第15話 置き場所がない
仕事は、途切れなかった。
翌日も、その次の日も。
リラのところに、細々とした依頼が回ってくる。
壊れかけの扉。
止まりかけの水車。
動きがおかしい照明具。
どれも大した仕事じゃない。
誰でも直せる。
ただし、面倒で、時間がかかる。
僕が触れば、早い。
早いから、嫌われる。
早いと、次を期待される。
次を期待されると、責任が増える。
街は、そういう流れを嫌う。
「……これ、根本から直さないと」
僕が言うと、返ってくる言葉はいつも同じだった。
「そこまでしなくていい」
「今は動いてる」
「また壊れたら呼ぶ」
直す。
動く。
終わり。
原因は触らない。
先の話はしない。
それで、街は回っている。
昼過ぎ、路地で作業をしていると、背中に視線を感じた。
数は多くない。
でも、昨日より確実に増えている。
布を羽織っても、格好は浮いたままだ。
縫い目も素材も、ここにはない。
同じ道を通れば、街は覚える。
あいつだ、と。
「アヤセ」
リラが声をかけてきた。
「今日は、これで終わり」
「まだ日がある」
「これ以上は、やらない方がいい」
彼女はそう言って、周囲を見た。
視線の集まり方を、確かめるように。
僕は黙って頷いた。
ギルドに戻ると、掲示板の前で足を止められた。
受付の男だ。
「アヤセ」
名前の呼び方が、少しだけ変わっていた。
「割り振りを変える」
「どう変える」
「単発だけだ」
それ以上は言わない。
便利ではある。
だが、任せにくい。
それで十分だった。
「リラ」
男は彼女を見る。
「お前は、いつも通りだ」
「……分かってます」
彼女は頷いた。
声は低く、短い。
僕は何も言わなかった。
言えば、余計な空気が増える。
ギルドを出ると、空が広かった。
街は今日も穏やかだ。
壊れない。
変わらない。
僕の中だけが、静かに軋んでいる。
「……なるほど」
思ったより、声は落ち着いていた。
「便利な部品扱い、か」
「それ以下かも」
リラが言う。
「部品には、置き場がある」
確かに。
棚があって、番号があって、管理される。
僕には、それがない。
しばらく歩いてから、リラが足を止めた。
「アヤセ」
「……うん」
「言いたいことは分かる」
彼女は正面から僕を見る。
「でも、この街では」
一拍。
「先の話をする人は、嫌われる」
「悪いことか?」
「面倒」
即答だった。
僕は空を見上げた。
面倒。
置きにくい。
その二つは、よく似ている。
「……残るなら、黙るしかない」
リラが言った。
「残らないなら?」
「もっと、嫌われる」
選択肢は、二つしかない。
黙って使われるか。
考えて、距離を置かれるか。
僕は、笑ってしまった。
「分かりやすいな」
「何が?」
「どっちも正解じゃない」
リラは何も言わなかった。
その沈黙が、今の答えだった。
僕は歩き出す。
リラは、少し遅れてついてきた。
並んでいるのに、
昨日より距離がある気がした。




