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嘘を見抜く力で人助け! ― 遠瀬先輩と家族の秘密②

角間家は、格式ある門構えの邸宅だった。進は緊張しながら玄関をくぐり、静に連れられて応接間の前を通り過ぎる。

その時、中から声が聞こえた。

「静との婚約を解消してください。僕は角間家の血を引いていない養子です。静とは結婚できません」

落ち着いていてよく通る、どこかで聞いたことのある声に、進は思わず足を止めた。

応接間の障子越しに見えるのは、遠瀬誠一郎とおせ せいいちろう。進たちと同じ高校に通う三年生で、静同様にすべてにおいて優秀と評される人物だった。制服の着こなしは端正で、話し方も丁寧。生徒会の副会長を務め、女子生徒からの人気も高く、「完璧な先輩」として知られている。

静が小さくため息をついた。

「……彼は、遠瀬先輩は、私の従兄で、親同士が決めた婚約者でもあるの」

「親の決めた婚約者って、今の時代にそんなのあるのかよ」

「私の父親は会社を経営していて、誠一郎さんの父親も病院を経営していて……経営層は一族で固めて、絶対に別の家を関わらせたくないんですって。血縁は裏切らないというのを信じているらしいわ」

「そういうものなのか……。婚約者ということは、静さんは高校を卒業したら、遠瀬先輩と結婚するのか?」

「親が決めたことで、仲良くしなさいと言われているからそうしているだけよ。私は卒業したら絶対に家を出て、自分の好きな人と結婚するんだから」

応接間では、静の両親と叔父の遠瀬信二、そして誠一郎が話していた。

「誠一郎君、君が角間の血を引いていないなんて、どうしてそんなことを……」と静の父。

「調べたんです。戸籍を。僕は父さんの養子であって、実の子ではない。だから、静との婚約は不適切だと思って……」と誠一郎。

「信二、本当なのか?」

「そうだ。誠一郎は、七年前に私が引き取った子だ。それまで縁はなかった」と信二が言った。

進はそっと静の袖を引いた。

「静さん、今の話……信二さんの言葉、嘘が混じってる」

静が頷き、応接間の扉を勢いよく開けた。

「話は聞かせてもらったわ! 今の言葉、偽りよ!」

美月が一歩前に出て、水晶玉を取り出し、その上で手を動かす。

「私には見える……あなたたちの言葉が嘘か本当か」

応接間が静まりかえり、しばらくして誠一郎がようやく口を開いた。

「静と……あなた、白鳥美月さん? 予言で有名な……」

信二が続いた。

「誠一郎の学校に、将来の出来事を言い当てる変わった娘さんがいるとは聞いていたが……」

「確かに、そんな噂はあったが、まさか……」

静の両親も唖然としている、その目の前で、美月はぺこりと頭を下げた。

「はい、私がその予言で知られた、占い師の白鳥美月です。こちらは助手の波風進君。私の力が本当かは、今日これからわかります。とりあえず、さっきの遠瀬先輩のお父さん……静の叔父さんの言葉は嘘だった」

「占い師だなんて、馬鹿馬鹿しい! 誠一郎とは七年前まで一切縁はなかったと言っている!」

静は一歩前に出て、信二に向き直った。

「叔父様、美月の占いは当たります。それに、先ほど誠一郎さんを引き取ったのは七年前と仰いましたよね?」

「……ああ、そうだ。誠一郎は、七年前に私が迎えた子だ」

「でも私、それよりずっと前に、叔父様と誠一郎さんが仲良く公園を歩いているのを見かけたことがあります。あれは、どういうことかしら? 叔父様は当時結婚したばかりで、てっきり叔母様との間にずっと前から子供がいたのかと思っていたのだけれど、今になって叔母様に咎められて、誠一郎さんを捨てたくなったのかしら」

信二はしばらく黙っていたが、やがて深く息を吐いた。

「妻は……英子は知っているし、納得している。ああ、誠一郎は私の子だ。七年前の事故で誠一郎の実の母親が亡くなり、誠一郎は記憶を失くしてしまって、その時に引き取った」

誠一郎が目を見開いた。

「七年前の事故……確かに僕はそれより前の記憶はほとんどないけれど、事故の前は本当のお母さんと住んでいたの?」

「……ああ。私もよく二人の住まいに行った。お前は大好きだった人との、大切な、可愛い子供だ」

「嘘だ! 大好きな人なら結婚すればよかったじゃないか! 僕らを邪魔に思ってたんだ!」

進が頷く。美月が静かに言う。

「大好きな人との大切な子供って、叔父さん本心で言ってた」

誠一郎は顔を背けた。

「そんな……馬鹿馬鹿しい! 大人の汚い話なんか、これ以上聞きたくない!」

「嘘。ちゃんと聞いて、信じられるなら信じたいって思ってる」

信二は目を伏せた。

「当時の私は家のしがらみから、誠一郎の実の母親とは結婚できず、認知もできなかった。できるものならしたかった」

進が頷く。美月が言う。

「今のは本当」

誠一郎の声が震える。

「どうして今まで黙っていたんだよ!」

「お前の記憶が自然に戻るまで、待つべきだと思ったんだ」

「母さんは、本当に知っているの? 僕が、父さんと、父さんが大好きだった人との子供だって」

「本当に知っている。英子もお前のことを可愛く思っている」

誠一郎は拳を握りしめた。

「最低だよ。前からお父さんの軽薄でだらしないところ、軽蔑していた」

進が小さく首を振る。美月が言う。

「今のは嘘。遠瀬先輩はお父さんのこと、前からは軽蔑していない」

「……今は軽蔑してる! こんなことするなんて、人としてあり得ない!」

「嘘。お父さんのことだから、相当な事情があったんだと思ってる。でも衝撃的過ぎて、育てのお母さんにも申し訳なくて、どうしたらいいかわからずにいる」

信二は、静かに語り始めた。

「お前のお母さんとは、愛し合っていた。英子の実家の病院を継いで、経営を立て直す役割が終わったら、一緒に暮らす約束だった。……あの事故があって……」

「どんな事故だったの……?」

「お前が思い出すまでは言えない。だが、わかってくれ。私にとって誠一郎、お前はただ一人の可愛い息子で、心から愛した人の忘れ形見なんだ」

進は頷き、美月が最後に言った。

「今のも……本当」

誠一郎はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと顔を上げた。

「……信じるよ。信じたい。父さん。僕は、父さんのことをずっと目標にしてきた。医師として、人として。だからこそ、血が繋がっていないと思った時、全部が崩れた気がした」

信二は静かに頷いた。

「お前がそう思うのも、無理はない。だが、お前は間違いなく私の子供だし、私はお前を誇りに思っている。お前が私を目標にしてくれていることは、本当に嬉しいよ」

信二が立ち上がり、誠一郎の肩に手を置いた。

「これからは、親子として、ちゃんと話そう。過去のことも、未来のことも」

「……うん。父さん」

「もう言わなくていいかもしれないけど、二人とも今言ったことは本当だった」

美月の言葉に、誠一郎はゆっくりと顔を上げた。

「ありがとう。白鳥さんと……波風君。君たちがいなかったら、僕は父さんと向き合えなかった。不思議な力だね、本当に嘘か本当か、言い当てられていたよ」

静は、進と美月の間に立ち、微笑んだ。

「進君、美月さん……本当にありがとう。あなたたちがいなければ、この部屋の空気はずっと凍ったままだったわ」

進は照れくさそうに頭をかきつつ、静の両親からの胡散臭いものを見る目に気づいた。

「波風君は、静のご学友? 占いがご趣味のようだけど、静とはどんな関係なのかしら?」

「ええと、静さん、いえ、角間さんには、成績があまりよくなくて相談したら勉強を教えていただけることになりまして……」

静の母親の眉が吊り上がり、警戒の度合いが更に上がったことがわかる。

「関係性としては、角間さんのお友達の白鳥さんの助手なので、顔見知りと言った程度です!」

「そうは言っても、勉強を教えたくなる程度には関係があるわね。今日は勉強どころじゃなくなっちゃったけど……招いておいてごめんなさい」

「あ、いや、じゃあこれで」

進と美月は改めて挨拶だけして、角間家を後にした。

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