表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

01 異世界転移?

 その時、ライナス・マクビーは暴風の中に居た。

 それは、嵐と言うよりはスカイダイビングや生身での高速空中移動に近い。

 彼方には棒の様に尖った山々が見えている。


 彼は、急な状況の変化に気が動転し、上下感覚すら狂って何をしたらいいか分からなかったが、遠くに賀茂重蔵(かもしげくら)の姿を見付けて力場を調整する事を思い出した。


「(くそっ!まだ人間だった頃の感覚が抜けてないのか)」


 賀茂との距離は1キロ近くあるが、空気の流れを操って近くに近付きつつあった。


『馬鹿野郎!だから無闇にアレに近付くなと言っただろうが』


 賀茂から念話の様な物が届く。


「Where am I すみません、ここは?」

『話は後だ。兎に角、地面に降りろ』


 頭上に地面が流れる様に見えるが、自由落下しているよりも遅く近付いている。

 力場を操作して相対速度と方向を合わせ、何とか着地に成功した。

 パラグライダーやハンググライダーでの着地に似ているが、彼等は道具が無くともソレができるのだ。


「(力の掛かり方が以前よりも強い感じがしたな)賀茂さん、ここは何なんですか?空は青くないし、太陽?は黄色いし、地平線の感じも変だ。まるでSFに出てくる円筒形のスペースコロニーみたいに」


 地平線は空に向かって競り上がり、穴の様な所から太陽光が差し込んでいる。

 オレンジ色にも見える人工太陽の様な物が、頭上の真上に見えていた。

 世界の裏事情を教育されてきた彼だが、未だにスペースコロニーが完成したと言う話は聞いていない。


「俺も初めてだが、多分ここは【地球】だよ。但し【常世】側のな」

「【トコヨ】って【アストラル界】とか【アースガルズ】とかの事でしたっけ?」

「ああ。その見解で間違いない。我々の主人達がやって来た側の地球だよ。宇宙的には同じ位置にある擬似的亜空間って感じかな」


 神話の時代に、神の住む世界と人間の住む世界は同じ空間に有って繋がっていたのだが、神々からの支配を受けるのを嫌がった人間が、一部の神の慈悲を利用して世界を分断させたらしい。


 日本では、神や霊的存在の居る世界を【常世(とこよ)】と呼び、人間が現在住んでいる世界を【現世(げんせ)】や【現し世(うつしよ)】と呼ぶ。

 本来の(つね)なる世界から【(うつ)した】という経緯から、ウツシヨと呼ばれているとの説を彼等は主人達から聞いている。


 実際に惑星を二つに分けると、公転速度と質量の関係で公転軌道から外れてしまうので、【擬似的】な分断でしかない。


「でも、あの強風は何だったんでしょうか?ジェット気流にでも巻き込まれた感じでしたが」

「俺も初体験だけど、あれは地球(うつしよ)との自転軸のズレが原因だと思うよ」

「同じ位置に有るのに、自転軸がズレてるだけで、ああなるなんて・・・・」


 ギリシャ神話の【パエトンの墜落】をはじめとして、地上から見た太陽や星の動きに急変があった記述は存在する。

 アトランティス大陸が赤道近くにあったという記述に対して、自転軸の変動で南極大陸になって大量の水(雪)の下に沈んだと説く者も実在する。




 現実として、椅子に座っている我々は「動いていない」と自覚している。

 車や新幹線に乗って窓の外の風景を目にして、やっと「座ってるけど動いてる」と自覚できている。


 天動説が否定されて地球が回っていると頭で分かっていても、我々には「動いている」と認識するのは難しい。


 天文学的に見れば、地球の自転により赤道直下では音速を超える1,674.4km/h(マッハ1.36)で移動している事になる。

 それは、地球では中緯度である日本でも1,374km/h(マッハ1.12)に至る。

(音速1,224km/h)


 だが本当は、こんなものは序の口なのだ。

 地球が太陽の周りを回る公転は音速の33倍に及び、太陽系が銀河系を公転する速度は音速の617倍以上となっている。


 公的にも地球人はマッハ600以上で動き続けているのだ。


 同じ地球の日本から赤道直下へもユックリ移動できているので、速度の違う幾つもの【歩く歩道】を順番に渡り歩いている様なものなので、時速300キロの速度差も気にならない。

 だが、これが【転移】や【テレポート】と呼ばれる瞬間移動だと話は変わる。

 駅のホームから、通過で高速移動している上海リニアモーターカーに飛び乗る様なものだからだ。


 身近な、地球から月面への転移でも、到着した現地では超音速の相対速度差は免れない。

 着いた途端に、思わぬ方向への高速移動に見舞われる。


 SFや物語りで語られる別の宇宙や別の銀河系だったりすると、先の自転と二種類の公転がミックスした複雑なマッハ600が明確に影響してくる。

 銀河の回転方向が逆だったりすれば、その倍の相対速度が生じてしまうのだ。

 転移先に何か物体や天体が有れば、認識不能な速度で衝突してくる。


 転移させてくれる存在が、高度な知性と能力を持っていて、尚且つ技術を振り絞らないと、転移した存在はミンチになる訳だ。

 これが知性も無い自然現象による転移ならば、即死は免れない。


 これはタイムトラベルも同様で、一秒後の現在位置は210kmの彼方なのだ。

 一年前や一年後にタイムトラベルしたら、太陽すら見失う一億キロ離れた星の彼方へ放り出される。

 走っている電車から一旦飛び降りれば、同じ電車の同じ車両には乗り移れない。

 同じ日本の一年前にタイムトラベルできると思っているのは、無知か自己中な者でしかないのだ。


 勿論、子供や妄想家は【不思議な力が働いて】と 言う御都合主義で納得しようとするだろうが。




「我々が普通の人間だったら衝撃波でバラバラになるところでしたね」

「でも、ああいった自然発生のゲートを無事に通過して、運良く常世に着く人間も数パーセント居るらしい」

「数パーセント?本当に【運】ですね。でも・・・」


 気流の流れによっては、相対速度が遅い場合も有るらしい。


「でも、常世の住人が現在の地球で長居できない様に、普通の人間もコッチでは息もできないんでしょ?」

「そうらしい。俺等は、どちらでも生きていけるように【改造】されてるから平気だけどな」


 研修生ライナス・マクビーと、その指導員になった賀茂重蔵は、この【常世】から来た存在に生体改造を受けた特殊な人間で【使徒】とも呼ばれている。


「本当に、いきなり大変な所に来ちゃったな?これって不法入国にならないですかね?」

「確かに早く戻らないと問題に成るな。そもそも、何でゲートに近づいたんだ?」

「いや、味方の識別出してなかったんで、敵対勢力かと思って手柄を焦りました」


 現世に来ている存在にも幾つかの勢力があり、常世においても全ての勢力が自分の主人達に好意的な訳ではない。

 現世側に進出した者達でも御互いに牽制しあっており、その手駒として(ライナス)等が改造された意味合いも有る。


 この話題に出た【ゲート】とは、無理矢理引き離した二つの世界が弾みで繋がってしまう自然現象や、魔法陣などで繋げた空間の裂け目で、地球における行方不明者の消失原因や、異界の存在が現れる切っ掛けとなっている。


 特殊な力を使える様に改造された彼等は、体内にゲートを開き、常世から【魔力】を引き出して使う事ができるのだった。


「新米の君は、行動の前に指導員である私に報告と相談をする義務がある。本国で報連相は習わなかったのか?ライナス君」

「面目ない」


 指導員の賀茂重蔵は外観こそ二十代の青年だが、その実は五十過ぎのベテラン使徒だ。

 ライナスは改造されて日が浅い為に、勢力争いの激しい本国から、面積当たりの使徒の割合が高く勢力的に安定した日本で研修を受けていたのだ。


「でも、何で転移に抗えなかったんだろう?」

「習って無いのか?体内のゲートと共鳴して、自然発生のゲートが活性化したんだろう。いきなり近付き過ぎなんだよ。本物の敵や使徒と異常接近した時も同じ現象か起きやすいから注意しろ」

「それで先輩はゲートを閉じてたんですね?本当に面目ない。以後は気を付けます」


 使徒同士が近づいても御互いに制御ができるが、自然発生のゲートはソウはいかない。

 いきなり転移力が増大し、ブラックホールの様に吸い込むのだった。


「どうやって帰りましょうか?」

「一応は常世(こちら)からの転移術式は知っているが、たぶん構成と考察に時間が掛かる。幸いにも我々は現世(むこう)側の人間だから、復帰力が働くだろうし」

「それでも、一人分の容量(キャパ)じゃ駄目じゃありませんでしたっけ?」

「だから、俺も飛び込んだんじゃないか」

「本当に面目ないです」


 賀茂にはライナスを見捨てる選択肢も有ったが、指導員である彼のキャリアに傷がつくのも嫌だし、召喚や生け贄の儀式は複数で行うものと相場が決まっているからだ。

 それは、力場の共鳴によるパワーアップが有るからだった。


 単独で行う儀式魔術においても、名前や色、数や音、図形等を用いた共鳴で力を補っている。


「ライナスを助けるには、複数である方が合理的だっただけだ。だが、ここでも出来るだけ力を使わないで隠行(おんぎょう)に勤めろよ」

「了解です、賀茂先輩!」


 ライナスは、溜め息をついて天を仰いだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ