嘘を見抜く力で人助け! ― 遠瀬先輩と家族の秘密①
その日の放課後も、波風進は、コンビニの袋を手に、石段を登っていた。隣には角間静、そして少し後ろに白鳥美月がいる。
「……団子と缶コーヒー、また持ってきたの?」
美月が呆れたように言うと、進は笑って袋を掲げた。
「前回の記憶念写はすごい力だったし、ちょっとは効果あったと思ってさ。神様も、機嫌が良ければいい能力くれるかもって」
「神様に賄賂って、どうなのよ……と思ったけど、お供え物やお賽銭って、つまりそういうことよね。でも、賄賂の効果があるなら、意外と今風のお菓子の方がいいんじゃないかしら」
「どうして? 福の神様は和服だし、贅沢品といったら和菓子じゃないのか?」
「ちょっと気になるのよね。あの福の神様、スマホのこと知ってたし、『五分』って時間の単位も普通に使ってた。もしかして、最近亡くなった人が神様になったんじゃないかしら」
「え、そんなことあるの?」
「神道では、亡くなった人が神格化されることもあるのよ。特に、地域の人に強く思われていたり、何か未練があったりすると」
進は社殿を見上げた。夕陽に照らされた屋根が、金色に輝いている。
「……じゃあ、あの神様も、誰かの記憶に残ってる『誰か』なのかもな」
「そう考えると、ちょっと切ないわね」
進は手を合わせた。静と美月も隣でそっと目を閉じる。
「苦労せずに金を稼いで、理想のお嫁さんといちゃいちゃしたいです。あと、できれば……テストでいい点が取れるように、嘘を見抜く力をください」
美月が首を傾げる。
「嘘を見抜く力? それって、試験に使える?」
進は肩をすくめた。
「うん。選択問題って、書いてあることが嘘か本当かの問題だろ? 少しでもいい点をとって、理想のお嫁さんに好きになってもらえるようにするんだ」
「進君、焦る気持ちはわかるけど、試験でズルをする男は、聡明な女の子にもてないわよ」
「大丈夫、進氏の本音は別にある……気がする」
美月が進を見つめる。進は一瞬だけ黙ったが、すぐに笑って答えた。
「俺の願い事の実現を静さんに手伝ってもらうようになってから、静さんを変な事件に巻き込んでしまっているし、危険な人間が近づいてきた時に、すぐに気付けるといいなと思って」
先日の千絵の件で、静に悪意を向ける人物が、静の身近には存在するようだとわかった。
日頃協力してもらっている静には感謝していたし、何より、静のような人間が裏切られて辛い思いをする姿を見たくないと、進は思っていた。
「うん、理想のお嫁さんを手に入れるために、進氏は静を守る義務がある」
「ありがとう、進君、美月」
静は嬉しそうに笑った。
そのとき、社殿の奥から浴衣姿の少女――福の神が現れた。
「よくぞ参ったな、進。そして静、美月も。今週も能力を授けてやろう」
「今回はどんな能力なんだ?」
「今週授けるのは、嘘を判別する能力じゃ」
進は目を輝かせた。
「やった! 賄賂を用意してよかった!」
福の神が進の掌に指先を触れると、冷たい感覚が脳の奥に流れ込んできた。鋭く冴えわたるような感覚だった。
「言葉を聞けば、それが真か偽か、直感でわかるようになる。ただし、万能ではない。曖昧な言い回しや沈黙には反応せぬ。あくまで言葉に宿る嘘を見抜く力じゃ」
「言葉を聞けば、ということは……紙に書いてある試験問題だと……?」
「効果を発揮せぬ」
「え、そんな、待ってくれ! もう少しサービスを……」
福の神がくるりと背を向け、社殿の奥へと消えていく。
進は手を握りしめ、静と美月と顔を見合わせた。
「嘘を見抜く力、もらえたけど……試験には使えないようだ」
「ま、いいじゃない。さっきも言ったけれど、私のリサーチだと、ズルをする男は聡明な女の子にもてないわよ」
「うん。静に近づく変質者に気付ければ十分」
静と美月は微笑みながら、進の肩を叩いた。
神社を後にしながら、静はふと尋ねた。
「そういえば、今って試験期間よね。進君と美月は勉強は大丈夫? この力を手に入れるためには、試験勉強の時間を捨てて誰かを救わなきゃいけないわけだけれど」
「私は、予知夢で試験問題を見るのが、悪いことをしているようで嫌だったから……胸を張って試験を受けられるように、入院している間に高校の勉強は一通り終わらせた」
「俺は、あまり余裕はないけど……静さんは?」
「私は、試験期間は友達や親戚と勉強会をしていて、今日はその日なのよね。家で親戚のお兄さんに、難しいところを教えてもらう予定なの」
「へえ……じゃあ、俺も混ぜてもらっていい?」
「あなたが? 勉強会に?」
「いや、ほら、今回の能力って、言葉の嘘を見抜けるわけだろ? だったら、うっかり間違ったことを教えてたらすぐにわかるし、効率よく勉強できると思ってさ。それが人を救うこととして福の神に認められたら、一石二鳥だし。もし静さんの身近に変な人がいたら、気付くことができるしさ」
美月が自らの胸をどんと叩いた。
「じゃあ、私も占い師として同行する。進氏が静の家で、ご家族や親戚に向かって突然『お前は嘘をついている』なんて言い出したら、静がやばい男を連れてきた可哀そうなお嬢様になっちゃう。その点私は、同じ学校の生徒やそのご家庭には、予言めいたことをいう変な人として知られてる。進氏が合図をして、私が一流占い師として嘘を指摘する形にしよう」
どこからか小さな水晶玉を取り出して、念じる仕草をする美月に、静はお腹を抱えて笑った。
「どっちにしろ怪しいわよ。でも、ぜひ家に来てちょうだい。試験勉強頑張りましょう」




