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透明になる力で人助け! ― 黒見兄妹と川の試練①

午後の陽射しは柔らかく、風は涼やかだった。神社の境内では、若葉が風に揺れ、木漏れ日が石畳に模様を描いている。鳥居の朱が夕陽に染まり、社殿の屋根には金色の光が差していた。

波風進なみかぜ すすむは、角間静かくま しずかと並んで石段を登っていた。制服の袖をまくった進の腕には、うっすらと汗がにじんでいる。静は日傘を差しながら、涼しげな顔で歩いていた。

「進君、今日はどんな能力がもらえるかしらね」

「前回は砂金だったからな……見た目だけで価値はなかったけど、まあ、あれで人助けはできたし」

「でも、福の神様には認めてもらえなかったわね」

「今回はちゃんと認めてもらえるような、もっと強力な能力が欲しいな。できれば、金儲けに直結するやつ」

進の言葉に、静は小さく笑った。

「あなたの目的は一貫しているわね。理想のお嫁さんといちゃいちゃ暮らすための金儲け」

「それが俺の人生の目標だからな」

二人が社殿の前に立つと、奥から浴衣姿の少女が現れた。年頃は進たちと同じくらい。だが、その口調は相変わらず尊大だった。

「よく来たな。福の神である私が、今週も能力を授けてやろう」

進は一歩前に出た。

「今回はどんな力なんだ?」

「五分間だけ、透明になれる力じゃ。姿を消し、誰にも見られずに行動できる」

「透明!? それはすごい!」

進がその場で早速能力を使うと、その姿がふっと消え、静の目の前から完全に見えなくなった。

「進君……見えないけれど、そこにいるのよね?」

「いるいる! すごい、自分から見ても消えてる!」

進の声だけが空間に響いた。静は冷静に検証を始めた。

「光は通しているわね。影ができない。触れることは……」

静が手を伸ばすと、空中で何かに触れた感触があった。

「触れるわ。匂いは……うっすら汗の匂いがするわね」

「おい、それは言わなくていいだろ!」

「身に着けていたものも、持っていたバッグも一緒に透明になっているけれど、今拾ったこの枝は……見えてるわね。後から手に取ったものは透明にならないみたい」

進は五分後、ふっと姿を現した。肩で息をしている。

「疲れた……なんか、とんでもなく疲労感がある」

「連続使用は無理そうね。五分間だけ、しかも一度使うとしばらくは使えない、と」

福の神は腕を組みながら言った。

「この力で人を救え。救ったと認められれば、永遠に授けてやる。だが、救ったことは誰にも知られてはならん。よいな?」

進は頷いた。

「了解。今度こそ、ちゃんと救って、能力を手に入れてみせる」

静は進の横顔を見つめながら、ふと口元に微笑を浮かべた。

「進君、やる気満々ね。今回の力なら他人に姿を見られないし、覆面は不要かしら、仮面のヒーローさん」

「ああ、この力でお金と理想のお嫁さんを手に入れるぞ」

「約束通り、協力するわ」


神社からの帰り道、進と静は夕暮れの坂道を並んで歩いていた。空は茜色に染まり、街路樹の葉が風に揺れている。

「唯一無二のこの能力なら、きっと大金持ちになれる」

「確かに唯一無二ね。SFで見かけるくらいだわ」

興奮気味の進に、静は涼しげな声で応じた。

「光学迷彩ってやつだな。誰にも気付かれないまま近づいて、敵を撃つ」

「前回に比べたら凄い力だけど、意外とお金儲けに使うのは難しい気もするわね」

「誰にも気づかれない暗殺者とか」

「犯罪でお金を稼ぐ男はもてないわよ」

「現代の怪盗はどうだろう」

「怪盗も泥棒、犯罪者よ」

「潜入捜査、スパイ活動は?」

「五分間だけしか透明になれないんだから、その後生きて帰れないわよ」

「確かに、透明になる力でお金を稼ぐ方法は意外と思いつかないな……」

「人知れず何かができるというのが利点の能力だから、活かそうとすると危ない方面になるのよね」

「そうなると、人を救うのも難しいか。人殺しや泥棒を心から望む人がいればいいけど、現代日本のこんな普通の町で、昼間からそんな人いるわけないし」

「いたとしても、殺される人や盗まれる人を不幸にするわよね。あの福の神は、気にしないのかしら」

話しながら歩いていると、二人の通う学校の制服を着た男子高校生が、電柱に「殺し屋募集」と書いた張り紙をしていた。

「まさかこんなにあっさり見つかるなんて……」

「彼は同じクラスの、黒見君ね。話を聞きましょう」


同級生の黒見明人くろみ あきひとに声をかけて、近くの公園で話を聞くことになる。

ベンチに座る明人は痩せ型で、黒縁眼鏡をかけた陰のある青年。制服の袖は少しよれていて、どこか疲れた雰囲気を漂わせていた。

彼の隣には、小学生の妹、晶子あきこがいた。

晶子は兄とは対照的な明るく勝気な雰囲気で、目を輝かせながら言った。

「殺し屋を雇って、お父さんの仇をとるの! それで褒めてもらうんだから!」

進と静は顔を見合わせた。

「黒見君、どういうことなの?」

静が優しく問いかけると、明人はゆっくりと語り始めた。

「父が病気で亡くなったんだ。晶子はその死を受け入れられず、医者のせいだと思い込んでる。復讐すれば、父さんが幽霊になって帰ってきてくれるって信じてるんだ」

「絶対にお父さんの仇をとるの! それで褒めてもらうんだから!」

晶子は力強く言い放った。明人はその頭を優しく撫でた。

「父さんが亡くなった日は、地域のスポーツ大会の日だった。晶子が入賞してメダルをもらったら、手術が終わった父さんが首にかけてくれるって約束してたんだ。晶子、今もメダルを持ってるのか?」

「うん。お父さんが来たら、すぐにかけてもらえるようにって、持ってるよ!」

晶子はポケットから小さな金色のメダルを取り出した。進と静はそれを見つめた。

「お父さんに褒めてもらえるの、楽しみにしてたんだな」

「晶子は運動神経がよくて、よくそんな風に父さんが祝ってくれたんだ。仕事で忙しい人だったけど、晶子が頑張った時は必ずお祝いしてくれていたから……」

「今度も約束したんだもん! お父さんは必ず約束を守ってくれる! 帰ってきてくれないのは、お父さんを苦しめて殺した人がいるから、怒ってるか怖がってるんだもん! だから晶子が藪医者を殺して安心させてあげるんだ!」

晶子はそう言って、公園の遊具に向かって駆け出した。鉄棒にぶら下がり、腕を鍛えるように懸命に動いている。

明人は進と静に頭を下げた。

「こんな話を聞かせてしまってごめん。もともと、晶子のことは僕に原因があるんだ。少し前まで僕は幽霊に会うために、色んな試行錯誤をしてきたから……晶子は悪い影響を受けてしまったんだと思う」

進と静は、明人の中学時代の噂を思い出した。降霊術の実行、心霊スポット探索、霊能力を身に着けるための修行等、オカルトに傾倒し、追究するオカルティスト。そのすべては、幼い頃、妹が生まれた直後に亡くなった母親の霊に会いたい一心からだったという。

「黒見君ともありうものが、お父様の幽霊が現れるとは信じていないのかしら?」

静が尋ねると、明人は苦笑した。

「あれだけ色々やって死んだ母さんに会えなかったんだから、いないんだろうね。僕が母さんにすごく嫌われていて、会いたくないと思われてるのかもしれないけど、それは考えたくないかな……」

彼はふと顔を上げ、遊具で懸命に動く晶子を見つめた。

「晶子もあの時の僕と同じ気持ちなのかもしれない。父さんに会えないのは、自分が駄目だからだって思ってしまっていて、それであんなに……」

進と静は視線を合わせて、頷いた。

「ちょっと俺たち二人で晶子ちゃんと遊んでくるから、そこで待っていてくれ」

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