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第10話 街が見えた

森が、唐突に終わった。


木々の隙間が開け、視界の向こうに――

人の手で作られたものが見えた。


「……あれが、街」


リラが言う。


思わず、足を止めた。


石の壁だ。

高くはないが、厚みがある。

森との境界に、はっきりと線を引いている。


防壁。


中世的、と言えばそれまでだが、

雑に作られた感じはない。


「ちゃんと、守る気で作ってるな」


無意識に、そんな感想が出た。


「外は危ないからね」


リラは当然のように言う。


外――壁の外、森のことだ。

遺跡の“外側”とは、意味が違う。

でも、どちらも「油断するな」という点では同じだった。


「入る前に、少しだけ」


リラが立ち止まった。


振り返り、僕を見る。


「街の中では、遺跡の話はしないで」


「……どうして?」


「嫌われる」


即答だった。


「回収屋でも?」


「回収屋だから、かな」


言い方に、微妙な含みがある。


「遺跡はね、

 “役に立つもの”でもあるけど……

 “関わると不幸になるもの”でもある」


僕は、壁の向こうを見た。


屋根が並んでいる。

煙が、いくつも立ち上っている。


普通の街だ。

少なくとも、外見は。


「……技術は?」


思わず、聞いていた。


「何が?」


「遺跡の中にあった装置とか。

 ああいうの、使えば便利だろ」


リラは、少し困った顔をした。


「使える人がいない」


「……え?」


「正確には、“使おうとする人がいない”」


僕は、眉をひそめた。


意味が、すぐには噛み合わない。


「危ないから?」


「危ないから」


それだけなら、理解できる。


「あと……」


彼女は、言葉を選ぶように続けた。


「考えなくちゃいけないから」


考える。


その言葉に、胸の奥が少しざわつく。


「この街ではね」


リラは言った。


「決まったやり方で、

決まったことをやるのが、一番安全なの」


それは、秩序だ。


同時に、停滞でもある。


「新しいやり方は?」


「嫌われる」


また即答。


「間違えたら、責任を取らなきゃいけないから」


なるほど。


僕は、ようやく分かってきた。


街は、

“失敗しないこと”を選んでいる。


成功するかどうかよりも、

失敗しないかどうかを基準に。


それは、生き延びるための知恵だ。


でも――


「……それで、うまく回ってるのか?」


リラは、少しだけ視線を逸らした。


「回ってるよ」


一拍。


「壊れない程度には」


その言葉が、やけに重かった。


門が近づく。


人影が見え始める。


鎧を着た兵士。

商人らしき人間。

荷車。


活気がある。

同時に、どこか張り詰めている。


「アヤセ」


リラが、低い声で言った。


「中では、目立たないで」


「……努力する」


「変なこと、言わないで」


「それは、約束できないな」


一瞬、彼女が呆れた顔をした。


でも、すぐに真剣な表情に戻る。


「本気で言ってる」


「分かってる」


僕は、頷いた。


ここは、森とは違う。


罠が見えない代わりに、

人間のルールがある。


その厄介さは、

遺構とは別種だ。


門をくぐる直前、

僕はもう一度、街を見渡した。


守られた空間。

決められたやり方。

失敗しないための秩序。


そして、その外側に置き去りにされた――

考えること。


「……なるほど」


小さく、呟く。


この街は、

きっと壊れない。


でも、

進まない。


それが、

この世界で生きるということなのかもしれない。


リラが、門をくぐる。


僕も、その後に続いた。


街の人間が僕を見れば、一目で分かるだろう。

縫い目も布も金具も、ここのものと違う。

目立たない努力をしても、異物は異物だ。


――ここから先は、

遺跡とは違う危険が待っている。


そう、直感が告げていた。


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