
「檻の確認してこい」
二人の男が奥の通路へ向かった。
地下の空気は重い。
ロックは落ち着かない様子で足を動かしている。
(女……ってなんだよ)
(触媒って言ってたよな)
嫌な言葉だった。
だが今さら聞き返せない。
その時。
奥から怒鳴り声が上がった。
「誰だ!?」
地下の空気が一瞬で張り詰める。
次の瞬間。
ドンッ!!
扉が吹き飛んだ。
木片が部屋に散る。
煙の向こうに銀色の髪。
セリナだった。
弓を引いている。
矢が放たれる。
ヒュンッ!!
男の手から剣が弾き飛ばされた。
床を転がる金属音。
「動かないで」
セリナの声は冷静だった。
地下の男たちが騒ぐ。
「侵入者!」
「エルフだ!」
ロックは目を丸くした。
(速い……!)
セリナの視線はすぐにガルドを見つける。
「ガルド」
ガルドは短く答えた。
「……来たか」
その一言で、ロックは固まった。
(知り合い!?)
男が怒鳴る。
「やれ!」
三人の男が剣を抜く。
一斉にガルドへ突っ込んだ。
ロックは思わず叫びそうになる。
(危ない!)
その瞬間。
ガルドの手が黒剣の柄を掴んだ。
ギィ……
重い音がした。
まるで剣が目覚めるような音。
黒い刃が抜かれる。
ランタンの光を吸い込むような色。
その瞬間、空気がわずかに冷えた。
ロックは息を呑む。
(……なんだ今の)
剣が振られた。
——一瞬だった。
ドンッ!!
男の剣が弾き飛ぶ。
次の瞬間には、二人目の体が横に吹き飛んでいた。
石壁に叩きつけられる音。
三人目が斬りかかる。
ガルドは体を半歩だけずらす。
剣は空を切った。
そして黒剣の柄が男の腹に叩き込まれる。
ドッ!!
男が崩れ落ちた。
静寂。
三人が倒れている。
ロックは完全に固まっていた。
(……は?)
(今……何が起きた)
セリナが呆れたように言う。
「早いわね」
ガルドは黒剣を肩に戻した。
「……終わり」
ロックは口を開けたままガルドを見る。
(いやいやいや)
(終わりってなんだよ)
その時だった。
地下の奥から、ゆっくり足音が響く。
コツ……
コツ……
ランタンの光の外。
暗い通路から、一人の男が現れた。
黒いローブ。
落ち着いた目。
部屋の空気が変わる。
ロックが小さく呟く。
「……幹部」
男は倒れている仲間を見た。
それからガルドを見る。
黒剣を見る。
ほんのわずかに眉が動いた。
「……珍しい」
低い声。
「その剣」
ロックは背筋が冷たくなるのを感じた。
この男は違う。
さっきの連中とは、まるで格が違った。




