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砂金を生み出す力で人助け! ― 鈴本千絵と恐喝事件①

波風進なみかぜ すすむは、ぱっとしない高校二年生だった。成績は平均以下、運動は苦手、友人も少ない。クラスでは空気のような存在で、教師からも特に期待されていない。そんな彼にとって、家族の海外転勤は一つの転機になるはずだった。だが、現実は違った。

「英語の成績が悪いから、日本に残ってなさい」

両親はそう言い残し、妹だけを連れて海外へと旅立った。進はその言葉を「見限られた」と受け取った。十六歳にして、親に諦められた。そんな自分が、これから良い人生を送れるはずがない。そう思った進は、ある決意をした。

「楽して金を稼いで、理想のお嫁さんといちゃいちゃ暮らす」

それが進の目標だった。努力はしたくない。苦労もしたくない。ただ、幸せになりたい。そのために、進は毎日近所の神社に通うようになった。古びた鳥居をくぐり、苔むした石段を登り、誰もいない社殿の前で手を合わせる。

「苦労せずに金を稼いで、理想のお嫁さんといちゃいちゃしたいです」

進は毎日、同じ願いを繰り返した。雨の日も、風の日も、テスト前も、休日も。誰もいない神社に、進だけが通い続けた。

ある日、社殿の奥から、浴衣姿の少女が音もなく現れた。

「よくぞ参った。わしは福の神じゃ。数十年ぶりの参拝客に免じて、願いを叶えてやろう」

年齢は進と同じくらい。だがその口調は妙に偉そうだった。

進は目を丸くした。

「本当か? お金をくれるのか?」

「金をやるのではない。自分で稼ぐのだ。一時的に我が授ける能力を使って人を救えば、その能力を永久に与える。後は力を好きに使って稼ぐがよい」

「やる! やります!」

「ただし、条件がある。我は目立つことを好まぬ。お主が人を救っていることを、他人に知られないまま、密かに救うのだ」

「さすがは神様。人知れず世の中を良くしようという姿勢、素晴らしいです。ぜひ協力させてください」

「調子のいい奴だ」

苦笑しつつ、福の神は進の前に手を差し出した。

「今週授けるのは、砂金を作り出す能力じゃ」

「砂金って……金だよな? やった!」

進が手を差し出すと、福の神は指先で進の掌を軽く叩いた。

「目を閉じて、心を静めよ」

進が言われた通りにすると、掌の中にじんわりとした熱が広がった。目を開けると、そこには小さな金色の粒が浮かんでいた。粒は空中でゆっくりと回転しながら、進の掌に落ちていく。

「うおっ……!」

進は驚きながらも、掌を広げて受け止めた。粒は次々と現れ、手のひらに積もっていく。きらきらと輝く金色の粒。まるで宝石のようだった。

「これが……砂金!」

進は息を呑んだ。掌の上には、砂金の小さな山が乗っていた。光に当たると、粒は淡く輝き、まるで夢のような光景だった。

「これ、いくらくらいになるんだろ。一グラム数万円くらい? ってことは、この一瞬で数十万円の稼ぎか?」

福の神はくすりと笑った。

「価値は人による。だが、見た目は美しい。何も知らない者なら、騙されるかもしれぬな」

「騙すって……いや、助けるんだよな?」

「そうじゃ。人を救うのだ。救ったと認められれば、その能力は永久にお前のものとなる」

進は砂金を見つめた。これがあれば、金に困ることはない。理想のお嫁さんと、いちゃいちゃ暮らす未来が手に入る。そう信じられる。

「よし、誰かを助けるぞ!」

進は砂金をポケットに入れ、神社を後にした。その足取りは軽く、心は希望に満ちていた。


翌日、砂金をどう使えば人を救えるか考えながら下校している途中、校舎裏の物陰から聞こえる怒鳴り声に進は足を止めた。

「金出せよ、チビ。昨日の分、まだだろうが」

声の主は相模剛男さがみ たけお。進と同じ高校の生徒で、粗暴な言動で知られていた。

剛男は、筋肉質な体格に短く刈り込んだ髪、常に眉間に皺を寄せている。

周囲には威張り散らし、弱い者には容赦なく、時に脅して金を巻き上げる。

そんな人物だが、仲間内では「面倒見がいい兄貴分」として慕われており、本人もそれに気をよくしていた。

剛男の前に立っていたのは、肩までの髪を揺らす可憐な下級生、鈴本千絵すずもと ちえだった。

彼女は怯えた様子で、制服の袖をぎゅっと握りしめていた。

「……もう、無理です。お金、ありません……」

千絵の声は震えていた。剛男は彼女の言葉に鼻で笑った。

「お前、あの角間静かくま しずかの妹分だったよな。じゃあ、金の代わりに角間静を連れてこい。あいつが俺の恋人になって、どんな命令にも従うなら許してやるよ」

進は耳を疑った。

剛男の目は本気だった。欲望と支配欲が混ざり合った、ねっとりとした視線。

千絵を通して、学校でも有名な女子生徒の角間静を、自分のものにしようとしている。

「そんな……そんなこと……」

千絵が言葉を詰まらせる。剛男の腕が彼女の肩を掴もうと伸びた。

「やめなさい」

その声は、空気を切り裂くように響いた。

角間静が、剛男の前に立ちはだかっていた。

静は進と同じ高校二年生。長い黒髪は艶やかで、整った顔立ちは雑誌のモデルのように美しく、制服姿もどこか品がある。目元は涼しげで、口元には常に落ち着いた微笑を浮かべている。男子生徒の間では「高嶺の花」として知られ、女子からも一目置かれる存在だった。

だが、彼女の魅力は容姿だけではない。学業・運動・交友関係すべてにおいて人並み以上で、教師からの信頼も厚い。家は裕福なようで、育ちの良さを感じさせる所作が自然に身についている。誰に対しても礼儀正しく、冷静で、感情を乱すことは滅多にない。

そんな静が、今、千絵の前に立っていた。

「千絵に手を出すのは、これで最後にして。あなたのような人間に、この子を傷つける資格はないわ」

剛男は一瞬たじろいだが、すぐにニヤリと笑った。

「お前が恋人になればいいんだよ。好き勝手にさせてくれたら許してやる。俺、優しいだろ?」

剛男の目は、静の体を舐めるように見ていた。欲望を隠すことなく、堂々と口にするその姿は、気持ち悪さを通り越して、恐怖すら感じさせた。

静は一歩も引かなかった。

「あなたの恋人になることはないし、好き勝手にもさせない」

「じゃあ、千絵はどうなるか分かってんのか?」

静は千絵の肩に手を置いた。

「私が守る。あなたのような卑劣な人間に、屈するつもりはない」

その凛とした姿に、進は思わず見惚れた。彼女の美しさは知っていたが、その強くまっすぐな心根に触れたは初めてだった。

だが、剛男は笑いながらポケットからスマホを取り出した。

「いつも千絵に付きっ切りというわけにはいかないだろ? お前がいない時に千絵ちゃんお色気撮影会を開催すれば、警察にも言えなくなるかな」

「あなたという人は……!」

「これまで金だけで許していた俺に感謝してほしい。お前が自分から俺のものになろうと決意するまで、我慢してたんだ」

剛男が静の体に手を伸ばす。

その瞬間、進はポケットの中の砂金を握りしめた。顔を見られないよう、事前に用意していた目出し帽をかぶる。

「待て!」

進は物陰から飛び出した。

「その子に近づくな。代わりにこれをやる」

進は手のひらに乗せた砂金の小山を剛男に差し出した。

「これ、一グラム数万円の価値がある。全部で十グラムはあるから、数十万円だ。もう千絵に手を出すな」

剛男は目を見開いた。金色に輝く粒に、欲望が燃え上がる。

「マジかよ……これ、本物か?」

「ああ、本物の砂金だ。間違いないぞ。ちゃんと金色に光っているだろう」

剛男は砂金を受け取り、ニヤニヤと笑いながら去っていった。

静は進の姿を見て、目を細めた。

「……ありがとう。誰かが来てくれるとは思わなかった」

進は正体がばれないように目出し帽をかぶったまま、照れくさそうに笑った。

「気にしないでくれ。俺は正体不明の仮面ヒーローに憧れていて、ちょうどヒーローごっこの最中だったんだ。ついでだよ」

静はその言葉に、少しだけ笑った。

「ついででも、助けてくれたことには変わりないわ。ありがとう。あの、お金のことだけど……」

「あの砂金はさっき拾ったやつだから、大自然の恵みに感謝しよう」

「あなたみたいな人がいてくれて、救われる気持ちよ。本当にありがとう、同じクラスの波風君……でよかったかしら」

お礼を言われて、進は少しだけ胸を張った。

「助けられたならよかった。でも俺は、波風君じゃなくて正体不明の仮面ヒーローだから。じゃあ、ヒーローごっこの続きがあるから、俺はこれで」

進は駆け出す。

思いのほか早く人を救うことができたと、福の神への報告を楽しみに神社へ向かった。

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