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第11話 値踏み

門をくぐった瞬間、空気が変わった。


音が、近い。

人の声。足音。金属の擦れる音。

森の中とは違う――人が作った雑音だ。


「アヤセ」


リラが、歩きながら小さく呼ぶ。


「入ったら、私の後ろ」


「了解」


言われたとおり、半歩下がる。


通りは狭い。

石畳の上を、荷車がゆっくり進んでいる。

露店らしきものも見えるが、活気というよりは実務的だ。


人の視線を感じる。


好奇のそれじゃない。

値踏みだ。


「……視線、来てるな」


「来るよ」


リラは気にした様子もない。


「外から来た人は、だいたいこう」


「回収屋でも?」


「回収屋だから、かな」


またその言い方だ。


通りを進むと、鎧姿の兵士が二人、道を塞ぐように立っていた。


「止まれ」


短い声。


リラが、すっと前に出る。


「通行証」


彼女は腰の袋から、木札を取り出した。

兵士が受け取り、目を通す。


その視線が、僕に向いた。

視線は顔より先に、ブーツに落ちた。

金属の留め具。異様に硬い靴底。

武器じゃなくても、警戒される理由になる。


「……そっちは?」


「同行者」


「名前は?」


リラが一瞬、こちらを見る。


「アヤセ」


兵士は眉をひそめた。


「それが名前か?」


「そう呼んでる」


間違ってはいない。


兵士は、僕をじっと見た。


服装。

装備。


明らかに、この街の人間じゃない。


「仕事は?」


リラが答える前に、僕が口を開きかけて――

彼女の肘が、軽く当たった。


合図だ。


黙れ。


「回収の補助」


リラが言う。


兵士の目が、わずかに細くなる。


「外の仕事か」


「……外の仕事」


その言い換えが、妙に重く響いた。


兵士は、木札を返す。


「長居するな」


「分かってる」


通してはくれたが、

歓迎されたわけじゃない


歩き出してから、僕は小さく息を吐いた。


「……あれ、正解だったのか?」


「うん」


リラは頷く。


「遺跡って言ったら、もっと面倒だった」


「どう面倒に?」


「関わりたくない人と、

関わりたい人が、同時に寄ってくる」


なるほど。


街の論理だ。


「この街ではね」


リラが続ける。


「“役に立つ”より、“面倒じゃない”方が大事」


それは、理解できる。


理解できるが――


「効率は悪いな」


思わず、そう言っていた。


リラが、ちらりとこちらを見る。


「だから、目立たないでって言ったでしょ」


「……努力する」


通りの奥で、誰かが口論している。

別の角では、露店の主人が値段を巡って客と揉めている。


人が集まれば、摩擦も生まれる。


だが、どれも――

決められた範囲内だ。


逸脱しない。

越えない。


「アヤセ」


リラが言った。


「ここでは、“考えすぎる人”は嫌われる」


「……どうして?」


「余計なことを言い出すから」


胸の奥が、少しだけざわついた。


「じゃあ、考えない人は?」


「使いやすい」


即答だった。


僕は、街を見回す。


秩序。

役割。

守られた日常。


確かに、壊れにくい。


でも――


「……なるほど」


小さく、呟く。


この街では、

正しいかどうかより、

波風を立てないかどうかが基準だ。


それは、生き延びるための選択。


同時に、

何かを切り捨てた結果でもある。


リラが、足を止めた。


「今日は、ここまで」


指さした先に、小さな建物がある。


宿だろう。


「アヤセ」


彼女は振り返る。


「ここでは、私が話す」


「分かってる」


「勝手に考えない」


「……それは、無理だな」


一瞬、睨まれて――

すぐに、ため息に変わった。


「じゃあ、せめて黙って考えて」


「努力する」


また同じ答えだ。


リラは、扉に手をかける。


その背中を見ながら、僕は思う。


この街は、

遺跡より安全だ。


でも――

別の意味で、危険だ。


考える人間にとっては、特に。

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