第17話 観測者
扉の先は、広かった。
だが、それ以上に——“整いすぎていた”。
円形の空間。
床には精密な紋様が刻まれ、淡い光が脈打っている。
壁面には、等間隔で配置された装置。
中央は、ぽっかりと空いていた。
何もない。
だが——
「……なんだよ、これ」
ロックの声が低くなる。
何もないはずのその空間が、最も異様だった。
セリナはすぐに気づく。
「……違う」
目を細める。
「ここ、“何かを置く場所”よ」
その言葉と同時に——
カチ、と音が鳴った。
全員の視線が動く。
壁の一部が、静かに開いた。
中から現れたのは——人影。
黒い装束。
統一された動き。
三人。
ロックが舌打ちする。
「やっぱ来るか」
だが——様子が違う。
構えてはいる。
だが、踏み込んでこない。
距離を測るように、ゆっくりと散開する。
セリナが低く言う。
「……囲まれてる」
ロックが笑う。
「歓迎って感じじゃねぇな」
その瞬間。
一人が動いた。
速い。
一直線にロックへ。
ロックが剣で受ける。
重い衝撃。
「ぐっ……!」
押される。
だが——
他の二人は動かない。
見ている。
セリナが気づく。
「……違う」
矢を番えながら、言う。
「これ、連携じゃない」
放つ。
敵が回避する。
だが追撃は来ない。
ロックが叫ぶ。
「どういうことだ!」
セリナの声が鋭くなる。
「試されてるのよ!」
沈黙。
一瞬で理解が走る。
「一対一……かよ」
ロックが歯を食いしばる。
相手の剣が振り下ろされる。
受ける。
重い。
だがさっきの“実験体”とは違う。
技術がある。
洗練されている。
「……人間か」
ロックが呟く。
敵は答えない。
ただ、無駄なく剣を振るう。
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その頃。
セリナの前にも、一人が出る。
弓を引く。
放つ。
相手は最小限で回避。
距離を詰めてくる。
セリナは後退しながら矢を連射。
正確。
だが——
決定打にならない。
「……硬い」
防御が徹底されている。
攻めてこない。
崩しに来る。
「やっぱり……」
息を整えながら、呟く。
「測ってる」
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ガルドの前。
最後の一人。
動かない。
ただ——立っている。
わずかに、間合いが詰まる。
次の瞬間。
一歩。
踏み込む。
速い。
だが——
ガルドは動かない。
振り下ろされる刃。
ギィン、と重い音。
黒剣が受け止める。
そのまま——
弾く。
一瞬。
それだけで十分だった。
間合いが崩れる。
次の瞬間には、懐に入っている。
振る。
一閃。
男が吹き飛ぶ。
壁に叩きつけられる。
動かない。
沈黙。
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空気が、変わる。
ロックが押し返す。
セリナが一歩詰める。
それぞれの戦いが、一気に動く。
ロックが叫ぶ。
「終わらせるぞ!」
剣を滑らせる。
足を払う。
体勢が崩れる。
そのまま叩き込む。
敵が倒れる。
セリナも矢を放つ。
急所。
迷いのない一撃。
相手が崩れ落ちる。
静寂。
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その時だった。
再び、音。
カチ、と。
全員が反応する。
だが今度は——
空間全体が、わずかに震えた。
セリナの目が細くなる。
「……まだ終わってない」
ロックが息を吐く。
「だろうな」
ガルドはすでに前を見ている。
その視線の先——
中央の空間。
何もなかった場所。
そこに、淡い光が集まり始めていた。
円を描くように。
紋様が強く輝く。
ロックが顔をしかめる。
「おいおい……次かよ」
セリナが低く言う。
「違う」
視線は動かない。
「……来る」
何が、とは言わない。
だが分かる。
この先にあるものは——
今までとは違う。
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その時。
どこからともなく、声が響いた。
「観測、継続」
低い。
感情のない声。
空間全体から聞こえる。
ロックが振り返る。
「……誰だ!」
返答はない。
ただ、続く。
「戦闘能力——良好」
「個体差、顕著」
セリナの顔が強張る。
「……っ」
ガルドは動かない。
ただ、聞いている。
「異常値——確認」
一瞬の間。
そして——
「優先観察対象へ移行」
空気が、変わる。
ロックが低く呟く。
「……気味悪ぃな」
セリナの視線が、ガルドへ向く。
何も言わない。
だが——理解している。
“それ”が、誰を指しているのか。
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光が、強くなる。
中央の空間が歪む。
次の段階へ。
試験は、終わっていない。
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三人は、構える。
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“観測”は、続いている。




