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12 警察元同僚

 地方の警察を動かした事もあり、翌日の林原巡査は報告書の作成をしようと本庁へ向かっていた。

 現場でセンセーショナルな体験をした上に、慣れないヘリコプターの利用で当日の体力が残っていなかったのだ。


「あっ、そう言えば警察絡みの報告は日笠警視監へのメールで良かったんだっけ?」


 その事と、既に捜査一課には自分の机が無い事に気が付いたのは、彼女が本庁のロビーに到着した後だった。


「これってワーカホリックって奴よね?」


 実質二日目である昨日。

 疲労具合から、今日は休んで良いと賀茂に言われているので、彼等の事務所に行く必要は無い。

 今日の二人は銀行口座等の契約と、競輪や競艇だそうだ。


 林原はエレベーターに乗るのを諦めて、ロビーのソファに腰を下ろし、スマホのメールを起動した。


「あ゛~っ、本当にこんなので良いのかな?後は警視監殿が処理してくれるんだろうけど」


 送り終えたメールは、5Wと時系列、関係者等を完結に纏めたが、不可思議な内容の為に警察の報告書としては有り得ない物となっている。


 まだ疲れが残っているのか、ソファに身を沈めていると意識を失いそうになった。


「おやっ?誰かと思えば、栄転された林原美佐緒巡査殿ではありませんか?お珍しい」


 その声に覚醒して目を向ければ、捜査一課で同じ班だった元同僚達だった。

 勿論、【栄転】も【殿】も皮肉だ。

 一応は本庁捜査一課に籍を置いているので、本庁に居る事はおかしくはない。


「そう言う皆さんは【万年平巡査】の方々ではないですか?お元気そうで何よりです」


 林原も皮肉で返す。

 警視監から直接の指示があった林原の方が出世の可能性が高いと言えるからだ。

 当然、その事は元同僚も理解しているが、部署的には最前線を退いた様にも見えるからの皮肉だった。


「特別部署はお忙しいのでしょうね?出向なのに、こんな所にいらっしゃるなんて」

「皆さんと働いている時より忙しいですよ。毎日数名の殺人に関与してるし、傷も絶えない。職務中に競馬で大穴も当てるし忙しいったらありませんよ」


 林原は、大きめの絆創膏を貼った手で、財布の中から二十万円分の札束を出して見せた。

 管内では、そんなに殺人は起きていない事になっているし、大穴など当たるものではない。


 全てが本当の事だが、元同僚は虚勢を張っていると思ったのか、苦笑いをしながら去っていった。


「負け犬の遠吠えとでも思ったのかしら?真実を知らないのは平和で良いわよね」


 立ち去る元同僚達を、例の眼鏡で眺めて彼女は口にする。


「Dレベルが二人。でも、もう年とってるから放置かしら?だとしたらお子さん達が・・・」


 先日の【鬼】の両親も【Dレベル】だった。

 眼鏡は簡易版なので五段階判定しかできないが、実際には更に細かいレベルがあるらしい。

 元同僚の子供も必ずでは無いらしいが、可能性は消えない。


「御愁傷様ね。でも簡易的五段階って・・確か仏教にも五道ってあったわよね」


 初日以降、林原は宗教に関しても調べていた。

 チベットと中国、日本に伝わる仏教の教えに【五道(ごどう)】というのが有り、人間は善悪の因果により【天上】【人間】【畜生】【餓鬼】【地獄】の五つの世界に分けられると言う。


「五段階分けでBレベルの私が【人間】だとすると、多くの人達が【畜生】で、処置対象が【餓鬼】と【地獄】って訳かしら?」


 賀茂達は、既に【魔法使い】らしいので眼鏡には反応しない。


「しかし、【畜生】って・・・でも確かに・・・」


 日本では表面化していないが世界では、多くの人間が地位や財産を奪い合い、殺し合い、騙し合いをしている。

 それを見て【畜生道】とは言い得て妙でもある。


「確かに【畜生】までは現世の存在だしね。【餓鬼】や【地獄】って存在が否定されてるから【処分】が必要なのかも?それにBレベルの私が補佐になってるって、Cレベル以下は畜生だから手助けにもならないって事?」


 確かに、先ほど来た元同僚にBレベル以上は居ない。

 殺人に対応できる捜査一課でBレベルなのは林原巡査だけなのかも知れない。


「選定はたぶん賀茂さん。貴重な補佐だから優しい対応なのかな?」


 そうは言っても、障害になる様なら、すげ替えられるなだろう。

 公安やスワットなど、殺人に関与している部署は他にもあるし、それだけ探せば何人かはBレベルが居るに違いない。


「現状からいくら推測しても、どれもこれも推測の域を出ないわね。物証は何もないから立証はできないし」


 仮に街角の【処置】を殺人事件として立件しようにも、街角のセキュリティカメラには賀茂達が処置した状況は映っていない。

 【魔法】に関する事は、紫外線や赤外線が見えない様にカメラには映らない様だ。

 渡されたスマートグラスも電波状況が悪いトンネル等に入るとノイズが入るので、リモートで任意に止められるのだろう。

 林原に渡された辞令も、『他庁職員(賀茂重蔵)と協力して、指定された来訪者のトラブル対応』となっているし、相手は警視庁と宮内庁だ。


 口頭でのやり取りも言った言わないとなるし、賀茂達は機械への知覚もあるのか隠し録り時には言い回しを変えている。


「逃げれば【見たくもない物に関わらないけど社会的制裁】。逃げなければ【世界の真実を突き付けられるけど人並み以上に安泰】。精神的には前者だけど、後者を選ぶのが妥当よね」


 『寄らば大樹の影』なのか『毒を喰らわば皿まで』なのかは分からないが。


 林原は警視庁のロビーを移動する職員達を見回した。


「殆んどが【Cレベル】だけど、チラホラ【Dレベル】も居るわね。役職や能力、実績と善悪にも関係なく、粛清されていく・・いいえ、粛清されないといけないのね?・・どうしてこんな事になっているのかしら?」


 林原は、どうして遺伝子異常が起きているのか知らない。

 深みにはまらない様に聞く気もない。

 勿論、先日の様な【変異】を起こさない様に【処置】している事も知らなかった。

 確かに【変異】の現場を見せる事は、町中で行われている【処置】を受け入れる為には必要だっただろう。

 しかし・・・・受け入れ難いのは変わらない。


「遺伝子異常は放射能の影響でも起きると聞いているけど、長野に原発とか無かった筈よね?都内でもDレベルは居るし、原因は他に有るのか、自然に発生しているのか?」


 だが林原は、昨日の賀茂が言っていた言葉を思い出した。

 気が動転していたので記憶は定かではないが。


「確か昔話の【鬼】と同じものだとか違うとか言っていた様な?」


 昔話だけではなく、神話にも鬼の存在は語られている。

 平安時代に安倍晴明の様な陰陽師が鬼を使役していたとの話もある。


「昔から、こんな変異が起きていたとしたら、生物的な劣性遺伝子みたいな物なのかしら?」


 林原の予測は的外れなのだが、その是非を告げる者はいない。


ゴホッ、ゴホッ


 館内に咳をする音が響いた。


 衛生管理レベルの高い日本でも、毎年の様にインフルエンザが流行し、最近はタイプが変化したコロナやコレラなども出ている。


「また、新しい予防接種をするのかなぁ」


 新型コロナ以降、それまでは使われなかったmRNAワクチンが主流となりつつある。


 林原が求める答えは意外と身近にあったのだが、誰もソレを教えず、彼女も聞こうとはしなかった。


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