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記憶を写す力で人助け! ― 白鳥美月と事故の夢③

そして今、屋上の風が三人の間を吹き抜けていた。

進は千絵に向き直った。

「千絵ちゃん、確認させて。ポケットの中、見てもいい?」

千絵は一瞬ためらったが、美月が駆け寄り、有無を言わさず制服のポケットに手を入れる。

そこには、折りたたまれた便箋が入っていた。美月が広げると、夢で見た通りの内容が書かれていた。

進は息を呑んだ。

「……本当に、書いてある」

美月は目を閉じた。

「夢は、間違ってなかった」

進は、千絵の顔を見つめた。

「どうして……命を懸けてまで、静さんを陥れようとしたんだ?」

千絵は、しばらく黙っていた。風が屋上を吹き抜ける。やがて、ぽつりと口を開いた。

「父親に頼まれたの。静さんの家と、うちの家……少し関係があるから」

「関係って?」

「……静さんの親族の会社に、父が世話になってる。だから、逆らえないの」

進は眉をひそめた。

「脅されていたのか?」

「どうでしょう。でも、それだけじゃないんですよ」

千絵は顔を引きつらせて笑った。

「私、自分に取り柄なんてない。妹に似てるってだけで、静さんに可愛がってもらってた。私が誰かに狙われているかのように振舞って、怯えた表情を見せれば、静さんが私のことばかり考えて。静さんが私のために友達とか勉強とか、色々なものを犠牲にしてるのを見てると……気分が良かった。静さんの妹に似てる以外の価値がない自分でも、誰かを動かせるって思えたから」

進も美月も、言葉を失った。

やがて、進は怒りを抑えた静かな声で言った。

「……静さんのことを傷つけたくないから、君のことも君のお父さんのことも、明らかにはしない。謝れともいわない。でも、約束してくれ。今後、静さんには二度と近づかないって」

千絵は頷いた。

「わかりました。……もう、近づきません」

言って、屋上から立ち去る千絵。

「……静さんは、何も知らない。それでいいよな?」

「いいと思う。お疲れ」

美月が進の肩を、ぽんと叩いた。


神社の境内には、夕暮れの光が差し込んでいた。

進、静、美月の三人は並んで社殿の前に立つ。

進が一歩前に出て、福の神に声をかけた。

「福の神様、今週の能力は……」

社殿の奥から、浴衣姿の少女が現れた。福の神は、進の顔を見て、首を横に振った。

「期限は過ぎた。お主には、能力を与えられぬ」

「……了解です」

福の神はそれ以上何も言わず、社殿の奥へと消えていった。

神社からの帰り道、三人は駅前の喫茶店に入った。窓際の席に並んで座り、ホットドリンクを手に「お疲れ様会」が始まった。

「静さんの記憶、念写できなかったな。ごめん」

「いいのよ、今回はもっと優先するべきことがあったんだから」

一日に一人にしか使えない記憶念写の力を、千絵の身の安全を守るために使い続けた結果、静の記憶は見られなかった。妹の行方不明の手がかりは、結局得られなかった。

美月がカップを両手で包みながら、ぽつりと口を開いた。

「昨夜から……鈴本さんが事故に遭う夢、見なくなったの。もう大丈夫だと思う」

静はほっとしたように微笑んだ。

「千絵が助かってよかった。本当にありがとう、進君、美月さん」

進と美月は目を合わせた。

「そういえば千絵ちゃん、あの相模剛男と付き合うことになったらしいぞ」

「野暮だから、角間さんが妹みたいに思っていても、今後は鈴本さんには近づかないようにした方がいい」

静は少し驚いたような顔をしたが、すぐに頷いた。

「……そうね。千絵が選んだなら、見守るだけでいいのかもしれない」

そうは言っても、以前あんなことがあったのだから複雑な気持ちにはなるだろう。

進は剛男に、千絵と剛男は意外に気が合うようだと伝えておいたが、お付き合いにまで至るかは今のところはわからない。

とにかく、静から千絵に近づかないようにすることが、今は必要だった。

進は話を変えようと、少しだけ声を低くして静に問いかけた。

「静さんは……危険な目にあってない? 辛い思いとか、してない?」

静は一瞬だけ目を伏せたが、すぐに顔を上げて微笑んだ。

「特にないわ。私は大丈夫」

だが、進と美月が知っているだけでも、静はこれまで、相模の件をはじめとして暴力沙汰に巻き込まれそうになり、千絵のために自分を後回しにして動き、さらには殺人者という悪意ある噂を次々と流されていた。

千絵の話が本当なら、静に明確な敵意を持って行動している人物が存在する可能性は高い。

進たちが知っている以外にも、静は様々な攻撃を受けて生活しているのかもしれないと、進は考えるようになっていた。

美月は、静の顔を見つめながら、静かに言った。

「角間さんは……悪意に慣れすぎて、何が普通なのかわからなくなってると思う。知り合ったばかりの私が言うことじゃないかもしれないけど……もっと、自分を大切にした方がいい」

静は、少しだけ目を見開いた。そして、ゆっくりと頷いた。

「……ありがとう。そう言ってもらえるの、嬉しいわ。私は三国一の果報者ね」

「それ、いつの時代の言葉だ?」

「小さい頃行った、親戚の叔父さんの結婚式で言ってたの、聞いた気がする」

三人は声をあげて笑った。

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