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第2話 遺跡の起動

近づくべきか、離れるべきか。

そもそも、この宇宙服のまま動き続けるのは無理だ。

体力が、先に尽きる。


答えは明確には出せなかった。

ただ一つ確かなのは、あれは自然の延長線上には存在しないということだ。


巨大な壁は、森の中であまりにも異質だった。

木々のざわめきや、湿った空気の匂いと、どうしても噛み合わない。


……それなのに。


僕は、動き続けた。生命維持装置も、ヘルメットも、脱ぎ捨てて、

壁に向かって歩を早めた。

――生き残るには、情報が必要だった。


慎重に距離を詰める。

一歩ごとに、ブーツの下で土が音を立てる。

さっきまで聞こえていた鳥の声は、いつの間にか消えていた。


壁の表面は、近くで見るとさらにおかしかった。


凹凸がない。

石のようでいて、石じゃない。

触れた指先に、冷たさは伝わるが、素材が分からない。


「……見たことがないな」


独り言が、壁に吸われるように消えた。


角度を変えて見る。

継ぎ目はない。

積み上げた形跡も、削った跡も見当たらない。


最初から、この形だった。

そんな感じがした。


壁の根元を辿っていくと、わずかな隙間があった。


人ひとり、ぎりぎり通れるかどうか。

中は暗い。だが、完全な闇ではない。


――嫌な感じがする。


理由は説明できない。

ただ、さっき触れた“光の筋”と、同じ種類の違和感だ。


それでも、僕は立ち止まらなかった。


宇宙飛行士の訓練では、

「分からないから進まない」は、選択肢に入らない。


必要なのは、準備と撤退判断だ。


手持ちの照明の、最小出力で足元を照らす。

空気は、外と同じ。流れもある。


一歩、中に入った。


――床が、沈んだ。


ほんの数センチ。

ブーツの底が、わずかに下がるのが分かる。


「……っ」


反射的に体を引く。


だが、遅かった。


床は、ゆっくりと、しかし確実に沈み続けた。

くるぶしの位置まで。


重力が変わったわけじゃない。

足場そのものが、身体を“飲み込み始めている”。


次の瞬間、

足元の奥で、低い振動音が走った。


ゴウン、という音が、壁の内側から伝わってくる。

地面じゃない。

壁全体が、鳴っている。


遅れて、空気が動いた。


前方――暗がりの奥で、

何かが“起動”する気配。


「罠……」


床が、完全に沈んだ。


同時に、背後で金属音が響く。


振り返る。


さっきまで通れたはずの隙間が、どこにもない。


逃げ道が、消えた。


壁の内側で、

確実に“何か”が動き始めている。


――まずい。


僕は歯を食いしばり、

光の届かない奥へと、視線を向けた。


そこには、音だけがあった。

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