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03 同行警察官

 ゲートの先で彼等を待っていたのは凄まじい衝撃波だった。

 だが、二度目の彼等は行く先の状態を探り、障壁の力場を形成していたので何事もなく通り抜けたのだった。


「追っ手は来ませんでしたが、こっちは真っ暗ですね?宇宙にでちゃいましたか?」

「いや、地球の夜側だな。あっちに人間の灯りが見える」


 日数的にも二日は経っているので時間の感覚がおかしかったのも原因みたいだ。

 例え宇宙に出たとしても、空気の有無は彼等には大した事ではない。

 見回せば遥か彼方に光が見える。

 結局は思いの外、無人の地表側にでてしまった様で真っ暗だったのだ。


「ライナス君は、まだ人間の可視光線に頼っているんだな?」

「そう簡単に癖が抜けきれませんよ」


 赤外線視力や魔素粒子の反射を使えば、地上に近い事は一目了然だったのだ。


「しかし、この気候と明るさは日本じゃないな。カナダなどの大陸奥部だろう」

「この植物は中東の方ですね。離れた所に砂漠が広がっています」


 足下の植物と周囲の探索をしたライナスが呟く。


「じゃあ、ここも長居は無用だな。敵側はイスラム教系に多く入り込んでいるらしいし」

「既存の宗教団体を利用して実績をあげ、成り上がって支配力を増すのは定石ですからね」


 権力を持つのに既存の団体を使うのは、別に宗教に限らない。

 能力が有っても、自分で会社を起こして社長として大きくしていくより、他者の作った会社で成り上がって乗っ取る方が早くて容易いからだ。

 もっとも、能力が無ければ使い捨てられるだけだが、彼等の主人達は人間を越えた存在なので問題ない。


「うちのトップはキリスト教の枢機卿で、次期法王ですから他人の事を言えませんけどね。確か賀茂さんも【Japanese father】なんですよね?」

「日本の神社じゃ【神主】って呼んでるよ。【神】の定義がキリスト教とは違うからね。英語だと【Shinto priest】だった筈」


 宗教団体は複数の宗派が有り、賀茂達の勢力だけで占領できている訳ではない。

 だが、表立って内部対立すると、彼等共通の目的に支障があるので水面下の対立しかできないのだ。


「日本へは・・・コッチへ飛んだ方が早いな」

「そうですね。北極側の天候が悪くないといいんですが」


 そう言いながら二人は、日本へ向かって飛び立った。





 東京都内の某駅近く。

 主要道路に面したビル街の一角に、スーツ姿の女性が立っていた。


「部長は、この辺りで待ってろって言ってたけど・・・」


 与えられた地図と顔写真を交互に確認しながら、彼女は呟いていた。

 指定された建物は一階にオカルトショップを構える商業ビルで、二階以上に関する表記は無い。

 彼女はビルの周辺で既に三日もウロウロしていたのだ。

 勿論、食事や休憩は取るし、夜は帰宅している。


「裏口のテープは剥がれていないし、まだ出入りは無いようね」


 ビルの上階へ続くドアにテープを張り、彼女が不在時の出入りチエックに使っているが、変化は無かった。


「本当に、このビルに帰って来るのかしら?いや、これるのかしら?」


 このビルの住人は本来が五人で、その内の四人は長期の出張に出ていると聞いている。


 残り一人の賀茂重蔵が、三日前に来訪者を成田空港に迎えに行き、消息を断ったのだ。


 今回の様な【行方不明】の大半は、事件に巻き込まれて既に死んでいるのが彼女の経験則だった。


「このまま五日も行方不明なら、一旦は署に戻るべきね。でも、とんだ張り込みだわ」


 彼女は上着の内ポケットに入った辞令書に意識をやって回想する。




「林原君、君には特別任務についてもらう。その為の移動だ。捜査一課から外れる訳ではない」

「課長、この【第九班】と言うのは左遷ですか?私が女だから?」


 突然、警視庁刑事部第一課の課長から呼び出され、渡された辞令には名も知らぬ班名が書かれていた。

 増設された第一課の班も七つまでしかなく、当然だが机も存在しない。


 彼女【林原美佐緒】の班は女性刑事が二人居り、どちらかと言えば同僚女刑事の方が人気があった。

 刑事部の各班に女性刑事が配属されているのは女性被疑者への対応の為で、実戦力とは見られていない事も左遷を思わせる要因だ。


 課長は左右に首を振って眉間に皺をよせた。


「林原君。儂にパワハラやセクハラの疑いが掛かる様な発言はやめてくれたまえ。任務の内容はバチカン関係者の監視と同行。だからキリスト教徒である君を指名したのだ。それに知られていないが【第九班】は既に有り、一名が同行しているが、別行動を取る者が居るので増員して欲しいとの要望だ」

「私の両親は教会に通ってはいますが【なんちゃってクリスチャン】ですし、私も洗礼は受けてますが不信心者ですよ。加えて外国語なんて無理です」

「言葉は問題ない。監視対象二名のうち一人は日本人だ。それに、この課で一番キリスト教に詳しいのも確かなんだろ?」

「そりゃあ、確かにソウでしょうが・・・」


 幼い頃から教会に通わされ、聖書を読み聞かされてきた。

 学校もキリスト教系の所だった。


 確かに課長の説明は理にかなってはいるが、パチカンとプロテスタントは同一ではない。

 しかし、それを説いても彼女が最適任者である事は覆りそうになかった。


「なに、悪い事じゃない。彼等の起こした事の後処理をする代わりに、警視総監よりも上の権限が使える」

「つまりは警察権限より上の権力をつかって隠蔽しろと?」


 課長は黙って口角を上げていた。


「一人が海外から来るので、既に別班が迎えに行っている。君は彼等の事務所で引き継いでくれ」


 林原には、何か厄介事の予感しかしなかった。






「予感通り、厄介事で始まったわ。それにしても、この資料は何なの?【賀茂重蔵(かも しげくら)】推定年齢60歳前後って。顔写真が20代の物じゃ使えないかも知れないじゃない」


 ビルの前でスマホを見ていた彼女【林原美佐緒】は、グチっていたのだ。

 歳をとれば髪も抜けて体格も変わる。顔つきも別人になりかねない。

 加えて外国からの来訪者の資料は全く無い。


 そうしながら、ペットボトルの水を飲み干したところで、彼女に声を掛ける者が居た。


「お姉さん、どうかしたの?」

「えっ!あっ、何でもないのよ(いつの間に?)ちょっと待ち合わせしてるの」


 声を掛けてきたのは十歳くらいの少女二人だった。

 職業柄、周りには気を配っていた筈なのだが、林原は二人に全く気がつかなかったのだ。


 一瞬は驚いて少女達を見つめたが、彼女は再びビルの方へと視線を動かした。


「御待たせして申し訳なかったですね。じゃあ、中に入りましょうか」


 少女の声が、途中から男性の声に重なり変わった。

 見れば、少女達の姿はなく、二人の男性がオカルトショップに入ろうとしといる。


「いったい、何が?」


 『来ないのか?』とばかりに振り向く男の顔つきは、資料でもらった【賀茂重蔵】でまちがいなかった。


「ちょっと待って下さい」


 おお急ぎで駆け寄って、彼女はオカルトショップへと入っていった。


「マダム、来客だ」

「みなさん出払ってるよ」

「分かってる」


 賀茂を先頭にカウンターの脇を通って奥のバックヤードへと進むと、そこにはエレベーターがあった。

 三人はエレベーターに乗って上に上がっていく。

 行き先は二階の様だ。


「出払ってるけどコーヒーくらいは出せるよ。取り合えず座って」


 部屋には応接セットと事務机、テレビとコーヒーサーバーが見えた。

 簡易的な給湯室も有る。

 建物の大きさからして、他に部屋もある様だ。


「先ずは自己紹介。日本の宮内庁特務室所属の賀茂重蔵です。この金髪外人さんはイギリスからの研修生でライナス・マクビー君。で、こちらの女性が警視庁刑事部捜査一課の林原(はやしばら)美佐緒(みさお)さん・・・・で、間違いないよね?」


 コーヒーを出しながら、賀茂が林原に目配せをし、彼女が立ち上り敬礼をした。


「林原美佐緒巡査であります。及ばずながら御二人のサポートをさせていただきます」

「まぁ、簡単に言って【監視役】だよ。宮内庁のIDより警察手帳の方が民間受けしやすいんで来てもらってる」

「そうなんだぁ」


 最後にライナスが納得の言葉を発し、林原が頷いた。

 この賀茂の言葉は的を得ていたのだ。

 民間に有力な警察手帳とは逆に、宮内庁のIDは政府関係者に効果がある。

 この二つがあれば、確かに何処にでも出入りが可能だろう。


「でも、本当に小官で大丈夫なのでありましょうか?健康面に不安を感じます。先程も御二人の姿を見間違えた様なのですが?」


 体調や精神に異常を生じた自覚は無いが、先程の見間違いは林原にはショックだった。

 ついでに、この訳も分からぬ任務から抜け出せればとおもったのも確かではある。


「大丈夫ですよ林原さん。少女に見えたのは、見間違いでも錯覚でもなく、我々の【魔法】によるものですから」

「魔法・・・・ですか?」


 林原巡査は、あからさまに顔を歪めた。


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