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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第2章 影を踏む

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第16話 痕跡

空気が、変わっていた。


先ほどまでの“閉じた静けさ”とは違う。


今は——揺れている。


見えない何かが、空間の奥で脈打っている。


ロックが小さく舌打ちした。


「……さっきより、嫌な感じだな」


セリナは答えない。


ただ前を見る。


その目は、わずかに鋭さを増していた。


ガルドは変わらない。


無言のまま、先頭を歩く。


---


通路の先、開けた空間に出る。


そこはこれまでよりも広かった。


だが整ってはいない。


床は抉れ、壁は焼け焦げ、天井にはひびが走っている。


明らかに——戦闘の跡だった。


ロックが周囲を見渡す。


「……派手にやったな」


セリナがゆっくりと歩み寄る。


視線は床に落ちている。


足跡。


引きずられた跡。


そして——


細い、刻まれた傷。


ロックが覗き込む。


「なんだこれ」


セリナはしゃがみ込み、指でなぞる。


その形は、人間のものではない。


「……矢傷」


小さく、呟く。


ロックが目を細める。


「弓か?」


セリナは答えない。


だが、その指が止まる。


震える。


「……違う」


かすかに首を振る。


「これは……」


言葉が続かない。


だが、分かっている。


これは——


エルフの矢だ。


しかも、癖がある。


見慣れた軌道。


知っている撃ち方。


ロックが顔を上げる。


「おい」


セリナは立ち上がる。


目はもう迷っていない。


「……先にいる」


短く、それだけ言う。


---


その時だった。


気配が動く。


ガルドが足を止める。


ロックも反応する。


「来るぞ」


次の瞬間。


影が、天井から落ちた。


ドンッ、と鈍い音。


人影。


だが——歪んでいる。


体が不自然に膨れ、片腕だけが異様に長い。


顔は半分が崩れ、目が濁っている。


「……なんだよ、これ」


ロックが剣を抜く。


男は、ゆっくりと顔を上げた。


そして——笑った。


壊れたように。


次の瞬間、突進してくる。


速い。


ロックが迎え撃つ。


剣を振るう。


だが——


「ちっ、重ぇ!」


腕で受け止められる。


そのまま押し返される。


床を滑る。


セリナが矢を放つ。


肩に突き刺さる。


だが止まらない。


「効いてない……!?」


「いや、効いてる!」


ロックが叫ぶ。


「でも止まんねぇ!」


男が腕を振り下ろす。


ロックは横へ飛ぶ。


床が砕ける。


ガルドが動く。


一歩で間合いに入る。


黒剣が振るわれる。


一閃。


音が遅れて届く。


男の体が、ずれる。


そのまま崩れ落ちた。


沈黙。


ロックが息を吐く。


「……なんだよ今の」


セリナが男を見下ろす。


顔をしかめる。


「……人間よ」


ロック

「は?」


「元、ね」


その言葉に、ロックは黙る。


男の体は、不自然に歪んでいる。


魔力が暴走しているのが分かる。


セリナが低く言う。


「適合できなかったのね」


ロックが吐き捨てる。


「……ああいうのが“失敗”か」


---


その時。


ロックが一瞬だけ、足を止めた。


「……っ」


背筋が、冷える。


——ニ


何かが、頭の奥で弾けた。


一瞬。


それだけ。


「……なんだ、今の」


セリナ

「どうしたの?」


ロックは首を振る。


「……いや」


気のせいだと思い込む。


だが——


足が、ほんのわずかに早く動いていた。


---


通路の奥。


さらに進む。


空気の“揺れ”が強くなる。


セリナの足が速くなる。


抑えているが、明らかに焦っている。


やがて——


扉が見えてくる。


これまでとは違う。


大きい。


重い。


そして——


閉じられていない。


わずかに開いている。


ロックが低く言う。


「……中か」


セリナは答えない。


ただ、その扉を見ている。


呼吸が浅い。


手が、わずかに震える。


だが——


止まらない。


ガルドが前に出る。


そのまま、扉を押す。


重い音。


ゆっくりと開く。


---


その先から——


“揺れ”が、溢れ出した。


---


セリナが、かすかに呟く。


「……近い」


---


三人は、中へと踏み込む。


---


そこにあるものを、


まだ知らないまま。

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