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無口すぎる追放騎士、ドラゴンの呪われた黒剣を背負って街に現る  作者: 雑煮餅
第2章 影を踏む

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第15話 歪んだ施設

扉の先は、静かすぎた。


足を踏み入れた瞬間、空気の質が変わる。


重い。


湿っているわけでも、淀んでいるわけでもない。


ただ——“閉じている”。


ロックが眉をひそめた。


「……なんだここ」


視界の先には、整然と並んだ通路。


壁は滑らかに削られ、人工的な均一さを持っている。


だが、その整い方が異様だった。


人の手によるものなのに、人の気配がない。


セリナがゆっくりと歩を進める。


指先で壁に触れる。


「……石じゃない」


「は?」


ロックが振り返る。


セリナは目を細めたまま言う。


「加工されすぎてる……魔力が染み込んでるわ」


その言葉に、ロックは周囲を見回す。


「全部か?」


「ええ。ここ全体が“装置”みたいなものね」


ガルドは何も言わない。


ただ前を見る。


その視線の先——


通路の奥に、いくつもの扉が並んでいた。


規則的に。


同じ間隔で。


同じ形で。


まるで用途ごとに区切られているかのように。


ロックが口を歪める。


「……部屋って感じじゃねぇな」


セリナが小さく頷く。


「区画ね」


---


一つの扉の前で止まる。


取っ手はない。


中央に刻まれた紋様。


セリナが手をかざす。


わずかに光が走る。


カチ、と音がした。


扉が横に滑る。


中は——


狭い空間だった。


石の台。


拘束具。


そして、床に残る黒い染み。


ロックの顔が引きつる。


「……おい」


セリナは無言で中に入り、しゃがみ込む。


指先で染みをなぞる。


乾いている。


だが完全には消えていない。


「血……ね」


ロックが吐き捨てる。


「趣味悪すぎだろ……」


セリナは首を振る。


「違う」


立ち上がる。


視線は冷静だ。


「これは処理の跡じゃない」


「は?」


「残ってるのは“結果”だけ」


ロックは眉をひそめる。


セリナは周囲を見回す。


拘束具の位置。


刻まれた紋様。


空間の広さ。


「ここ、“観察するための場所”よ」


沈黙。


ロックの表情が固まる。


「……人をか?」


「ええ」


短く、断定する。


---


さらに奥へ進む。


似た構造が続く。


だが中身は違う。


壊れた装置。


焼け焦げた壁。


何も残っていない部屋。


ロックがぼそりと呟く。


「……成功と失敗、ってやつか」


セリナは答えない。


だが否定もしない。


---


次の区画。


扉が開く。


中は、これまでと違った。


壁一面に刻まれた記録。


文字。


記号。


断片的な文章。


ロックが顔をしかめる。


「……なんだこれ」


セリナがゆっくりと歩み寄る。


目を走らせる。


「……記録ね」


淡々とした声。


だが、その奥に緊張がある。


ロックが近づく。


「読めるのか?」


「少しだけ」


セリナの視線が動く。


上から下へ。


一つ一つ、追うように。


やがて——


その動きが止まる。


沈黙。


ロックが覗き込む。


「どうした」


セリナは答えない。


壁の一点を、じっと見ている。


その箇所だけ——形式が違った。


他はすべて番号だけの記述。


短い行。


だがそこには、名前があった。


エルフ語で。


ロックが眉をひそめる。


「……なんだそれ」


セリナの指が、その文字に触れる。


なぞるように。


わずかに震える。


「……」


声が出ない。


否定するように、首を振る。


「……違う」


小さく、呟く。


だが視線は外れない。


「こんなところに……あるはずがない」


ロックが低く言う。


「読めるのか?」


セリナは一瞬だけ迷う。


そして、答える。


「……名前よ」


それ以上は言わない。


ロックは言葉を飲み込む。


空気が変わる。


軽口は出ない。


セリナは、ただその文字を見つめている。


信じるか、否定するか。


その狭間で止まっている。


やがて、小さく息を吐いた。


「……いる」


その言葉は、確信ではなかった。


願いに近い。


ロックには意味は分からない。


だが——


その重さだけは分かった。


「……そうかよ」


短く、それだけ返す。


---


その時だった。


わずかに、空気が揺れる。


セリナの耳が動く。


「……今」


ロック

「何だ?」


セリナは目を閉じる。


集中する。


そして、ゆっくりと目を開いた。


「……魔力」


「どこだ」


セリナは奥を指す。


「この先」


その声は、わずかに強い。


迷いが混じっている。


だが、止まらない。


---


ガルドが歩き出す。


迷いなく。


そのまま奥へ。


ロックが肩をすくめる。


「ほんと、躊躇ねぇな」


だが、その声は少しだけ低い。


セリナも続く。


足取りは速い。


抑えているが、焦りが滲む。


---


通路はさらに奥へ続く。


曲がる。


下る。


広がる。


そして——


空気が変わる。


重い。


だが、それだけではない。


“揺れている”。


見えない何かが満ちている。


ロックが立ち止まる。


「……なんだこれ」


肌が粟立つ。


呼吸が浅くなる。


セリナの目が見開かれる。


「……間違いない」


声が、震える。


「……リゼの魔力」


---


その瞬間。


カチ、と音がした。


三人が同時に振り返る。


だが、何もない。


通路は静まり返っている。


ロックが低く言う。


「……今の、聞こえたか」


セリナが頷く。


ガルドは何も言わない。


ただ——


わずかに視線を動かす。


天井。


壁。


床。


---


見えない。


だが確かに——


何かが“こちらを見ている”。


---


三人は、再び歩き出す。


止まらない。


止まれない。


---


奥へ。


さらに奥へ。


---


“観測の中心”へと。

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