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プチギャンブル

作者: さちほ

SNSで里香の子供の投稿を見て、なんと無しに目を閉じて里香との出会いを思い出していた。

里香とは会ったことも、話したこともない。

が、小学生の頃からの付き合いになる。

かれこれ30年近く経とうとしていることに驚くが、程よい距離感を保ちながら私たちはその時々の悩みや近況を報告し合ってはお互いを励まして、気がつけばいい年の大人になっていた。


会ったことはないが、里香の文字のクセや写真の写り方まで、身近な友達レベルで思い出せる。

気がつけば好きなドラマやアーティストや有名人も一緒で今となっては示し合わさなくても、フォローしている著名人は里香とダダ被りな具合だ。


出会いは雑誌の後ろの方に載っている文通コーナーだった。

今でも覚えている。

私はラジオが流れる自分の狭い部屋の中、机に向かい、時間をかけて丁寧に当時人気のあったキャラクターの便箋に手紙を書いた。

自分のことをどこまでリアルに描写できるているのか、はたまた、見知らぬ人に対してどこまで自分のことを書いて良いのかわからず、作文や手紙を書くことは得意な方だった私でも時間がかかったし、とにかく生まれて初めての感覚だった。

友達募集しますという雑誌の記事を見て、ザクっとしたプロフィールだけで判断し、自分の勘だけをたよりに立候補して申し込むという不思議なスタイルだったが、その時の私はなぜか前向きだった。

ある意味、自分自身に対しての賭け事のようなきっかけではあったが、それでも私は友達が欲しかった。

誤解を生む言葉だが、学校に友達がいなかったわけではないが、本音を話せる友達がいなかったのは事実。

学校ではどこか気を遣って、譲っているばかりの自分で、本来の自分ではないと思いながらも、自分で築き上げたイメージを壊せなくなっていた。

だから、素直に自分のことを話せる友達が欲しかったのだ。


缶ビールを飲みながらそんなことを思い出していたら、少しどこか吹っ切れている自分がいた。


始まりなんてどんな形でも良い。


と、思ってはいたものの、どこか見栄を張っていた。

出会いの形なんて、何でも良い。

理想の出会いが、理想の相手との出会いとは限らない。

どんなに不細工な出会い方でも、格好良くない出会い方でも、気がつけば最高のパートナーになることだってざらにある。


今の彼と婚活アプリで出会ったことをどこか隠している自分がいたが、里香と出会えたことと一緒。

里香はこんなにまで心強い。

そして、アプリで出会った彼は今の私の一番の味方だ。

彼との出会いを聞かれると誤魔化していたが、もうそんなことする必要もない。


昔の自分を思い出して、今の自分に少しだけ自信が持てた。

過去の、ましてや小学生の頃の自分自身の行動に大人になった自分が背中を押されるなんて思ってもいなかった。

思いもよらない小さなことでも、自分が勇気を振り絞って少しだけ踏み出したことが、後々、大きくプラスになって自分に返ってきた瞬間、私はまた強くなった。

しばらく忘れているようなことでも、何かをきっかけに思い出すだろう。

当時の自分には感謝しかない。

自分だけにしかわからないこの感覚、いつの日かまた思い出して、当時の感覚に再会できるだろうか。

再会できた時、きっとまた私は強くなる。


小さなあの自分の部屋で縮こまって手紙を書いたこともすべては直感を信じたからこそ。


当時、文通からスタートした私達は時代の目まぐるしい進化に伴い、その形はベル友になり、メル友になり、今はお互いのSNSをフォローし合っている。

出会いはどうであれ、環境が変化しても、私達の関係性は変わらなかった。


最近どこか自分自身に引いていた自分が嘘のように、彼の声が聞きたくなって電話をかけていた。

前までの私なら、用事がないのに電話したら迷惑だと思い込んでいたが、今は違う。

声が聞きたくなったことだって立派な電話の理由だし、そもそも理由付けしなくて良いはずだ。


これからも私は、思いもよらない自分自身の小さな前向きな賭け事に背中を押してもらって、少しずつ私らしさを取り戻して強くなるだろう。

きっかけは、いつもちょっとした賭け事のようなもの。

あの時、まだ見ぬ里香に向けて手紙を書いたことも、彼からの食事の誘いにのったのも、すべてきっかけは先の見えない小さなギャンブルだった。

だから次もまた、いつやってくるかわからない、意外と色々なところに潜んでいるギャンブルにまた勝ってみせる。

きっと勝ち進んだ先に自分の人生が開けていく。


いつもの自然なトーンで電話に出た彼の声を聞けた途端、一気に肩の力が抜けた。


小学生の頃、ペンを走らせていたあの小さな部屋で唯一の相棒だったラジオからよく流れていた懐かしいあの曲が彼の電話の後ろからも聞こえた気がした。

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