失せ物探しの力で人助け! ― 閉ざされた病棟と姉妹の真実③
帰り道、三人は公園に立ち寄った。ベンチに腰を下ろすと、冷たい風が木々を揺らし、落ち葉が舞い散る。
進が口を開いた。
「静さん、これまで周囲で亡くなった人たちは、どれくらいいる?」
静は少し考え、淡々と答える。
「親戚や親戚の子や、小さい頃の友人で、十五人くらいだと思うわ」
「そのうち子供は?」
「小学校の頃は毎年誰かしら亡くなっていたから……十人くらいかしら」
進は眉をひそめた。
「多い気がする。俺は同年代の親戚や同級生で死んだ人間はまだいない」
美月が静かに言葉を継ぐ。
「花ちゃんが静を突き落とした時に言ったことが事実なら……花ちゃんが日常的に人を殺し、それを静の両親が隠蔽し続けていたか、花ちゃんが大人の意を受けて人を殺していたのかもしれない」
静は俯き、声を震わせた。
「両親に愛着は無いけれど、自分がそういう人たちの子供なのだとしたら、ショックね」
進は首を振った。
「結局は俺たちの推測でしかないし、何もかも勘違いかもしれない。静さんの周囲では、俺たちの周囲より、たまたまたくさんの同年代の子供たちが亡くなっているだけかもしれない。花ちゃんはたまたま機嫌が悪くて、静さんに適当なことを言って川から突き落として、自分もその後川に落ちて行方不明なのかもしれない。むしろそう考える方が自然だと思う」
美月は真剣な眼差しで静を見つめた。
「静は真面目で正義感が強くて、家族の罪まで自分の罪と思ってしまうだろうから、この件はもう終わりにしていいと思う。これからは進氏のサイコメトリーでお宝を探すことに集中しよう」
しかし静は、強い眼差しで二人を見つめた。
「私は、真実を知りたいわ」
「静さんは何も悪くないんだから、静さんが花ちゃんやご両親のやったことの責任を取る必要はない」
「二人とも、心配してくれてありがとう。けれど、私はそんな立派な人間じゃないわ。正義感とか責任とかじゃなくて、自分のために知りたいの。自分が悪い人間で、劣った人間で、だから周囲や家族から殺されるほどに嫌われていたのではなくて……自分以外がおかしかったなら……それなら安心できるから……。どうしようもない理由でしょう?」
自嘲気味に笑う静の手を握り、美月は静かに言った。
「静の気持ちは分かった。でも、過去の静の周辺での人の死に静の家族が関わっていたか調べるのは、極めて難しいと思う」
「昔のことだと証拠も残っていないだろうし、本人に聞いて答えてくれればいいけれど、そんなわけないものね……」
進は考え込み、やがて顔を上げた。
「いや、本人に聞いてみよう」
「わざわざ自分の犯罪行為を話す人がいるわけないでしょう」
「ご両親はそうだろう。でも、花ちゃんは、もし自分のしたことを犯罪と思っていなければ、話してくれるんじゃないか?」
静は驚き、目を見開いた。
「どういうこと……?」
「不思議に思ったんだ。静さんのお母さんのハンカチを失せ物探しの力で探す時、俺は写真でお母さんが手に持っていた紫色のハンカチをイメージした。けれど、あの時、静さんのお父さんが持ってきたのは、桃色のハンカチだった」
静は眉を寄せる。
「それは……そちらがお母様のハンカチで、写真を撮った時はたまたまお互いのハンカチを交換して持っていたからじゃあないの?」
進は首を振った。
「それについてはそうなんだろう。お父さんは静さんが言っていたように、霊媒師を呼ばれて騒がれるのが嫌だったから、お母さんのハンカチを手元で隠していて、あの煙を見て慌ててハンカチを出してきたのかもしれない。俺たちが煙を追いかけると困るから」
「どうして困るのよ」
「あの煙が向かっていたのは、お父さんの持っていた桃色のハンカチの方ではなく、俺のイメージした紫色のハンカチのある方で、追いかけたその先にはハンカチとその持ち主の花ちゃんがいるから」
静は蒼白な顔で首を振った。
「そんなまさか……」
「もう一度、失せ物探しをしてもいいかな? 幸い、今日はあと一回使えるし」
静は強く頷いた。
「わかったわ。お願い」
進が紫色のハンカチをイメージすると、立ち上った煙は角間家とは全く違う方向へと流れていった。三人はその煙を追い、足を速める。
やがて辿り着いたのは、遠瀬病院の閉鎖病棟だった。
美月が呟く。
「ここは……閉鎖病棟。自分や他人を傷つける可能性のある精神病の患者さんが入院する、厳重に施錠された病棟。患者さん本人や、周囲を守るために」
夕暮れ時の遠瀬病院の閉鎖病棟は、鉄格子の窓と厚い扉に囲まれ、外界から切り離されたような静けさを漂わせていた。
冷たい風が吹き抜け、三人の影を長く伸ばす。
静は立ち尽くし、声を震わせた。
「妹は……花は、この中で生きているということ? 遠瀬病院にいるということは、叔父様も、お父様も知っていて、それでも行方不明だと言い続けているの?」
進は低く答えた。
「そういうことだろうな……」
「周囲を守るための病棟……花はやっぱり人を殺していて、お父様やお母様はそれを止めるために……?」
「そればかりは、本人に聞かないとわからないだろう」
「でも、ここからどうやって花に会えば……」
美月が冷静に答える。
「閉鎖病棟でも、家族は面会できる」
「確かに私は家族だけれど、高校生が入る手続きをできるものなのかしら」
進は思い出すように言った。
「静さんのお母さんは、花ちゃんを探すために霊媒師を呼ぼうとして、お父さんはそれをやめさせようとしていた。お母さんは……花ちゃんがここにいるのを知らないんじゃないかな」
静は目を見開き、言葉を失った。
冷たい風が頬を撫で、病棟の窓の奥に潜む何かが呼んでいる気がした。




