表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

第16話 回収屋のやり方

朝は早かった。


街が目を覚ます前に、リラは歩き出す。

僕も、理由を聞かずについていく。


ただ、今日の足取りは、少し違った。


直す仕事じゃない。

片づける仕事でもない。


「回収する」


そういう仕事に、

僕が連れて行かれているのだと、

なんとなく分かっていた。


昨日の話は、まだ言葉にならない。

言葉にすると、形が決まってしまう。


裏通りを抜け、古い倉庫の前で足を止めた。


扉は半分外れ、隙間から冷たい空気が流れている。

外より冷たい。

倉庫の中が、勝手に冷えている。


――温度差。

空気が動いている証拠だ。


僕は呼吸を一つ、ゆっくり吐いた。

白くはならないが、吐息が薄い膜になって、隙間へ吸い込まれていく。


「ここ」


リラが言った。


倉庫の奥、床に転がっているのは、

金属と石を組み合わせた箱だった。


表面の文様は、視線を向け続けると微妙にずれる。

見ていないと、元に戻る。


「近づかないで」


リラが言う。


声が、いつもより低い。


「これが……魔道具?」


「保管されてた」


過去形だった。


僕は箱から距離を取り、周囲を見る。

梁の歪み。

床の擦れ。

落下した痕跡。


落ちた。

でも、壊れてはいない。


「落ちた衝撃で、目を覚ました感じか?」

「何が起こる?」


「分からない」


即答だった。


「前に触った人は?」


「腕がなくなった」

「あと、帰り道を思い出せなくなった人がいる」


壊れる、とは違う。

中身を、掻き回される。


僕は一歩、箱に近づく。


文様が、わずかに明るくなった。


僕は、足を止めた。


一歩引くと、光は沈む。


「……距離だけじゃない」


小さく息を吐く。


「速度か? それとも……加速度か」


状態が変わるときだけ反応する。


制御の世界ではよくある。

入力そのものじゃなくて、入力の変化率に噛みつく。


この箱は、制御対象じゃない。

僕のほうを、センサーで見ている。


答えは、まだ出ていない。

だから、確かめる。


僕は深く息を吸い、

吐く速さを一定に保った。


歩幅を、半分にする。

体重を、踵からつま先へ、ゆっくり移す。


一歩。


文様は、反応しない。


もう一歩。


光が揺れかけて、止まる。


「……いける」


リラが、息を止めているのが分かった。


僕は箱の側面に手を伸ばす。

触れない。

触れる寸前で止める。


そのまま、箱の重心を感じ取る。

押さない。

引かない。


体の位置を、ほんの少しずらす。


箱が、音もなく動いた。


文様は沈黙したままだ。


「急がなければ、起きない」


一定の速さ。

止めない。

変えない。


僕はそのまま、箱を押し続ける。


倉庫の外へ。


境目を越えた瞬間、

文様が、完全に沈んだ。


冷たい空気の流れが消える。

外気に混ざって、倉庫の“条件”がほどける。


「……終わり?」


リラが、ようやく息を吐く。


彼女は腰の袋から、布を取り出した。


厚手で、使い込まれている。

新品じゃない。

数字の書かれたタグ。

管理されている。

触れた指先に、乾いた繊維のざらつきが残る。


箱の上から、静かに被せる。


布が、ふわりと膨らむ。

中に何かがいるみたいに。


次の瞬間、布は何事もなかったかのように

重力に引かれ、落ちる。


「後処理」


リラが言う。


「回収するためには、これがいる」


「そうしないと、触れない」


僕は頷いた。


「完全に暴走してた」

「回収屋は、暴走した魔道具には近づかない」

「危険だから」


「建物の中は、条件が揃いすぎてた」


僕は振り返らずに言った。


「閉じた空間」

「反射する壁」

「温度が一定に保たれる」


「外に出せば、条件が変わって、暴走が止まる事に賭けた」


リラは、少し考えてから頷いた。


通りを歩くと、向こうからギルドの人間が来た。

視線が一瞬、僕に向く。


何も言わず、通り過ぎる。


それで十分だった。


「アヤセ」


リラが言う。


「今のやり方」


「うん」


「回収屋っぽくない」


「原因を見てるから?」


「そう」


彼女は前を向いたまま言う。


「回収屋は、原因を考えない」


「考えると?」


「戻ってこなくなる人が増える」


僕は、少し笑った。


「それは……向いてないな」


「知ってる」


即答だった。


「街の中は、まだいい」


リラは、少しだけ声を落とした。


「本当に戻らなくなるのは――外」


「……遺跡か」


彼女は、頷いた。


「だから、あそこが“本番”」


並んで歩く。

昨日より、少し距離がある。


でも、まだ一緒だ。


それが、今の状態だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ