第14話 選別
重い扉が、軋む音とともに開いた。
その先に広がっていたのは——明らかに、これまでとは異なる空間だった。
広い。
倉庫の地下とは思えないほどに。
円形に近い構造。壁面は滑らかに整えられ、床には薄く刻まれた紋様が走っている。
そして——その正面。
さらに奥へと続く扉があった。
他とは違う造り。
わずかに開いている。
暗いその先から、かすかな光が漏れていた。
ガルドの視線が、そこに向く。
ロックが小さく息を吐いた。
「……なんだよ、ここ」
セリナの視線が床に落ちる。
刻まれた紋様をなぞるように、目を細める。
「魔法陣……それもかなり大規模な」
その言葉が終わるより早く——
背後の扉が、重く閉じた。
ガン、と鈍い音が響く。
ロックが振り返る。
「おいおい……マジかよ」
取っ手を引くが、びくともしない。
完全に封鎖されている。
その時だった。
床の紋様が、淡く光を帯びる。
「……来る!」
セリナの声が鋭くなる。
次の瞬間、空間の各所に光点が浮かび上がった。
それは一瞬で形を成し——
無数の光弾が放たれる。
「ちっ!」
ロックが身を翻す。
床を蹴り、横へ飛ぶ。
直撃した石床が抉れ、粉塵が舞う。
「威力、洒落になってねぇぞ!」
セリナはすでに動いていた。
矢を番え、放つ。
光弾の軌道を読み、相殺するように撃ち落とす。
だが数が多い。
その中で——
セリナの目が細くなる。
「……違う」
ロックが叫ぶ。
「何がだ!」
セリナは飛来する光弾を見据えたまま、低く言う。
「急所を外してる……」
一発が頬をかすめる。
だが、致命には届かない。
「狙えば当たるはずなのに——わざとズラしてる」
ロックが眉をひそめる。
「は?」
次の光弾が、足元すれすれを抜ける。
「回避できる位置に撃ってるのよ」
矢を放ちながら、セリナは続ける。
「避けられるか、どう動くか……見てる」
一瞬の間。
そして、はっきりと言い切った。
「これは——試されてる」
次の瞬間、光弾の軌道が変わる。
追尾。
「くっ……!」
セリナが後退する。
回避しながら撃ち落とすが、完全には捌ききれない。
ロックが割り込む。
「下がれ!」
剣で弾き、軌道を逸らす。
だが衝撃が腕に重くのしかかる。
「くそ、魔法ってのはこれだから嫌いなんだよ!」
その時——
光弾の一部が、わずかに軌道を変えた。
セリナではなく、別の一点へと収束していく。
ガルドだった。
わずかに立ち位置をずらし、攻撃を引き寄せている。
ロックが目を見開く。
「おい……わざとかよ」
集中する光弾。
数が一気に増える。
だが——
ガルドは動じない。
迫る光。
その中を、歩く。
一歩。
わずかな体重移動で、軌道を外す。
もう一歩。
最小限の動きで、すり抜ける。
無駄がない。
まるで最初から、そこに来ると分かっているかのように。
一発が、セリナの死角へ滑り込む。
その瞬間——
ガルドが踏み込む。
腕を振るい、軌道を逸らす。
直撃寸前の一撃が、壁へと弾かれた。
セリナが息を呑む。
「……っ」
ガルドは何も言わない。
ただ前へ進む。
光弾の密度がさらに上がる。
だが動きは変わらない。
最短で、最小限。
当たらない。
その時——
空間の光が、一瞬だけ揺らいだ。
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「……異常値検出」
どこからともなく、声が響く。
無機質な声。
感情はない。
セリナが顔を上げる。
「……なに?」
「再評価対象……認識」
ロックが舌打ちする。
「気味悪ぃな……!」
だが、攻撃は止まらない。
むしろ——
収束する。
ガルドへ。
「おい、集中してるぞ!」
ロックが叫ぶ。
セリナも気づく。
「狙われてる……!」
だが——
ガルドは止まらない。
むしろ、踏み込む。
光弾の中へ。
一歩。
二歩。
その動きに、迷いはない。
そして——
踏み込んだ瞬間。
全ての光弾が、わずかに遅れた。
その一瞬の“ズレ”。
ガルドはそれを見逃さない。
踏み込み、抜ける。
一直線に。
奥の扉へと。
完全に、抜けた。
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光が、止む。
空間が静まる。
残るのは、焼けた石の匂いと、荒い呼吸。
ロックが肩で息をしながら笑う。
「……はは、なんだよ今の……」
セリナは言葉を失っていた。
視線は、ガルドに向いている。
無傷。
呼吸も乱れていない。
ただ、いつも通りそこに立っている。
「……ありえない」
小さく呟く。
その時だった。
先ほどの声が、再び響く。
「適性……確認」
「戦闘能力……上位」
「異常値……優先観察対象に移行」
ロックが顔をしかめる。
「は?」
セリナの目が細くなる。
「……選別されてる」
ガルドは、わずかに視線を上げた。
何も見えない空間を、ただ見据える。
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重い音を立てて、奥の扉がゆっくりと開く。
先へ進む道が、完全に示される。
ロックが低く言う。
「……通された、ってことか?」
セリナは首を横に振る。
「違う」
一歩、踏み出す。
「選ばれたのよ」
ロックが苦笑する。
「嬉しくねぇな」
その横で——
ガルドが短く言った。
「……違う」
二人が見る。
ガルドは、ただ一言。
「見られてる」
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三人は、開いた扉の先へと進む。
その先にあるものが何かは、まだ分からない。
だが一つだけ、確かなことがあった。
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それは侵入の成功ではない。
“選別”が、終わっただけだった。




