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33 望まぬ情報

 とある日の朝。

 一人で事務所に出勤した林原は、二階のリビングに入るなり立ち止まった。


 それは、応接セットに座っている金髪碧眼でワンピースを着た白人少女と、彼女に紅茶のオカワリを注いでいるジーンズで上下をキメたショートカットで筋肉質の女性、壁に寄り掛かっている白髪が混じった50代後半の男性の合計三人に、いきなり睨まれたからだ。


「は、は、はじめまして。捜査一課第九班警部補の林原美佐緒と言います」


 事務所に居た彼女等の事は賀茂から聞いていて、今日は警視庁で合流せずに直接事務所に行くようにと言われていたが、正直言ってたじろいだ。


「林原警部補でしたか?話は聞いています」


 初老の男性が携帯の写真と林原を見比べて返事をし、一瞬で空気が和んだ。


「私は長谷川雄一、一応は貴女の上司になります。驚かせて済みませんね、打ち合わせの最中だったもので」

「お邪魔して申し訳ありませんでした。今日はよろしくお願いします。あのぉ~、ところで賀茂さんは遅れると聞いていますが、研修生のライナスさんも遅れてるんですか?」

「・・・・・」


 一度は和んだ空気が、また張りつめた。


「賀茂さんは、その【ライナス・マクビー】の件で遅れているんですよ。まだ確定でないので御話しできませんが」


 ソファの女性陣は視線を伏せて御茶をつづけ、警部である長谷川が説明を続けた。

 彼の立ち位置は林原と同じく部外者との対応の様だ。

 

「今の『打ち合わせ』と言うのもライナスさんの件なのですか?」

「いや、これは・・・」


 長谷川が話している間に、金髪少女が手をあげて言葉を遮った。


「その()も関係者なのでしょ?ならば、さっきのを聞かせてやっても良いんじゃない?」


 長谷川が閉口して、嫌そうな顔をしたが、金髪少女は無視するようだ。


「自己紹介がマダだったわね?私がココの責任者であるシシス・メリスよ。じゃあ、説明会をやり直したいましょうか」

「林原さん、壁にもたれていた方が良いですよ」


 シシスの、林原を無理矢理に巻き込む行動に、見かねた長谷川がアドバイスを告げた。

 林原はコレまでの経験から、同じ立場の長谷川の指示に素直に従った方が良いと判断し、ドア近くの壁に背中をあずける。


「(シシスって名前は、何処かで聞いた様な・・)ひっ?」


 林原は思わず声をあげた。

 それは彼女の体が、いきなり空中に立っていたからだ。


 いや、足の下には床の感覚が有り、背中と手には壁の感覚がある。


「こ、これは立体映像みたいなものかしら?」


 彼女は賀茂達の能力に【認識干渉】が有るのを思い出し、全身に込めていた力を抜いた。

 現代技術でのバーチャルリアリティではなく、脳の中に直接イメージを送り込まれていて、身体は現実の事務所にある筈なので、下手に動くと壁にぶつかったり、机や椅子で怪我をする事になる。

 場数をこなしている林原は、直ぐに情報の整理を始めた。


「(映像の時間は昼くらいの晴天で少し雲も見える。あれは羽田空港?富士山も見えるわ)」


 視点は航空機くらいの高さだろうか?

 足元には東京湾があり、富士山まで見通せる千葉県くらいの位置だ。

 周りには、長谷川やシシス達の姿も見える。

 長谷川が、早々に落ち着いた林原を見て感心している様が見える。


ピカッ


 突然、空が光って視界を塞いだ。

 時間差で雷鳴がとどろき、『雷?』と思って見上げた空には、白い蜃気楼の様な巨大な何かが空一面に見えては消えた。


「何っ?」


 声をあげた林原の視界に、その何かは再び姿を現し、更には巨大な岩の壁が正面目前に現れる。


ゴゴゴゴ


 水平線方向から地鳴りが響き、富士山が黒煙とオレンジ色の噴火を始めた。

 その黒煙と隆起は富士山の周辺にも及び、黒とオレンジ色の壁が横方向に広がっていく。


「富士山だけじゃなく、日本中の火山帯が一斉に噴火?」


 富士山の噴火は以前より言われていたが、この様な広範囲の天変地異は彼女の常識を越えていた。

 まるで日本がそのまま隆起して、壁になっていく様だ。


 見ると、暗雲が立ち込めているのは日本だけではなく、反対のハワイ側にも起きていて、見渡す限りの世界が黒く染まっていく。

 ただ、真上には白く巨大な何かがハッキリと姿を現している。


「何が起こってるの?」

「天国の再来。現し世(うつしよ)隠世(かくりよ)。いや、移された世界と隠された世界が一つに戻り、真なる世界に回帰する未来よ」

「天国?」


 シシスの言葉は、林原には理解できなかった。

 この天変地異が、なぜ【天国】なのか?


 足下を見れば日本付近がすべて隆起し、都心は土砂に飲みこまれ、日本海溝が渓谷の様に姿を変える。

 空の何かと繋がっている岩の壁が地上の隆起と噴火に近付き、ぶつかりそうだ。


 この状況では地上で生き残れる者など居ないだろう。

 地下シェルターも崩壊して生き残れたとしても生き埋めとなる。


 人類滅亡 = 天国行き


 林原が、そう思ったのもしかたがない。


 そんな林原の目には、岩の壁に女性の姿が重なって見え、地上へ向けて手を伸ばして見えた。

 同様に地上の噴火にも女性の姿が重なって見えて、壁の女性に向けて手を上げている。


「山根、長谷川。富士山にお連れした人柱(ひとばしら)。いえ、神柱となったコノハナサクヤヒメ様の、肉体と魂が引合い、本来の姿を取り戻していくのが分かるかしら?」

「はい。この為に魂だけが顕現なされたのですね?」

「どうやって本来の位置に繋げるか疑問だったのですが、納得です」


 山根と呼ばれたショートカットの女性と、長谷川警部は、岩に重なって見えた女性が理解できているようだった。


 林原には、空から落ちてきた何かが、地球に墜落していくイメージしか浮かばない。


 絶望的な状況を見ていると、林原達の視点は天へ昇りはじめ、空の巨大な物体の形が理解できてくる。


「コレが地球?【天国】ってこういう事?」


 それは、地球より一回り大きな卵の殻の様な分厚い地面だった。

 林原の目の前に現れた岩の壁は、その外郭と地球を繋ぐ柱の様な存在だと分かる。


「天にある神々の領域?『天にまします我等の父よ』って、コレの事なの?」


 キリスト教徒が昔から口にした言葉の意味が、今の彼女には理解できる。

 その外郭の内側には明らかに【翼が生えた人間らしき存在】が飛び回っているからだ。


「天使?それとも悪魔?あそこに【神】が居るの?」


 キリスト教で育った林原ならではのイメージだが、ヒンズー教徒ならば飛んでいたのがガルーダやハーピーに見えたかも知れない。


 その、地球の外郭には、所々に大小幾つもの穴が開いていて、淡い太陽光が地球にも届いている。


 彼女達の視界は、更に宇宙へと出ていく。


「あの表面に居るのは、恐竜?」


 遠目でも分かるほど巨大な、獣の様な爬虫類の様な存在が、外郭の宇宙側には見えた。


 現在、地上で最大の動物はにカバや象だが、その体重は6トン未満だ。

 だが、化石として発見される最大の首長竜は全長45m重量が15トン以上と推定されている。


 この様な巨大な生物が、地上で体重を支えて移動できるわけがないと、多くの学者は水中で生活していたと推測している。

 だが、実際には卵でも大気呼吸する大気呼吸生物が、水中で卵を孵化させる事は無い。

 大気呼吸して水中で出産する動物は、イルカや鯨の様な哺乳類だけだ。


 親が水中生活をして、卵は水際で孵化させようとすれば、必ず外敵に狙われるだろう。


 だが、恐竜の本来の生活圏が重力の低い場所であるならば、この問題は全て解決する。

 外郭の穴から落ちた恐竜が、地上で化石になったり、壁沿いに落ちて生き延びても短命に終わり、最後に何とか卵を残したりはできる。


「私達の知っている歴史って何なの?」


 考古学の大半が、推測でしかない。

 タイムマシンの無い我々には、人間の歴史書や古墳すら偽造されたものである事を否定できない。


「人間が滅んで、有史以前の怪物と神々の時代が来ると言うの?私達がやってる事は無意味なの?」


 人類の未来の為に、納得のいかない事を飲み込んできた林原には、絶望しか無かった。


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