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20 銃とネット

「話は変わるけど、銃の具合はどうよ?林原女史」

「確かに威力は有りますが、連射すると肩がもちませんね」


 警察では約38口径の拳銃を使用しており、44口径の銃などを射撃練習する場所は無い。


 今回、林原が練習に使用したのは、犯罪捜査で線条痕(せんじょうこん)を調べる為の(まと)に手を加えた物だ。

 犯罪には海外から持ち込まれた銃もある為に、それを検証する強度が与えられている。


「映画で車を止めた銃ですからね。反動も凄いんでしょ?」

「実際にはエンジンまでは行かないらしいですよ。ラジエーター壊してオーバーヒートで止めるくらいでしょ。反動は慣れですね」


 警察では、安定した射撃の為に両手撃ちを推奨している。

 片手撃ちは格好は良いが、安定性と正確性に欠けるので、片腕が使えない時にしか使用しない。

 もとより反動の大きな44マグナムは、大柄な男でも両手でないと当たらないらしい。


「今の私では、こんな感じですね」


 林原は汗を拭いてからイヤープロテクタを付けて、(まと)に向かって一発撃った。

 練習はしていたが、弾は的の中心を外れて外縁部に食い込んでいった。


「的から外れなくなっただけでも素晴らしい成長ですよ」


 よく見ると、的の周辺にも弾丸がめり込んでいる。

 林原が賀茂達の表情を確認したところ、ライナスの視線が44マグナムに向いているのに気が付いた。


「撃ってみますか?どうせ我々には【不干渉】ですから」

「良いのかい?俺は本職だし、肉体強化もされてるんだよ?」


 確かライナスは、本国では軍人だと言っていた。


「私は畑ちがいだから、ライナス君のお手並みを拝見したいね」


 賀茂もライナスの力量に興味がある様だ。

 ライナスは『仕方ないなぁ』と言った表情で、マグナムを手にする。


「片手撃ちですか?」

「我々の能力なら、ロケットランチャー(RPG)でも片手撃ちですよ。命中率は個人差がありますが」


 賀茂の説明が終わった直後に、ライナスの撃った銃弾は的の中央を撃ち抜いた。


「銃って、それぞれに微妙な癖があると思うんですけど?」

「林原女史が撃つのを見てたからね」


 人間の作った飛翔物は同じメーカーの同型でも、一つ一つに飛び方の癖が生じて、初めてでは狙った所には当たらない。

 違う型なら尚更だ。

 使用者は、その個体差を人力で微調整して使うのだ。

 普通の人間は道具にメモリでもない限り、自分で体験しなければ、その微調整ができない。


「やっぱり普通じゃないですねぇ、お二方は」

「何を今さら」


 林原は乾いた笑いを発するしかなかった。

 そう、彼等は自称【魔法使い】なのだから。


「流石に、これ以上練習すると腕が上がらなくなりますから、そろそろ帰りますよ」


 そう言って林原は、飛び散った薬莢を集めだした。

 44マグナムには、リボルバータイプとオートマチックタイプが有るが、林原の選んだのは弾数の多いオートマチックタイプだ。

 なので、撃つ度に薬莢が飛び出し散らばる。


「こんなに腕が疲れるなら、予備弾倉(マガジン)は要らなかったですね」

「なに、林原さんなら慣れますよ」

「いざとなったら、俺が代わりに使ってあげるよ」


 林原は悲観し、賀茂は励まし、ライナスは笑みを浮かべた。


「ライナスさんは、こんなの要らないでしょ?」

「でも、嫌いじゃ無いんだよ。反動がある物って実感があるじゃないか?」


 三人で関東地方をブラブラ移動しながら、毎週十人以上の人間を【処置】しているのを見ていると、何だかテレビゲームの様な感じを林原は受けていた。

 だから、次第に罪悪感も薄れてきている。


「ライナスさんの気持ちも分からなくはないですが、外で誰かに見られたら厄介なのでやめてくださいね」

「分かってるよ」


 林原は集めた薬莢を受付に渡して、我先にと射撃場をあとにした。







 大きな組織には、公になっていない部署が存在している事がある。


「三田監察官が降格になったらしいな?」

「どうやらパンドラの箱を覗こうとしたらしいですよ」


 窓の無い部屋でモニターを見ている二人のオペレーターがキーボードを叩きながら話している。

 この部屋には十数人のオペレーターが同様の作業をしていた。


 ここは、サイバー犯罪対策室より非合法な情報捜査を行う【調査室】だ。

 主にハッキングにより個人の携帯端末までも潜入して情報収集を行う。

 警視庁の管轄ではあるが、場所は新宿区のゲームセンターの地下にあり、電力は最寄りの駅や別区画にある複数のビルから専用回線で引いている。


「でも、三田警視の気持ちも分かるんだよなぁ。あの林原警部補のGPS情報は完全にブラックだぜ」

「何か掴んだのか?」


 【ブラック】と口にした男が首を左右に振った。


「状況証拠ばかりで【掴んだ】とは言えないが、まるでUAPでも見ている感じさ」

「人間UFOってか?で、何を知ったんだ?」


 もう一人の男がキーボードを叩きながら笑みを浮かべる。

 情報捜査する人間は、好奇心が抑えられない。


「都内街中での救急車要請での半身不随や死亡事例の発生場所。あと、自殺や交通事故での死亡事件の発生場所。この時間と位置情報がヤバイんだよ。それも多数」

「まさか、それと林原警部補の位置情報がか?」

「・・・・・・・」


 無言の意味は、もう一人にも理解できた。


「検死の結果に怪しい所は無いのか?件数が多いのなら、監視カメラに関与の何かが映ってるだろう?」

「それが有れば【UAP】なんて表現しないさ」


 正に【未確認異常現象】と表現するのが正しい状態だ。

 林原の位置は、路上に建物の中、電車やタクシーなどの乗物の中など、状況は多岐に渡るが現場の近くに居たのは間違いない。


「でも、【偶然】と言うには件数が多すぎる。だから【ブラック】なんだよ」

「お前の言う通りならば、そうなんだろうな?【グレー】なんてものじゃ無さそうだ。で、更に探るのか?」


 男は手を止めて首を横に振った。


「俺は三田警視の二の舞いにはなりたくないからな。興味があるのか?」

「データをもらえるか?」

「自己責任でやれよ。マスターデータは処分する」

「ありがとう」


 ローカルLANを通して、データが転送されてくる。


 データを受け取った男は眼鏡の縁を触って、送り主の方を見た。


「(面白い奴だったんだがなぁ)」


 一瞬だけ手を止めたが、再び画面に目を戻して、操作を始めだした。



 翌日、データを送った方の男は上番してこなかった。


「猫の手も借りたいのに、事故死とはな・・・」


 管理室長の愚痴が聞こえる。


 データを受け取った男は、空席を見てから再び眼鏡を触った。


「(使徒様は仕事が早いな。せめて【B】だったら保留だったんだろうが。さて、モードを第九班仕様にして映像の加工と、履歴の改竄をして上書きしないとな)あぁ、忙しい。忙しい」


 欠員が出ても、彼等の仕事が止まる事は無い。


 ここは、非合法な情報捜査室だ。

 犯人逮捕の為に消されたデータ復旧したり、メールに介入やデータの改竄もする。


 全ては一般市民を守る為だ。


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