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24 各々の検証

 ― 賀茂重蔵の検証 ―

「林原さんは、意外と役に立つ人材だな」


 元より、警察絡みになった処置対象の時に、支障なく権限移行するのに現役警官を利用している。

 巡査レベルではなく、中間管理職でもある警部や警部補に昇格させるのも、他の班や部署との交渉をさせる為だ。


 だが、今回は思わぬ収穫を彼女がもたらしてくれた。


「スマートグラスの方が、相手の位置を正確に把握できるとは、本当に盲点だったよ」


 賀茂達は可視光線を歪める【光学迷彩】も使っているが、主に利用しているのは、脳に干渉する【認識阻害】や【認識干渉】だ。

 それは、ある程度はEレベルの変異体も使える。

 だから、処置する時は干渉のしあい、妨害のしあいで位置が掴みにくい事がある。


 だが、スマートグラスは可視光線を使う訳ではないし、脳も無いので認識干渉も通用しない。


「これは、対象を使徒に変更すれば、勢力争いの時にも使えるんじゃないのか?」


 使徒に対しては可能性の問題であり、技術面の問題も有るかも知れない。

 だが、Eレベル処置に対しては賀茂達にも有力だ。


「これは報告と共に、スマートグラスの発注をしとくべきですな」


 今回の様に能力が異常覚醒した個体には、彼等も手子摺るので、効率が上がるのだ。


 必要性が低かったので量産されておらず、このスマートグラスが直ぐに手に入るとは限らない。


「スマートグラスが手に入るまでは、林原さんの眼鏡を借りるか?いや、それでは林原さんが危ないか?では、彼女に位置を特定してもらって、利用すべきか?」


 今回の様に警察が絡む現場では、その場に警官が居た方が都合良いので、彼女を後方待機させるのは避けたい。


 また、他者による目撃を考えれば、彼女が銃で攻撃し賀茂達が威嚇している様な、現在の一般人からの見た目は大変に都合が良いのだ。


「しばらくは現状維持で、林原さんに最前線活躍してもらいましょうか。その後もできれば続けてもらいたいものですが」


 実際に地元担当警察との折衝と現場立ち会いで、二人以上の現役警官が欲しいと、彼は思っていた。

 現在は、賀茂が担当警視監に連絡を入れて根回しをさせているが、事態が複数化した時に手配を任せられる者が欲しいのだ。


「婦警のメリットも有るし、もっと、魅力的な職場にしないといけませんかね?」


 有る意味で中間管理職の彼には、まだまだ仕事がありそうだった。




 ― ライナスの検証 ―

「いやぁ~なかなか苦戦したなぁ」


 ライナスは、今回の雑居ビルでの処置を思い出していた。

 幸いにも怪我や汚染はないが、力はかなり使用した。


「あんなに苦戦した戦闘は、先輩との模擬戦以来だな。消耗はアッチに飛ばされた時には及ばないが・・・」


 模擬戦では、御互いに致命的なほどの力は使わなかったので、集中力はビルでの方が圧倒的に高かったのだ。

 例えるなら、同じ幅の角材をバランス取りながら渡るにしても、体育用の低い平均台と、高所にある一本橋を渡るくらいに精神力の消耗に違いがあった。


「あれが実際の戦闘か!将来は敵対する使徒とも戦うんだろうが、アレ以上なんだろうな」


 彼等の存在目的の一つに、敵対勢力との戦いがある。

 勝ち負けと言うよりは勢力範囲の奪い合いなのだが、使徒である彼等はチェスで言うポーンなのだ。

 現在やっている【処置】の作業は、チェスの後の賞品管理に過ぎない。

 チェスの試合終了時の賞品である果実が育つ過程で、腐ったり質の悪い物を間引きしているのだ。


「賀茂先輩は、林原さんを引き込む気が有るのか無いのか?まぁ確かに、無理矢理引き込んで使い物に成らなくなったら意味無いんだが」


 ライナスは、あくまで外国からの研修生なので、日本における人事に口出しはできないが、ある程度の行動を共にすれば情が沸くというものだ。

 例えソレが下等生物だとしても。




 ― 林原美佐緒の検証 ―

「やっぱり、口径の大きい銃にしといて正解だったわ」


 警察の使う9ミリよりは威力が有ったせいなのか、たまたま今回の相手との相性が良かったのか、今回のモンスターには効果があった様だった。


「初見の時よりは慣れたけど、やはり恐いものは恐いわよね」


 警察官として、特に捜査一課では銃撃戦になる事がある。

 だから、ある程度は慣れないといけないのだが『恐怖心を失うな』とも言われている。

 恐怖心に囚われて動くなくなるのはマズイが、恐怖心を亡くして無謀な行動に出るのは、もっとマズイ結末になるのだ。

 それに加えて、フィクションでしか見たことのない異形の存在を目の前にすれば、誰でも恐怖心が芽生える。


「確かにテレビの影響で、昔の人よりは耐性があるんでしょうけど」


 それまでの日本でも、歌舞伎やナマハゲなどで異形の存在は目にしてきた。

 加えて昭和以降には、神話やSFなどを題材にしたフィクションや合成映像がテレビで放送された為に、慣れが早いと言える。


「賀茂さんも、今まで通りの支援で良いといってくれたし、怪我とかする事はないんでしょうけど」


 『今回の支援は良かったですね』と誉めてくれたが、前回と違うのは銃の威力くらいのもので、その行動に大差は無かった。

 出過ぎず、引き過ぎない行動が、日本社会での処世術ではあるし、責任者の賀茂は日本人なので、この方針で大丈夫だと林原は思っている。


「気掛りなのは、あの【A】と【E】の表示だけど・・・」


 前回の処置中にスマートグラスの表示が交互に変わった事が気になっていた。


「気にならないと言えば嘘になるけど、まだ深みにはまりたくはないのよねぇ」


 彼女は不必要な好奇心が危険だと言うことを重々承知していた。


 子供の好奇心には【知りたい事】【知りたくない事】の二択しか無いが、現実には【知らなくてはならない事】【知ってはならない事】や【知っておいた方が良い事】【知らない方が良い事】も有る。


 この中で一番重要なのは【知ってはならない事】と【知らない方が良い事】が存在する事の理解で、これらは故意に追求しない限りは姿を現さない場合がほとんどだ。


 それ故に昔から『好奇心は猫をも殺す』と言われている。


「警察では警視監二人。ひょっとすると警視総監までグルになって、この殺人行為を隠蔽している。賀茂さんは宮内庁だからソッチも?でも、そこまで抑えられるんだったら総理大臣の関与まで可能性は捨てきれないじゃない?」


 偶然に知ってしまったら【事故】として諦めて対処するしかないが、後先考えずに自分からソレを知りに行くのは愚かな行為でしかない。


「あと数ヶ月は現状維持って話で、考えましょうか」


 そうやって先伸ばしにして後悔するのも、また人間の愚かしい点では有るのだが。


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